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ロンドンの反黒人差別運動が、「黄色いベスト」運動のシャンゼリゼとそっくりになってきた

今井佐緒里欧州/EU・国際関係の研究者、ジャーナリスト、編集者
6月13日ロンドンのトラファルガー広場で負傷者を守る警官たち(写真:ロイター/アフロ)

どこかで見たような光景をロンドンで見てしまった。「デジャヴュ」だ。

6月13日(土)、イギリス全土で反黒人差別運動のデモが起きた。

ほとんどは平和なものだったが、ロンドンのトラファルガー広場やウォータールー駅などでは、一部が暴徒化して、騒然となった。

この日は、有名な極右活動家や「民主フットボール野郎連盟」と名乗る団体などが、反人種差別デモの一部から標的にされているチャーチル元首相の銅像などの記念碑を守るために集まれ、などと呼びかけていたという

ここに集まってきた極右団体は「イギリス防衛リーグ(EDL=The English Defence League)」という団体だ。イギリス人でも「何それ?」と思う人が多いくらいで、超有名な団体ではない。

ジョンソン首相は、12日、反人種差別デモについて8連打のツイートを投稿。

「(反人種差別の)抗議活動が、悲しいことに暴力を目的とした過激派にのっとられてしまったことは、明らかです。先週私たちが目撃した警察への攻撃や無差別の暴力行為は耐えがたいものであり、また忌まわしいものです」と述べた。

普通のデモだった抗議活動が、過激派にのっとられる・・・それはシャンゼリゼと同じではないか。

平和だった「黄色いベスト運動」が過激に

フランスのマクロン大統領が燃料税を上げると発表したのを機に、全国で抗議のデモ活動が起きた。それは「黄色いベスト運動」と呼ばれた。2018年のことだ。

参考記事:わかりやすい「フランスの黄色いベスト運動」とは(1)普通のデモの広がりからシャンゼリゼの暴動まで

ところが、平和な抗議デモには極右と極左の過激派が参入して、シャンゼリゼ通りは戦争のような状態となってしまった。

しかし、過激派グループは小さくて、知られていない政治団体(「グループスキュル」という)だったために、彼らが「のっとった」ことを知らなかった日本も含めた外国の報道は、この状態を見て「グローバル化にパリの市民が怒っている」などという、頓珍漢な報道をした。

確かに市民は怒ってはいるが、あれは過激派のしわざだったのに。一般のフランス人は、あのシャンゼリゼのすさまじい様子を見て、言葉をなくすほどショックだったのに。

参考記事:シャンゼリゼの壊し屋は誰だったのか。フランス黄色いベスト運動と移民問題:初めて極右と極左が同舞台に

同じことがロンドンで起きようとしているのだろうか――市民の正当な、平和的なデモ活動が、過激派にのっとられてしまうということが。

もしこれが本当に起こると、大変まずくなる。平和な抗議活動をしていた人の中には、「あれと同じと思われたくない」と思い、止めてしまう人が出てきてしまうのだ。

ただ、フランスの場合は、燃料税など自分の生活に直接関わることだったので、「人は人」ということで、あくまで自分のやり方を貫いた、暴力を伴わない抗議活動を続けた人が大勢いた。

今回のロンドンはどうだろうか。反黒人差別に参加する白人は、良い人だと思う。でも、直接自分の身に降り掛かった問題というわけではない。

あの場にいた極右団体EDLとは

イギリスの極右団体「イギリス防衛リーグ(EDL)」は、2009年に様々なサッカーのフーリガンの「Firm(会社・事務所)」が、それぞれの旗の下に集結して結成された(The Sunの情報による)。

イギリスのイスラム化に反対を唱えており、街頭デモを行い、時には「反ファシスト」団体と衝突を起こして暴力沙汰を起こしてきた。

ただ、前の実質上のリーダー、トミー・ロビンソンが2013年にリーダーの地位を辞めてから、この団体の影響力は衰退してきたと考えられてきた。彼は「過激になりすぎている」と言って辞めたのだった。

多くのカウンシル(評議会・自治体)が、地域社会の結束を乱す影響力をもっているからと、彼らのデモを禁じている。

公式なメンバー制度がないので、何人いるか知るのは難しいが、2万5000人から3万5000人くらいと言われている。

それでは極左のほうは?

一方の過激化している左派であるが、反ファシスト団体である極左的な「アンティファ」と名指しされて呼ばれている。

しかし、こちらのほうは慎重に見極める必要がある。アメリカではトランプ大統領が、やはりアメリカで6月に起きた暴動を「アンティファのせい」として、テロリスト団体に指定しようとしているが、公的機関が「何の証拠もみつかっていない」としている。

このように過激化してゆく状況を前に、一般の人はどう反応するのだろうか。

40年前イギリスで、ロックを愛する若者たちは、反人種差別の大デモとカーニバルを成功させた。もうそのようなムーブメントは期待できない時代なのだろうか。

フランスもアメリカもイギリスも、なぜこうなってしまっているのだろうか。

参考記事:「白い暴動」ロックが白人と黒人の若者を融合。イギリスのもう一つの反黒人差別運動の物語

欧州/EU・国際関係の研究者、ジャーナリスト、編集者

フランス・パリ在住。追求するテーマは異文明の出会い、平等と自由。EU、国際社会や地政学、文化、各国社会等をテーマに執筆。ソルボンヌ(Paris 3)大学院国際関係・欧州研究学院修士号取得。駐日EU代表部公式ウェブマガジン「EU MAG」執筆。元大使のインタビュー記事も担当(〜18年)。編著「ニッポンの評判 世界17カ国レポート」新潮社、欧州の章編著「世界で広がる脱原発」宝島社、他。Association de Presse France-Japon会員。仏の某省機関の仕事を行う(2015年〜)。出版社の編集者出身。 早稲田大学卒。ご連絡 saorit2010あっとhotmail.fr

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