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旅先でのアレルギーについて考える

坂本昌彦佐久医療センター小児科医長 日本小児科学会指導医
(写真:イメージマート)

GWも後半、子連れで色々なところにお出かけの方も多いかと思います。

私の住んでいる信州東部もGW中は軽井沢を中心に多くの方が訪問され、とても賑わっています。

そんな中、連休中に毎回当直をしていると経験するのが(実は今も当直中ですが涙)、旅先でアレルギーを発症してしまうトラブルです。そこで今回は旅先で発症する可能性のあるアレルギーとして、食物アレルギーと喘息についてまとめたいと思います。

旅先では食物アレルギーを発症しやすいという報告も

アイルランドの研究で、約500人の食物アレルギーを有するお子さんを追跡調査した結果、休暇で出かけた先で33名(15%)のお子さんがアレルギー反応を起こしており(このうちアナフィラキシーは9名)、この割合は日常生活時と比べて明らかに高かったと報告しています(1)。またその多く(6割)はレストランやホテルの食事で発症し、2割がカフェで発症していました。食材としてはナッツ類や牛乳が多かったとも報告されています。またこの報告ではアナフィラキシーの9例中、エピペンなどアドレナリン注射の処置を家族が実施できたケースは2例のみだったとのことでした。やはり旅先では食物アレルギーの発症リスクは上がるようです。食物アレルギーのあるお子さんとの旅行を楽しく安全に行うためにも、旅先でのアレルギー発症リスクを知るとともに、エピペンを持参することや、いざというときに適切に使える準備をお願いできればと思います。

エピペンの使い方の説明はこちら

また、アレルギーがあると分からず、旅先で初めての食材を与えた特にアナフィラキシーを発症するケースもあります。例えば信州東部はくるみの産地で、くるみそばやくるみ菓子等が多くあります。どれも美味しいので、お子さんに食べさせてあげたくなる気持ちもよく分かりますが、くるみそば等をお子さんに初めて食べさせた結果、お子さんがアナフィラキシーを発症して救急車で病院に担ぎ込まれてくるケースを我々小児科医は毎年のように経験しています。アナフィラキシーを発症して搬送されると入院になることも多く、せっかくの休暇の予定も台無しになってしまいます。やはり初めての食材を旅先でトライするのは避けた方が無難かもしれません。

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喘息はコントロールが悪かったり激しい運動をきっかけに悪化することも

喘息がある場合、旅行中のアクティビティによっては症状が出る可能性があります。特にリスクが高いのは旅行前から気管支拡張薬を頻回に使っている場合や旅行中に激しいトレッキングなどに参加する場合とされています(2)。そのため、喘息があるお子さんの場合、コントロールが安定しているか、主治医に確認して、いざというときの対応を相談しておくことが望ましいです。リスクが高い環境下では気管支拡張薬を早めに使用することも選択肢になります(3)。

ちなみに赤ちゃんの時期に様々な地域に旅行すると、色々なアレルゲンに曝露されて喘息リスクが高まることはないかと心配される方もいるかもしれません。ドイツの大規模な研究で、生後2歳までの旅行の頻度と喘息発症リスクを調べた研究があり、これによると、赤ちゃんの時期に旅行頻度が多くても15歳までの喘息発症リスクが高まることはなかったと報告されています(4)。そこまでご心配されなくても大丈夫そうですね。

GWも後半です。旅を最大限楽しんでいただくため、旅行の際に望ましいアレルギーへの備えについて書きました。よい連休になりますように。

参考文献

1.Crealey M, Byrne A. Going on vacation increases risk of severe accidental allergic reaction in children and adolescents. Ann Allergy Asthma Immunol. 2023;130(4):516-8.

2.Golan Y, Onn A, Villa Y, Avidor Y, Kivity S, Berger SA, et al. Asthma in adventure travelers: a prospective study evaluating the occurrence and risk factors for acute exacerbations. Arch Intern Med. 2002;162(21):2421-6.

3.Sun D, Mack DP. Allergies don't take a vacation. Ann Allergy Asthma Immunol. 2023;130(4):419-21.

4.Markevych I, Baumbach C, Standl M, Koletzko S, Lehmann I, Bauer CP, et al. Early life traveling does not increase risk of atopic outcomes until 15 years: results from GINIplus and LISAplus. Clin Exp Allergy. 2017;47(3):395-400.

佐久医療センター小児科医長 日本小児科学会指導医

小児科専門医。2004年名古屋大学医学部卒業。現在佐久医療センター小児科医長。専門は小児救急と渡航医学。日本小児科学会広報委員、日本小児救急医学会代議員および広報委員。日本国際保健医療学会理事。現在日常診療の傍ら保護者の啓発と救急外来負担軽減を目的とした「教えて!ドクター」プロジェクト責任者を務める。同プロジェクトの無料アプリは約40万件ダウンロードされ、18年度キッズデザイン賞、グッドデザイン賞、21年「上手な医療のかかり方」大賞受賞。Yahoo!ニュース個人オーサーアワード2022大賞受賞。

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