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投票に行っていない若者が重視する選挙の争点はなにか?(目指せ!投票率75%プロジェクト)

室橋祐貴日本若者協議会代表理事
「目指せ!投票率75%プロジェクト実行委員会」

9月24日、次期衆院選、その次の参院選で投票率向上を目指す、「目指せ!投票率75%プロジェクト実行委員会」は、若者や現役世代が関心のある政策分野について調査した結果を発表した。

アンケートは8月末に実施し、6日間で回答は約4万5000件集まった。若年層(30代以下)が回答の約75%を占め、8割ほどが女性。

その結果は、HPで公開しているため、そちらをご確認頂きたいが、本稿では、若年層(30代以下)×非投票層(選挙権がありながらもこれまで投票に行ったことのない層)に絞って、結果を紹介したい。

※元データはHPで公開していないが、筆者は「目指せ!投票率75%プロジェクト実行委員会」に実行委員として参加しており、独自でデータを分析し公表している。

「目指せ!投票率75%プロジェクト実行委員会」
「目指せ!投票率75%プロジェクト実行委員会」

半数以上が今年の秋に衆院選が行われることを知らない

今回のアンケートでは、回答者の9割以上が「投票に行ったことのある」層だったが、本プロジェクトのメインターゲットである「投票に行ったことのない」層はどこに関心を持ち、なぜ投票に行っていないのか、それを本アンケートのクロス集計により明らかにしたい。

まず、そもそも選挙が行われることを知っているのか。

全員を対象にした結果では、今年の秋に衆院選が行われることを「知らない」のはわずか21%で、ほとんどが「知っている」結果となった。

「目指せ!投票率75%プロジェクト実行委員会」アンケート結果
「目指せ!投票率75%プロジェクト実行委員会」アンケート結果

一方、若年層×非投票層に限定すると、半数以上(54%)が「知らない」結果となり、普段から政治ニュースにあまり関心がない、リーチできていないことが明らかになった。

「目指せ!投票率75%プロジェクト実行委員会」アンケート結果
「目指せ!投票率75%プロジェクト実行委員会」アンケート結果

今回のアンケートに回答している時点で、比較的社会問題に関心のある層だとは思われるが、それでも半数以上が「知らない」ということは、メディアの報道量の少なさや日常的な会話において「政治」の話がいかに出てこないかが窺える。

直近の国政選挙である2019年参議院選挙時のNPO法人ドットジェイピー長崎支部の調査でも、長崎大の学生7割が投票日さえ知らないという結果が発表されており、まずはその周知から始めないといけない段階になっている(投票日「知らない」7割 NPOが長崎大で学生131人調査)。

関連記事:10代の投票率は3分の1以下。主権者教育と政治報道を抜本的に見直さないと若者の投票率は上がらない(室橋祐貴)

「現役世代の働く環境を改善」に強い関心

続いて、この層が関心を持っているトピックを見ていきたい。

「今回、あなたが『最も重要』だと思う政策分野を一つ選んでください。」という質問に対しては、全体と同じ「現役世代の働く環境を整備」が一番関心の高い政策分野となった。

ただ、全体が18.3%という割合だったのに対し、若年層×非投票層では、27.4%と10ポイント近くも上がり、賃金や長時間労働などの労働環境に関して強い関心があることが浮き彫りになった。

・現役世代の働く環境を改善(27.4%)(全体18.3%)

・コロナ対策(16.2%)(17.8%)

・消費税含む税制改正(12.3%)(13.5%)

・貧困問題・格差是正(10.0%)(11.2%)

・非正規や派遣労働の労働環境を改善(5.6%)(5.4%)

・教育や若年層の学びや将来を改善(5.6%)(6.7%)

・子育て環境の改善(5.3%)(6.2%)

・ジェンダー平等(4.5%)(4.9%)

・安心・安全な老後の実現(3.2%)(2.3%)

・少子化対策(2.0%)(2.5%)

・LGBTQ、外国人等の待遇改善(1.6%)(1.8%)

・いじめ・ハラスメント防止(1.3%)(0.6%)

・日本の外交と安全保障(1.0%)(2.0%)

・文化・スポーツ政策(0.6%)(0.4%)

・憲法改正(0.5%)(1.4%)

・環境問題・気候変動(0.5%)(1.5%)

・防災・復興政策(0.5%)(0.7%)

・障がい者福祉(0.4%)(0.4%)

若年層×投票層で絞っても、「現役世代の働く環境を整備」は20.7%で、もっとも関心の高い政策分野ではあるものの、非投票層の方がより労働環境に関心が強い、おそらくは余裕がないことが窺える。

ただ、若者世代の投票率は過半数を割っていることからわかるように、必ずしもこの層が「貧困層」というわけではなく、全体的に中間層が没落しており、中間層でさえ生活に余裕がないというのが現状になっている。

