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『キングオブコント』王者のシソンヌが遅咲きブレークを果たした理由

ラリー遠田作家・お笑い評論家

長谷川忍とじろうの2人から成るお笑いコンビ・シソンヌは、実力派のコント芸人として若手の頃から業界内では高く評価されてきた。特に、じろうが演じるかわいげのある中年女性や社会不適合者っぽい高齢男性のキャラクター造形は絶品だった。

しかし、見た目や芸風がやや地味だったこともあり、伸び悩んでいる時期が長かった。2014年にはコント日本一を決める『キングオブコント』で優勝を果たしたが、その後もテレビにはなかなか出られなかった。

だが、最近になって、じわじわと仕事が増えてきている。役者としての評価が高まり、NHKの朝ドラや大河ドラマを含む数々のドラマに出演を果たした。また、テレビ業界全体でコント要素の多いバラエティ番組が増えてきたため、そういうところで彼らが起用される機会も多くなっている。

『有吉の壁』で実力を発揮

中でも特筆すべきは日本テレビの人気番組『有吉の壁』での活躍である。彼らはレギュラーで出演しており、ロケ現場やスタジオでコント仕立てのパフォーマンスを披露している。

『有吉の壁』に出る芸人の中には、とにかく明るい安村やパンサーの尾形貴弘のように人間味で勝負する「情念型」と、精巧にパッケージングされたネタを見せる「作品型」がいるが、シソンヌは後者に属する。この番組は変則的な形のコント番組であるため、彼らがのびのびと本来の実力を発揮できる。

シソンヌのコント芸人としての強みは、演技力の高さと引き出しの多さである。クセのある人物を演じるじろうに対して、長谷川が安定感のある落ち着いたトーンのツッコミを繰り出す。どちらも演技が上手いので、見る側が違和感なくコントの世界に入り込める。

また、細かい動きや表情で楽しませる演技重視のコントもあれば、単に設定がバカバカしいコントもある。ネタのバリエーションが豊富で飽きさせない。

長谷川は次世代MC芸人の注目株

さらに、最近では長谷川が単独でバラエティ番組に出演する機会も増えてきている。指原莉乃やフワちゃんといった売れっ子と仲が良く、ファッションにも精通していて感覚が若い上に、ワードセンスがあってツッコミや仕切りも上手い。

シソンヌのコントの中では、ボケ役のじろうのエキセントリックな存在感が際立っているので、ツッコミ役の長谷川がやや地味な印象に見えるかもしれないが、実は器用に何でもこなせるタイプの芸人である。

今年4月に始まったフジテレビのゴールデン番組『呼び出し先生タナカ』では、MCの田中卓志の横で「副担任」というポジションに就いている。なにわ男子の大橋和也と定食屋で理想のメニューを決めるバラエティ番組『黄金の定食』(テレビ東京)も話題になった。すでに次世代のMC候補としてテレビ業界では目をつけられている。

テレビでお笑い番組が増えて、純粋な芸人としての実力が評価されやすい時代が訪れたことで、シソンヌが日の目を見るようになった。ずっと時代に乗り遅れていた彼らが、これからは時代を引っ張っていく存在になるだろう。

作家・お笑い評論家

テレビ番組制作会社勤務を経て作家・お笑い評論家に。テレビ・お笑いに関する取材、執筆、イベント主催など、多岐にわたる活動を行う。主な著書に『松本人志とお笑いとテレビ』(中公新書ラクレ)、『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと『めちゃイケ』の終わり<ポスト平成>のテレビバラエティ論』(イースト新書)、『逆襲する山里亮太』(双葉社)、『なぜ、とんねるずとダウンタウンは仲が悪いと言われるのか?』(コア新書)、『M-1戦国史』(メディアファクトリー新書)がある。マンガ『イロモンガール』(白泉社)では原作を担当した。

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