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「政治とカネ」に日の光を当てれば政治腐敗は生まれない

田中良紹ジャーナリスト

フーテン老人世直し録(736)

如月某日

 「政治とカネ」を巡る国会の論戦は今週から舞台を予算委員会に移し、野党特に立憲民主党と共産党は「企業・団体献金の禁止」を追及の矛先にした。それを認めることは企業の利益追求に政治が歪められるという理屈である。

 与党の公明党は「連座制の導入」を要求した。「連座制」については自民党の中にも賛成する声があり、会計責任者だけが立件され、政治家の刑事責任が追及されないのはおかしいという理屈だ。

 これまでの経験からフーテンは、いずれも「政治とカネ」の解決には役立たないと考えている。しかし予算委員会の論戦はそれが焦点となり、最も肝心な政治資金の「透明化」をどのように達成するかの議論には向かわない。

 現行の政治資金規正法は第2条で「政治資金の収支の状況を明らかにすることを旨とし、これに対する判断は国民にゆだね、いやしくも政治資金の拠出に関する国民の自発的意思を抑制することのないように、適切に運用されなければならない」と定めている。

 つまり政治資金に規制を課したり、罰則を強化するのではなく、収支の状況を公開することに目的があり、判断は選挙で投票を行う国民にゆだねることが、民主政治を健全に発展させる道だと言っているのだ。

 それを法律ができてから27年後、今からおよそ50年前に三木武夫内閣が改正し、規制と罰則を強化したところから、政治資金は闇の世界に潜り込み、民主政治とは真逆のおかしな方向に向かい始めた。それがフーテンの実感である。日本政治はそれをまた繰り返そうとしている。

 論戦を聞いていると首をかしげたくなる部分もあった。例えば共産党議員は「企業・団体献金の禁止」をやらないのは先進国では日本だけだと言った。フーテンはすべての国の選挙制度を知っているわけではないが、少なくも10年余り取材してきた米国では、企業・団体献金は原則的に禁止するが、しかし事実上の献金は行われている。

 米国の基本的な考えは、「一人一票」の原理で成り立つ民主政治を支えるのは、個人献金にすべきというものだ。ただ企業や団体にも政治活動を行う自由はあり、特定候補を応援する選挙活動には寄付できないが、政治活動に寄付することはできる。

 そこで企業や団体は政治活動委員会(PAC)という資金管理団体を作り、構成員から献金を集め、それを候補者に献金する。これは事実上の「企業・団体献金」だが合法である。米国以外の欧州の国々ではフランスだけが「企業・団体献金」禁止で、英国やドイツは「禁止」ではなく「抑制」である。

 フーテンの経験では「企業・団体献金の禁止」は企業や団体の政治資金を闇に潜らせ、それによって政治が歪められても国民には分からない。むしろ禁止せずに公開させれば、政治家の行動を監視して、献金との関連を追及することができる。その方が政治にとって健全ではないかと思うが、野党はなぜ「禁止」を主張するのか。

 「企業・団体献金」によって企業から献金を貰う自民党が有利になり、労働組合に頼る野党が不利になると考えているようにフーテンには見える。しかし今や無党派層が選挙の帰趨を握る時代である。その人たちから献金を集める努力をしないで、自民党に入る献金を減らせば自分たちが有利になると考えるのなら、政権交代を実現して権力を奪う資格があるとは思えない。

 また国会でしきりに強調されたのが、30年前の「政治改革」で国民の税金から政党に資金を交付する政党助成金の仕組みができて、「企業・団体献金」は禁止されるはずなのに、禁止されていないのは「二重取り」ではないかという主張だ。

 30年前の「政治改革」でフーテンは「政治の透明化」を実現する「国会テレビ」の導入を提案して民間政治臨調に参加していた。だから当時の経過を多少は知っている。あの時は選挙制度を小選挙区制に変えることが最優先の課題だった。そのため経団連は自民党への献金を停止し、いわば兵糧攻めで自民党「守旧派」を弱体化しようとした。

 財界も労働界も政治献金をやめて小選挙区制を実現させようとしていたので、民間政治臨調はフーテンが提案した「国会テレビ」を実現するため、献金をやめていた経団連と連合に出資させ、「国会テレビ」を経営する会社を立ち上げようとした。

 連合は賛成したが経団連が渋った。そしてフーテンは当時の森喜朗自民党幹事長から「もうすぐ経団連は政治献金を再開する。国会テレビはその上前をはねるような真似はするな」と言われた。

 森氏の発言通り、2000年に小泉政権が誕生し、国民が熱狂的に支持していた頃、経団連は「法人にも政治活動の自由はある」という理屈で「企業・団体献金」を復活させた。その少し前までリクルート事件や金丸脱税事件に怒っていた国民は、誰も「二重取りだ」と反対しなかった。

 フーテンは当時の細川総理や河野自民党総裁が「企業・団体献金」を全面禁止にして、政党助成金のみに転換しようと考えていたとは思えない。小選挙区制を導入すれば、いずれは「企業・団体献金」を復活する気だったのではないかと思っている。政党助成金制度は、寄付文化のない日本で国民に寄付を奨励しても無理だから、個人献金に代わるものとして導入されたと思う。

 米国には大統領選挙以外に国が政治資金を支給する制度はない。大統領選挙は1年がかりで、しかも米国全土で運動しなければならないから、資金力の乏しい候補者にも立候補の機会を与える意味で国の制度が作られた。

 欧州の国々ではフランスが「企業・団体献金」を禁止している。そのため議席数に応じて政党助成金が支給され、一定の得票数を超えれば選挙費用の半分を国が補助し、また個人献金を増やすための税額控除制度が作られた。一方、ドイツでは個人献金の比率が多い政党ほど国からの助成金が多く、それが企業・団体献金の「抑制効果」を生む。

 立憲民主党や共産党が「企業・団体献金の禁止」を主張するなら、フランスの制度を参考に新制度を提案すべきと思うが、どうもそのような議論になっていない。この50年間に繰り返されてきた規制と罰則の強化をベースにした発想から抜け出ていない。

 そしてもっと危険なのが「連座制の導入」の議論である。今回の特捜部捜査は政治資金規正法がザル法だったからではなく、特捜部の捜査がザル捜査だったから、奇妙なことがいくつも起きた。

 特捜部は裏金の使い道を解明せず、脱税で摘発されてもおかしくない議員が立件の対象にならず、受領金額の多い議員3人と派閥の会計責任者3人のみの立件で捜査を終えた。極めて恣意的で政治性のある捜査だとフーテンは思った。

 行政機構の一機関である特捜部が、「自分たちの組織のトップである総理に忖度しないで捜査を行うことなどありえない」とフーテンは昔から思ってきたが、だとすると「連座制の導入」は政敵潰しに利用される恐れがある。

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ジャーナリスト

1969年TBS入社。ドキュメンタリー・ディレクターや放送記者としてロッキード事件、田中角栄、日米摩擦などを取材。90年 米国の政治専門テレビC-SPANの配給権を取得。日本に米議会情報を紹介しながら国会の映像公開を提案。98年CS放送で「国会TV」を開局。07年退職し現在はブログ執筆と政治塾を主宰■オンライン「田中塾」の次回日時:11月24日(日)午後3時から4時半まで。パソコンかスマホでご覧いただけます。世界と日本の政治の動きを講義し、皆様からの質問を受け付けます。参加ご希望の方は https://bit.ly/2WUhRgg までお申し込みください。

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