ベテルギウスの表面は非常に不安定で、激しく沸騰中であると判明!?
どうも!宇宙ヤバイch中の人のキャベチです。
今回は「ベテルギウスの表面は激しく沸き立っているかも」というテーマで動画をお送りします。
超新星爆発が間近に迫っていると話題のオリオン座α星・ベテルギウスは、赤色超巨星としては異常なほど高速で自転していることが知られています。
しかしそんな異常な高速自転は実際には存在せず、ベテルギウスの表面が非常に活発な「対流」で沸き立っているために生じた誤認であることを示唆する研究成果が2024年2月に発表されました。
そんな最新のベテルギウスの話題について解説していきます。
●ベテルギウスの特異な性質と解釈
ベテルギウスは、赤色超巨星としては異常なほど高速で自転していると考えられています。
約530光年も彼方にあるベテルギウスの自転の様子は、ベテルギウスからやってくる光のドップラー効果を観測することで理解することができます。
ある天体からやってきた光は、その光源が地球から見て接近する方向に運動していれば、本来よりも波長が短く、つまり青みがかって見え(青方偏移)、逆に光源が遠ざかる方向に運動していれば本来よりも波長が長く、つまり赤みがかって見えます(赤方偏移)。
このように、光源の地球への方向に対する運動により、光の波長が伸びたり縮んだりして見える現象を光のドップラー効果と呼びます。
日本の国立天文台も運用に携わっているALMA望遠鏡は、ベテルギウスの表面の場所ごとにおける、地球に対する速度を調べました。
その結果、ある面は地球に接近しており、その反対の面では後退しているという観測結果が得られました。
これはベテルギウス表面が5km/sという速度で自転していると考えるとうまく説明ができます。
本来、ベテルギウスのような大質量星の末期の姿である赤色超巨星は、水素の燃焼段階を終え、ヘリウムの燃焼段階に入ると、自転速度が遅くなる傾向があります。
それにもかかわらず、ベテルギウスの5km/sという自転速度は、一般的な予想より2桁以上速いものでした。
参考までに、まだ膨張していない主系列星である太陽の自転速度も2km/sに過ぎません。
さらにベテルギウスは、太陽から見た移動速度が30km/sと、こちらも他の星々と比べてかなり速いことが明らかになっています。
今表示されているのはベテルギウスの周囲を赤外線で撮影した画像です。
明るいベテルギウスの周囲にはバウショックと呼ばれる弧状の構造が見られます。
恒星風と勢いよく衝突した星間物質は赤外線を放ち、これがバウショックとして観測されます。
ここまで明確にバウショックが形成されるには星間物質に対して星の移動速度がかなり速い必要があります。
ベテルギウスの移動速度の速さが伺える画像です。
〇ベテルギウスは連星系だったかも
ベテルギウスの自転速度と移動速度の特異性は、ベテルギウスがかつては連星であり、それ等の星が合体、もしくは一方が超新星爆発を起こすことで現在の状態に至ったと考えることで説明ができます。
連星系の2つの恒星が合体して現在のベテルギウスの姿になった場合、かつてあった2つの星は太陽の15-17倍の質量を持つ主星と、太陽と同程度~4倍程度の質量を持つ伴星というペアであったと考えられています。
元の主星が寿命に近付き徐々に巨大化し、赤色超巨星という段階に入り始めた頃、伴星は主星に対し公転しながら徐々に破壊されて、最終的には主星の方に取り込まれるという過程をたどったそうです。
仮にこの過程をたどった場合、伴星は主星を公転しながら主星に物質を与えることになるので、主星の自転速度は伴星の公転方向に加速することになります。
これによってベテルギウスの高速自転を説明できます。
そしてベテルギウスはかつてアソシエーションという、星団ほどは密集していないものの恒星が他よりも集まったグループで生まれ、属していたと考えられています。
このように星の密度が高いアソシエーションであれば、星々との重力的な作用によって30km/sという移動速度が実現される可能性もあるそうです。
一方超新星シナリオでは、先ほどとは異なり今残っているベテルギウスの方が伴星で、かつてはさらに質量が大きい別の主星が存在していたという事になります。
かつてあった主星の方は質量が大きい分寿命が短いため、ベテルギウスが老いる前に先に膨張し末期段階に入っていたと考えられます。
その際主星表面の重力は中心から遠ざかるにつれてどんどん弱まるため、より表面重力が強い伴星の方に主星表面のガスが流れて行ってしまいます。
それにより高速の自転速度を説明することができます。
その後主星は超新星爆発を起こし、伴星は爆発の勢いで30km/sというすさまじい速度で押し出され、アソシエーションから飛び出していったそうです。
このようにして移動速度についても説明ができます。
●ベテルギウス表面は激しく対流していた!?
2024年2月、ドイツのマックス・プランク天体物理学研究所などの国際研究チームは、ベテルギウスの異常に速い自転を説明する、新たな解釈を提示しました。
ベテルギウス表面で起こる非常に活発な「対流」によって、ベテルギウスの表面が地球から見て接近・後退するため、これが高速自転という解釈に繋がった可能性が示されています。
○恒星の「対流」
そもそも「対流」は日常生活でも見られる、熱を伝える一般的な物理現象の一つです。
恒星の中心部で核融合反応によって生み出されたエネルギーは、対流という形で外側へと伝わることがあります。
太陽もベテルギウスも、表面で対流が起きており、内部から高温のガスの気泡が浮上しては、熱が逃げて低温になったガスが沈下していきます。
ベテルギウスのような赤色超巨星では、表面の対流は非常に活発であると考えられています。
対流で生じる一つの気泡は、太陽一つ分どころか、その200倍も巨大な「地球の太陽に対する公転軌道」と同じくらいの大きさになります。
また、気泡の上昇・沈下の速度は最大で30km/sにもなります。
○なぜ対流が高速自転と誤認された?
ベテルギウスは太陽の約750倍の直径を持ちますが、非常に遠くにあるため、ベテルギウス表面のかつてない詳細な速度分布をとらえたALMA望遠鏡ですらぼやけて見え、誤認に繋がった可能性があります。
研究チームが提示したこちらの画像では、上段はベテルギウスの明るさの分布が、下段は地球から見た接近・後退運動(視線速度)の分布が示されています。
また左列が、「回転していない赤色超巨星」の対流をシミュレーションで表現したもので、真ん中の列が、左列のシミュレーションをALMA望遠鏡が観測した場合に得られる画像で、右列がALMA望遠鏡による実際の画像です。
「高速自転している」と誤認されたALMA望遠鏡の実際の画像と、高速自転していないベテルギウスをALMA望遠鏡で観測した場合に得られる画像は、非常によく一致していることがわかります。
このように、仮にベテルギウスが高速自転していない場合、ALMA望遠鏡をもってしても「90%の確率で対流を数km/sの高速自転と誤認してしまう」という結果が得られました。
ALMA望遠鏡の観測結果は、現在のベテルギウスの表面が太陽とは比にならないほど活動的であることを示しているかもしれません。
とはいえ現時点では高速自転しているかどうか判断するのに、決定的な証拠に欠いています。
幸運にも、今回の発表を行ったチームとは別のチームが、2022年にベテルギウスの高解像度観測を行っており、現在新しいデータを分析中とのことです。
ベテルギウスでいったい何が起きているのか、その詳細がわかっていくのが楽しみです。