下図が示すように、30歳台前半の男性の年収は、1997年には500万円台の年収がもっとも多かったが、2017年には300万円台がもっとも多くなり、年収400万円以上の割合も15ポイント程度減っている。

教育費負担軽減や現役世代への再分配強化を求める声

個別テーマに関する意見を聞いた項目では、ほとんどの項目で、「とてもそう思う」という回答は非投票層の方が少なかったが(これは、比較的政治への関心が弱く明確な意見を持っていないからだと思われる)、「教育無償化など教育費の負担軽減を進めてほしい」、「もっと若者や現役世代に税金を使って欲しい」、「投票しやすいシステムにしてほしい(デジタル投票の実現や、大学や高校、コンビニに投票所を作る等)」においては、非投票層の方が「とてもそう思う」という回答の割合が高くなった。

このことからも、やはり目の前の生活改善を求める声が強いことが窺える。

また、労働時間が長い人の方が投票に行くコストは相対的に高くなるため、投票しやすいシステムを求めるのも必然のように思える。

「目指せ!投票率75%プロジェクト実行委員会」アンケート結果
「目指せ!投票率75%プロジェクト実行委員会」アンケート結果

「目指せ!投票率75%プロジェクト実行委員会」アンケート結果
「目指せ!投票率75%プロジェクト実行委員会」アンケート結果

「目指せ!投票率75%プロジェクト実行委員会」アンケート結果
「目指せ!投票率75%プロジェクト実行委員会」アンケート結果

政治家への強い不信感

日々の生活への不満は大きい。

にもかかわらず、なぜ投票に行かないのか。

その理由は、自由記述の内容を見ていくと、浮かび上がってくる。

やや長いが、いくつか特徴的なコメントを引用したい。

最後に次の衆議院議員選挙に向けて政治や候補者に伝えたいことがあればご自由にお書きください。(自由記述)

誰がなっても、変わらない

高齢者の方はとても大切だが…、働く世代にワクチンが足りず打てない状況なのは、おかしいと思う。高齢者の方より、働く世代の方が、外に出る機会が多いので、コロナがこれだけ増えるのは当たり前だと思う。

税金から給与をもらっているのだから真面目にしごとして。給与さげて。人員多すぎのため減らして。国会議員の主権制限をして欲しい。例えば、裁判中でも給与が支給されるなどの権利を失くす等。無駄な答弁が多い。

・各候補者把握してる時間がない為、選挙に参加していない。

一人一人の投票が未来を変えるとは言われるが、あまりにもイメージができなさすぎる。非現実的。

実際誰になっても変わらないし、未来への期待なんてしていない

ろくな政治家がいないのに選挙も何もあったもんじゃないじゃ?あと選挙カーは煩いので廃止して欲しい。

・給与や特権がなくとも日本を良くしたいと思う政治家に次代を決めて欲しい

・今までも政治に不満がなかったわけではありませんが、コロナ禍で問題意識が高まりました。前提として、今まで投票をしていなかった私が悪い。ただ、昨今の若者をとにかく悪者にする風潮や、コロナ対策に対する方針のチグハグさ、またビニール袋の有料化に関する効果開示がないことなど身近な話を通して、政治への失望感は高まる一方です。でもどこに投票すれば"まだマトモ"なのか時間をかけて調べないと分かりません。物理的に忙しく投票に行くのもハードルが高い。睡眠時間4〜5時間で家事や仕事をしている身からすると、将来の自分への投資よりも、直近の体調を優先してしまうのが正直なところです。

・街頭演説でよく見かける、他の候補者を貶めるような主張は候補者本人の信頼を損ねる材料となるだけなので良い加減やめた方がいい。他者を下げて相対的に上がろうともなんの意味もない。自身の政策がいかに重要か語る時間に充てるべきだ。

・月収25万円です。収入のほとんどが税金や保険料に取られてしまうため、手取りが少なく教習所に通えるお金や生活費の確保等が厳しいです。

若者の○○離れ、ではなくそこへ投資するお金が全く確保ができない状態です。

・どういった政党があるのか、また候補者を支持したら一体どんな待遇が得られるようになるのか、これらについてより分かりやすく、詳しく知れるようになったら多くの若者が投票に参加するのではないかと思います。

私も含め、一部の若者が投票に参加しなかったりするのは「一体どんな政党で何をしてくれるのか?選挙に投票することでどんなメリットがあるのか?」を知らないからだと考えています。

・街頭演説、選挙カーは迷惑なのでもうやめてほしい。なにを言っているのかわからない。SNSなど文面で主張してかれた方が理解しやすい

期待はしてないから悪いようにはしないでください

正直信頼していません。候補者の皆さんが出す政策もどうせ無理だろと思っています。でも私にそう思わせてるのは過去の政治家達のせいです。今回の選挙の候補者である皆さんが当選した際には、国会中に居眠りしない、他の議員さんを傷付けるだけの不要な野次は控える等の人として最低限のマナーを守り、国民に対して誠意を見せて頂きたいと思います。政治家の皆さんは議員である間は私たち国民の代表である事を一瞬たりとも忘れないで頂きたい。

