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なぜオダウエダの優勝だったのか 『THE W 2021』の意外な結果を生み出した背景

堀井憲一郎コラムニスト
(提供:PantherMedia/イメージマート)

オダウエダの意外な優勝

『女芸人No.1決定戦 THE W 2021』はオダウエダが優勝した。

意外な優勝である。

最終ステージに進んだのは3組だった。

Aブロックを勝ち抜いた「オダウエダ」。

Bブロックを勝ち抜いた「Aマッソ」。

もうひとつは視聴者投票で敗者復活的に選ばれた「天才ピアニスト」だった。

この3組での最終決戦となった。

Aマッソと天才ピアニストの対決かとおもいきや

ファーストステージを見た感想でいえば、Bブロック一番手の「天才ピアニスト」が圧倒的におもしろかった。

その4つあとに出てきた「Aマッソ」も勢いがあり、ファーストステージの最後は両者対決となり、僅差(審査員7人で4対3)でAマッソになった。

敗者復活的に「天才ピアニスト」が選ばれ、最終ステージは再びAマッソとの対決でどちらかが優勝するのではないか、とおもって見ていた。

Aマッソの映像を使った漫才

最終ステージでのAマッソは昨年にひきつづき映像を多用した漫才を見せた。

客を楽しませるという点においては極上のステージであった。

もっとも受けていたとおもう。

映像を演者に重ねて笑いを取るといういわば「飛び道具」を使った芸であり、喋りだけでは勝負に来なかったのか、という感想を持った。

天才ピアニストはスーパーレジでのコント

天才ピアニストの二本目は、スーパーのレジ打ちのおばさんと客のやりとりのコントだった。

一本めと同じく「ごく日常的な風景で始まるが、でも出てくる人がとても奇妙」という世界に引きずりこんでいって、その熱気はこれまたすごかった。

ただ時間経過を示すために三度、暗転した。

暗転すると一回5秒以上(長いと8秒ほど)何も起こらない時間があり、それが三回あるのは小気味いいテンポが中断される嫌いがあった。

オダウエダのナンセンス世界

最後に出てきたオダウエダは、カニが異様に好きなおじさんのコントだった。

内容に意味がない。ナンセンスそのものの展開を見せる。

そして1本めではボケだった背の高いほう(オダ)が今回はツッコミにまわり、相方に向かってではなく客席に向かって何かを発表するようにツッコミセリフを大声で叫ぶという、素敵で不条理なスタイルで展開した。

背の高いツッコミ役(オダ)が相手の言葉を受けず、会話を成立させていないのも特徴で(本来はボケ役が多いからだろう)、まさにディスコミュニケーションそのものの芸である。

分類するなら不条理コントなのだが、二人の気配が底抜けに明るく、不条理を越えて笑ってしまう。

オダウエダ二本目のパフォーマンスの直後、司会の後藤輝基は「無茶苦茶やってくれました」という言葉で引き取っていた。

水卜アナは、身体を折り曲げて笑い続けていた。

3対2対2でオダウエダが優勝

二本目で一番笑いが多かったように感じたのはAマッソだった。

また、一本目のネタが圧倒的だったことを考えれば天才ピアニストもそれに対抗するかもしれない、とおもった。

オダウエダもおもしろかったが、ナンセンス度合いが強く、いわばちょっとマニア向けだと感じられた。

ところが、審査員7人の投票でオダウエダが3票を取った。

オダウエダを支持したのは、アンガールズの田中、笑い飯の哲夫、そして友近である。

Aマッソに入れたのが、ヒロミとハイヒールのリンゴ。

天才ピアニストは久本雅美とミルクボーイの駒場が投票した。

逆転劇に見えたオダウエダの優勝

正直なところ、意外であった。

オダウエダの見事な逆転劇、とおもってしまった。

点数による採点ではないので、途中経過で点差がついているわけではない。

でも印象として、ファーストステージを抜けた時点での順位は、Aマッソ、ついで僅差だった天才ピアニスト、そしてオダウエダの順のように見えたのだ。

ちなみに、あくまでも遊びで、M−1などのように私は個人的に点をつけていたのだが、一本目では、天才ピアニストが96点、Aマッソは93点、オダウエダも93点だった。(スパイクが94点で、私の中では2位であった)

グループBのほうが点差があまりなくて熾烈であった。だから、二本目での逆転と見えたのだ。

司会の後藤は優勝が決まったときに「えっ!?」と言った

決勝での投票が終わったとき、つまりオダウエダの優勝が決まった瞬間、司会の後藤輝基は「えっ!?」という声を出していた。

その気持ちがよくわかった。

本来なら後藤のもう一言や、審査員の講評があってしかるべきなのだが、まったくなかった。

後藤が「えっ」と声を出してから(つまりオダウエダの優勝が確定してから)、ライブ中継が終わるまで51秒ほどであった。1分なかったのだ。

そんな時間では誰も講評できない。

1000万円の額を渡すので精一杯だった。

オダ(左側の背の高いほう)は優勝が確定した瞬間は、たぶん信じられなかったのだろう、「え?」という表情になってから相方(ウエダ)のほうを二度ちらっと見てそれでやっと確信したのか、手で口をおさえ、そのあと膝から崩れおちた。

