若い子らには負けん!来季の正捕手獲りに向かって―。阪神タイガース・岡崎太一捕手の秋
■元気いっぱい!「開幕捕手」岡崎選手の秋季キャンプ
金本阪神の「超変革」が2年目に突入した。例年より前倒しの10月29日から始まった秋季キャンプ。32名が参加する高知県の安芸に注目が集まるが、鳴尾浜でも投手4人、野手6人が掛布雅之監督の指揮の下、汗を流している。
練習中、元気のいい声が響く。ダッシュも速い。「アイツ、体力あるんだよなぁ~」。山田勝彦バッテリーコーチが呟く。その視線の先でキレよく動いていたのは、岡崎太一選手だ。「取り組み方が違うよな。こっちが何も言わなくてもやるからね」。その動きに山田コーチも目を細める。
そういえば春季キャンプの沖縄でも矢野燿大 作戦兼バッテリーコーチから、そのガムシャラさ、元気のよさを讃えられていた。声を張り上げ、ボールに食らいつく。その泥臭く必死な姿は、初めての「開幕スタメンマスク」を引き寄せた。昨年まで通算41試合の出場だった男の大抜擢は「超変革」の象徴の一つでもあった。
■開幕マスクから始まり、順調な前半戦だったが・・・
3年目の梅野隆太郎選手との併用ではあったが、能見篤史投手やランディ・メッセンジャー投手といったベテラン投手の先発時にマスクを任された。これまでの野球生活とは一変し、充実した毎日だった。
事情が変わったのは原口文仁選手が支配下登録されてからだ。彗星のごとく1軍に昇格した原口選手は4月29日に初めて先発マスクをかぶると、その後ほぼ1ヶ月間、毎試合スターティングメンバーに名前を連ねた。必然的に岡崎選手はベンチを温めることが多くなった。
それでも、これまでファームにいたときとは雲泥の差だ。辛抱強く出番を待った。するとまた、メッセンジャー投手のときにコンビを組むチャンスが巡ってき、7月5日からは7試合連続でスタメンマスクをかぶるなど、ここぞというときの安定感が評価された。
ところが、だ。せっかくのチャンスを手放してしまった。故障だ。左手有鉤骨の骨折により、オールスター休みに入った7月14日に抹消された。
聞けばその数日前から「痛くて気になっていて、ファウルしたときに痺れる感じだった」そうで、おそらくヒビが入っていたであろうと思われる。そんな中、7月12日のスワローズ戦の打席で「ボキッってなった」と完全に折れてしまったようだ。
そもそも有鉤骨というのは、打つときに詰まったり疲労が重なったりなど衝撃で少しずつ欠けていくことがあり、“決定打”が加わったときに骨折するのだと、岡崎選手は解説してくれた。
リハビリの末、ファームで実戦復帰することはできたが、シーズン中の1軍昇格は叶わず2016年シーズンは終了した。
■長男の願いはパパの活躍
今シーズンを振り返り、勝つことの難しさを痛感したと岡崎選手は語る。「今までずっと『試合に出たい』、『1軍でプレーしたい』という気持ちを持ちながらやってきて、今年これだけ出させてもらって、こんなにしんどいんやとわかった。1つ勝つことがこんなに苦しいんやなって」。
しかしその反面、「勝つ喜びというのは、それはもう…。すべてが報われた気持ちになる。なんとも言えないですね。それを味わうために毎日頑張っているんで」と、至福のときも数多く味わった。
感激したのはやはり開幕戦だ。「すごい緊張と不安と…色んな気持ちの中で出させてもらった。やっとスタートラインに立てたなと思った。遅いけどね。それで2戦目に勝てたとき、ホントに嬉しかった」。
もちろん見に来た家族も喜んでくれた。試合後、駐車場で待ち合わせて一緒に帰ったが、自身の一番のファンである小学2年の長男の様子が「普段と違う感じ」だったという。「なんか照れているというかね。どうやらいつものパパと違うな、すごいなって思ってくれていたみたい」。パパが大舞台でキラキラ輝いていることに感動したようだ。
