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海自の最新鋭潜水艦たいげい型4番艦「らいげい」進水 高出力の新型ディーゼル機関を初採用

高橋浩祐米外交・安全保障専門オンライン誌「ディプロマット」東京特派員
海自潜水艦たいげい型4番艦「らいげい」(「自衛隊協力会 はぎの会」写真提供)

海上自衛隊の最新鋭潜水艦の命名・進水式が10月17日、川崎重工業神戸工場で行われた。「らいげい」と名付けられた。同工場での潜水艦の進水式は2021年10月の「はくげい」以来で戦後31隻目。

海上幕僚監部広報室によると、艦名の「らいげい」は漢字では「雷鯨」と書き、力の象徴としての雷と鯨を組み合わせた。旧日本海軍などでの命名実績はない。艦名は海自の部隊などから募集し、各種検討を踏まえた結果、木原稔防衛相が決定した。

らいげいは、日本の主力潜水艦そうりゅう型12隻の後継艦となる最新鋭たいげい型潜水艦の4番艦だ。全長84メートルと全幅9.1メートルは、そうりゅう型と同じだが、深さは10.4メートルとなり、そうりゅう型より0.1メートル大きい。海自最大の潜水艦となり、艦内容積が増す。基準排水量も3000トンとなり、そうりゅう型より50トン多い。建造費は702億円。乗員は約70人。女性乗員最大6人のための専用の居住エリアを設置する。

令和2(2020)年度計画潜水艦であるらいげいは2021年3月に起工された。今後、内装工事や性能試験を実施し、2025年3月に海上自衛隊に引き渡される。配備先は未定だ。

●らいげいもリチウムイオン蓄電池搭載

そうりゅう型はディーゼル潜水艦で、低振動で静粛性に優れ、世界有数の高性能艦として知られてきたが、たいげい型は、その性能向上型となる。そうりゅう型に比べ、探知性能や被探知防止性能が向上した。新型戦闘管理システムの採用によって、より高度な情報処理能力を有しているのも特徴だ。

たいげい型は、そうりゅう型11番艦おうりゅう、12番艦とうりゅうに続き、GSユアサが開発したリチウムイオン蓄電池を搭載し、ディーゼル電気推進方式の通常動力型潜水艦となる。リチウムイオン蓄電池は、従前の鉛電池の2倍以上のエネルギー密度を持ち、水中航続力を向上させる。リチウムイオン電池技術を採用し、ディーゼルエンジンを使う通常動力型潜水艦は、日本が世界で初めてだ。

1番艦たいげい、2番艦はくげい、3番艦じんげいまでは主機関にV型12気筒の川崎重工業製12V 25/25SB型ディーゼル機関2基を採用してきたが、4番艦らいげいからは、大型化したエンジンと関連装置を有する高出力の新型の川崎12V 25/31型ディーゼル機関を初めて搭載した。これは、発電効率を強化した新しいスノーケル(吸排気管)システムに対応した新型ディーゼルエンジンがいよいよたいげい型4番艦から導入されたことを意味する。

川崎重工業は「潜水艦用ディーゼルエンジンは吸排気圧力が過酷なスノーケル運転を可能とするべく、水上艦用ディーゼルエンジンにはない特殊な機能に特化されたディーゼルエンジン」と説明する。

4番艦らいげいから新型ディーゼルエンジンが搭載されたものの、軸出力は6000馬力、水中速力は約20ノットとそれぞれなっており、1番艦から3番艦までの他のたいげい型と変わっていない。

17日に進水した海自潜水艦たいげい型4番艦「らいげい」。そうりゅう型同様、艦尾舵がX字型となり、水中運動性に優れ、着底しても舵の損傷が少ないという利点がある(海月@TAIGEI_SS513さん提供)
17日に進水した海自潜水艦たいげい型4番艦「らいげい」。そうりゅう型同様、艦尾舵がX字型となり、水中運動性に優れ、着底しても舵の損傷が少ないという利点がある(海月@TAIGEI_SS513さん提供)

たいげい型は、そうりゅう型8番艦のせきりゅうから導入された潜水艦魚雷防御システム(TCM)も装備している。これは、敵潜水艦から発射された魚雷を探知した時に、艦のスクリュー音を模擬したブイやおとりを発射し、魚雷が自艦に向かってくることを回避するための装置だ。

現在、2022年10月に進水した3番艦じんげいが2024年3月の就役に向け、艤装(ぎそう)中だ。

●対艦ミサイル「UGM-84Lハープーン・ブロック2」搭載

たいげい型は、89式魚雷の後継である新型18式魚雷を装備する。533ミリ魚雷発射管6門を艦首先端上部に搭載している。この魚雷発射管からは、海上標的に向けて水中発射する対艦ミサイル「UGM-84Lハープーン・ブロック2」も搭載できる。国際軍事情報グループの英ジェーンズによると、このミサイルの射程は248キロとされ、地上への攻撃も接近すれば可能とみられる。

潜水艦たいげいの概要図。たいげい型は同じ(三菱重工業資料より)
潜水艦たいげいの概要図。たいげい型は同じ(三菱重工業資料より)

●年々高騰する潜水艦建造費

日本の潜水艦は三菱重工業神戸造船所と川崎重工業神戸工場が隔年で交互に建造している。現在、三菱重工業神戸造船所でたいげい型5番艦、川崎重工業神戸工場で6番艦がそれぞれすでに建造中だ。2021年度予算ではその5番艦建造費684億円、2022年度予算では6番艦建造費736億円、2023年度予算では7番艦建造費808億円がそれぞれ計上された。さらに、今年8月末に公表された2024年度予算の概算要求では、8番艦建造費として951億円が示された。年々建造費が増加しているのは、資材費の高騰など物価高の影響をもろに受けた格好だ。

海上幕僚監部広報室は、たいげい型が合計で何隻建造されるかは決まっていないと説明する。しかし、海自は「おやしお型」8隻、「そうりゅう型」12隻、「たいげい型」2隻の計22隻の潜水艦体制をとっている。最も旧型の「おやしお型」8隻が順次退役していくことから、今後もそれを補完する形で年に1隻の建造ペースで調達していくとみられる。

海自潜水艦はこれまで「○○しお(潮)」から「○○りゅう(龍)」へ、そして「○○げい(鯨)」へと変化した(三菱重工業資料より)
海自潜水艦はこれまで「○○しお(潮)」から「○○りゅう(龍)」へ、そして「○○げい(鯨)」へと変化した(三菱重工業資料より)

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米外交・安全保障専門オンライン誌「ディプロマット」東京特派員

英軍事週刊誌「ジェーンズ・ディフェンス・ウィークリー」前東京特派員。コリアタウンがある川崎市川崎区桜本の出身。令和元年度内閣府主催「世界青年の船」日本ナショナルリーダー。米ボルチモア市民栄誉賞受賞。ハフポスト日本版元編集長。元日経CNBCコメンテーター。1993年慶応大学経済学部卒、2004年米コロンビア大学大学院ジャーナリズムスクールとSIPA(国際公共政策大学院)を修了。朝日新聞やアジアタイムズ、ブルームバーグで記者を務める。NK NewsやNikkei Asia、Naval News、東洋経済、週刊文春、論座、英紙ガーディアン、シンガポール紙ストレーツ・タイムズ等に記事掲載。

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