オダウエダの勝因は「攻守交代」

オダウエダの勝因を挙げるなら、1本目と2本目でボケとツッコミが入れ替わったところではないだろうか。

今回の『THE W 2021』ではメンバーのコンビネーション力で差がついていったように見えた。

Aマッソも天才ピアニストも、笑いを二人の力で作りだしている印象が強い。

二人のどちらも笑いを取れるところを見せて、勝ち抜いてきた。

オダウエダは1本目でのツッコミ役(ウエダ)の言葉の比重が重く、ウエダの力で無理矢理勝ち抜いた印象であったが、2本目はボケとツッコミが代わり、こんどはオダのかなり無理のあるツッコミで進行させるという演出が見事だった。

この攻守交代させたのが優勝の要因だとおもう。

審査員の苦悩

審査員もかなり苦しかったとおもう。

『THE W』の審査は、勝ち残り投票である。

1組目と2組目のパフォーマンスが終わった段階でどちらか良かったかを選び、残ったほうと次の3組の優劣を決めていく。○×をずっとつけていく審査である。

前半5組Aブロックの審査では、二番手だった「紅しょうが」が最初の対決を制し、そのまま3組目、4組目をやぶり、最後の「オダウエダ」との投票になって敗れ、「オダウエダ」が勝ち抜いた。

Bブロックも同じ経緯をたどり、トップ登場の「天才ピアニスト」が、2組目、3組目、4組目に勝ったが最後に出た「Aマッソ」に敗れた。

負けたほうに一票を入れたのが多かったのは友近と田中

審査員は常に2組の優劣をつけ続けることになる(最後だけ3組)。

自分が選んだほうが勝ち抜けば(多数意見に一票入れていれば)○、負けたほうに入れていた場合を●とすると、以下のようになった。

○●●○ ○○○○ ●:ヒロミ 

○●○○ ○○○● ●:久本雅美

○○○○ ○○○○ ●:リンゴ(ハイヒール)

●○●○ ○○●○ ○:田中(アンガールズ)

●○○○ ○○○○ ○:哲夫(笑い飯)

○●○● ●○○● ○:友近

○○○○ ○○○● ●:駒場(ミルクボーイ)

第一ステージの8回の投票のうち、負けたほうに入れていた回数はこうなった。

ヒロミ2、久本雅美2、リンゴ0、田中3、哲夫1、友近4、駒場1

アンガールズの田中と、友近は、負けたほうに入れていることが多かった。

別に意図してのことではないはずだ。

この日の神様が決めた役割がそうだったということに過ぎない。

そういう偶然が重なって優勝が決まっていく。

神様が決めたとしか言いようがない

そして最終ステージでオダウエダに入れたのが、アンガールズの田中、笑い飯の哲夫、友近であった。

友近の「蝶々」がオダウエダに飛んでいった瞬間に彼女たちの優勝が決まった。

この審査結果は意外ではあったが、でもこれはこれで正しいとおもう。

どこも間違っていない。

これが2021年の結果なのだ。

私もライブで見ていたときは意外だったが、そのあと最終ステージを繰り返し見直して(5回見た)、この結果でよかったのだと、あらためて確認できた。

1票差で決まったのだ。しかも3組横並びでの1票差だった。

これはまさに神様が決めたとしか言いようがない。

審査員はそれぞれこの日たまたま「知らずに神様に振り分けられた役どころ」のまま、そのまま投票したにすぎない。

要は僅差だったのだ。

バラエティが苦手そうなオダウエダだからこその期待

「THE W」で優勝すると、このあと日テレのいろんな番組に出演できる。

Aマッソや天才ピアニストだと、バラエティを卒なくこなしていきそうだったが(Aマッソはすでにかなりの番組で見かける)そこで「ちょっとバラエティが苦手そうな二人組・オダウエダ」が選ばれたのが、とてもよかったとおもう。

どうこなしていくのか、ときにぎこちない姿を見せるはずだが、そこを含めて、とても期待される。

オダウエダがいろいろ見かけられるかとおもうと、かなり楽しみである。

コラムニスト

1958年生まれ。京都市出身。1984年早稲田大学卒業後より文筆業に入る。落語、ディズニーランド、テレビ番組などのポップカルチャーから社会現象の分析を行う。著書に、1970年代の世相と現代のつながりを解く『1971年の悪霊』(2019年)、日本のクリスマスの詳細な歴史『愛と狂瀾のメリークリスマス』(2017年)、落語や江戸風俗について『落語の国からのぞいてみれば』(2009年)、『落語論』(2009年)、いろんな疑問を徹底的に調べた『ホリイのずんずん調査 誰も調べなかった100の謎』(2013年)、ディズニーランドカルチャーに関して『恋するディズニー、別れるディズニー』(2017年)など。

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