8月13日はその息子クンの誕生日だった。約半月前の8月頭に、プレゼントのリクエストを尋ねた。すると「プレゼントは、パパの手が治って試合に出られることがいい」と訴えたそうだ。「半泣きで言うんですよ。それ見たら、ボクも泣きそうになってね…」。本当にパパが大好きで、パパが野球をしている姿が大好きなのだ。自分のバースディプレゼントにまでパパの復帰を願うとは…。
「まぁその後、きっちりプレゼントは買わされましたけどね(笑)」。ゲームをねだられたそうだが、岡崎選手もそのすぐ後の同16日にファームの公式戦で実戦復帰を果たすことができた。
常にパパの味方である息子クンだが、やはりまだまだ小学2年。「原口のこと、『すごい、すごい』って言うんですよ。原口がキャッチャーで出たら、ボクが出られないってことがイマイチわかってないんですよね。『原口選手、なんであんなに打てるの?すごいよね!』って」。
ただ純粋に原口選手のバッティングに感嘆しているようだが、パパは「そ、そうやな…」と言ったきり、何も言えないそうだ。心中、複雑だ。
■今一度、バッティングの再構築
もちろん岡崎選手もバッティングが自身の課題であることは承知している。山田コーチも「来年ポジション獲るためにも、何が足りないかっていったらバッティング」とハッパをかける。
全体練習でのフリーバッティング、10球連続ティー、ロングティーをしたあと、個別練習でもバッティングに精を出す。
「これまで思い違いをしていたところがあったというか、自分で意識してやっていたことが違っていたことに気づいた。映像を見たり、色んな人と話したりして。そこをもう一度、しっかり形を作っていくって感じですかね」。
室内練習場での個別練習では、自ら考え、遅い球を引きつけて打つようにしている。
昨秋は安芸キャンプで金本知憲監督の直接指導を受けた。「教わったことができるときもあれば、できないときもあった。迷いがあったり、ピッチャーとの駆け引きの中で気持ちの整理がつかなかったり、守備を引きずってしまったり…」と今季の打撃を振り返る。そこももう一度、しっかりやり直したいと話す。
「安芸に行けなかった悔しさや焦りはありますけど、若い子には絶対に負けないという気持ちは持っているんで。向こうでもこっちでも自分の意識次第で何でもできる」と強い気持ちで取り組んでいる。
「バッティング向上は絶対条件。今年.200の打率を.250以上に上げたい」と言い、何よりも「右打ちやエンドラン…最低限、チームバッティングに必要なことはできるようにしたい」と技術向上を誓っている。
■目指すは「勝てるキャッチャー」
この秋は「自分の補いたいところを重点的にできる時期」と、とことんバッティングに取り組むが、やはりキャッチャーである以上、守備力が最も求められる。「守備があってのバッティング」という考えは、秋季キャンプに入る前、矢野コーチと来季に向けた方向性を話し合ったときに同意を得ている。
岡崎選手が目指すのは「勝てるキャッチャー」だ。「キャッチャーは勝ってナンボ。ピッチャーの失点を少なくすれば勝つ確率が上がる。そういう勝てるキャッチャーを目指したい」。
今年の目標はレギュラーを獲ることだった。しかし納得いく結果ではなかった。「その目標は継続して持ちながら、勝てるキャッチャーを目指したい」。
自分がマスクをかぶった試合は何回も繰り返し見た。そこで気づいたこともたくさんあった。「もっと状況でしっかり冷静に見て、もっと駆け引きしていかないといけない。年齢も年齢だし、経験を積む時間もない。人が二、三度かかるところを一度で感じられるようにしたい」。
キャッチャーの本分である「守り」を追究するのはもちろん、その上でレギュラーを掴むためにさらなるバッティング向上を目指す。この秋の取り組みが、必ずや来季に繋がると信じて―。
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