・例の、河合夫妻を選出する羽目になった広島県の出身です。厳しいようですが、今の政治にはがっかりしています。地方の首長にはもっと住民のことを考えている人が沢山いますが、やはり全国規模となると責任感も薄れるのでしょうか。一人一人、プライドや保身抜きで今一度考えてほしいです。

私たちの声はどれほど届いていますか。人生で掲げてきたマニフェストは何%達成しましたか。輝かしい理想や目標を語るのは、学生にだってできます。肝心なのは、政治家にしかできないのは、行動です。たとえそれが地味であっても、実績と、現実的な目標(実現可能性を添えて)を訴えていただきたいです。

・たまたまこのページを見かけて1から回答しました。国民と政府との差をこのコロナ禍でとても感じました。正直見当違いなのでは?遅いのでは?という政策が本当に多々ありそんなに難しいこと?こうすればもっと良くなるのに、などまだ社会経験も乏しくそこまで詳しく政治に積極的にもなれていない私ですが、ワクチンだったり環境の問題であったり、「○○年までに○○します」ということを言うのであれば更に変化が目に見えるように若い人がふとテレビを見た時にすごい!こんな事進めてたんだ、頑張って欲しい。となるような動き・発信をして欲しいと思います、現状一切期待が持てません。誰が選ばれてもどうせ大して変わらない、そんな気持ちです。

・選挙候補者が皆、歳が上すぎる(70歳以上等)。そのため考え方が古かったり硬かったりしいつまでも政治が発展しない。

歳の上限50歳未満などを設けるべきだと思う。

また、選挙に行かない理由の一つに、投票したい政治家がいないことが1番の理由である。業績等を含めて、まともな政治家が正直いないと思っている。

・10年近く働いても手取り20万もないような若者がたくさんいることを踏まえた政治をしてほしい。結婚や出産、家や車を買うなどどれも簡単なことではないですし、挙句ボーナスからも税金を引かれてはとても欲しいものなど簡単に買えません。経済をまわすのが難しいということです。老人を蔑ろにしてほしいわけではありませんが働き下がりの20〜40代でなくてもせめて未来ある子供たちに手厚い政策を願います。今のままでは長く生きたいとも思えませんし将来に希望や夢など抱けません。老後など不安しかないです。

・仮でもいいので掲げるマニフェストに対し、どのような過程、どの程度の資金を投じて実現を目指す見込みなのかを合わせて示していただきたいです。

現状耳触りの良い理想論ばかりに見え、現実味を感じられません。

例えば月○万給付とか嬉しいことなのは確かですが、

どこの財源からどのくらい使って実現する、こういう根拠から給付によるこんな経済効果が見込める計算だ、的なとこまで詳細に現実的な工程を表明していただきたく

上記のような詳細部分の密度がなく、気合と根性で実現します〜みんなも嬉しいでしょ??だけだと正味まぁ嬉しいけどそれやるの無理だろ、と感じ候補者選定に労力を割く気が起きません。

こうした記述ばかりをピックアップしているわけではなく、ほとんど全ての記述が、政治家への不信感を語っており、投票に行かない理由も政治家への不信感、期待の無さからだということがよくわかる。

ただ実際は、真面目に働いている政治家も多くいるが、基本的にはスキャンダルなど(非日常的な)ネガティブな出来事がニュースになることが多いため、マイナスなイメージが強くなっていると思われる。

これを変えるには、主権者教育において、現実的な事象を取り扱い、政治家の実際の活動や実現した政策の成果などについて知ること、日々のニュースにおいて、スキャンダルや政局的な場面だけでなく、真面目に政策的な議論をしている様子や、政治家個人の成果を取り上げる機会をもっと増やす必要があるだろう。

たびたび記事で主張している内容ではあるが、やはり主権者教育と政治報道の抜本的な見直しが必要だと再認識する結果となった。

関連記事:10代の投票率は3分の1以下。主権者教育と政治報道を抜本的に見直さないと若者の投票率は上がらない(室橋祐貴)

日本若者協議会代表理事

1988年、神奈川県生まれ。若者の声を政治に反映させる「日本若者協議会」代表理事。慶應義塾大学経済学部卒。同大政策・メディア研究科中退。大学在学中からITスタートアップ立ち上げ、BUSINESS INSIDER JAPANで記者、大学院で研究等に従事。専門・関心領域は政策決定過程、民主主義、デジタルガバメント、社会保障、労働政策、若者の政治参画など。文部科学省「高等教育の修学支援新制度在り方検討会議」委員。著書に『子ども若者抑圧社会・日本 社会を変える民主主義とは何か』(光文社新書)など。 yukimurohashi0@gmail.com

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