コンクリの「下敷き」になり死亡も 増え続ける「外国人労災」の実態とは?
先月(5月)30日に厚生労働省が2021年の労働災害発生状況を公表した。報道ではコロナ感染による労災が話題をよんだが、実はコロナ感染を除いた死傷者数が過去20年間で最大の13万人強であり、近年、職場での怪我や病気による労災が急増している。
速報:昨年の労災が「20年で最大」の死傷者数 コロナだけではない増加要因とは?
そうした中で、外国人労働者の労災の増加も顕著だ。外国人に関しては、北海道の花畑牧場で働くベトナム人労働者によるストライキや、岡山の建設企業で働いていたベトナム人技能実習生に対する暴力事件など、多くの労働問題について報道がなされている。
こうした外国人労働問題の背景には職場の劣悪な環境が存在する。それを表す端的な数字が「労働災害」の件数である。災害件数が多いということは、それだけ「使い捨て」の働かせ方をしているということでもある。今回は、外国人の労働問題について、職場での怪我や病気といった観点から公表された統計を分析していく。
増え続ける外国人労働者の労災
まず、死傷者数(休業4日以上)について見ていこう。すべての産業を合計した外国人労働者の死傷者数は5715人であった。2020年の4682人や2019年の3928人と比較すると、毎年増えている。なお死者数については、2019年は21人、2020年は30人、昨年は24人となっている。
国籍別でみると、ベトナムの1718人が圧倒的に多く、全体の30.1%を占める。2番目に多いフィリピンの892人(15.6%)の約倍である。中国(香港等を含む)は721人(12.6%)、ブラジルは672人(10.9%)と続く。
在留資格別では、労災の死傷者数が最も多いのは、定住者や永住者などが含まれる「身分に基づく在留資格」の2358人で全体の41.3%を占める。続いて、「技能実習」の1912人(33.5%)、「専門的技術的分野の在留資格」の753人(13.2%)、「特定活動」の405人(7.1%)、留学生を含む「資格外活動」の275人(4.8%)となっている。
労働災害の「発生する割合」が増加
これらわかるのは、昨年と比較して、外国人労働者が労災に遭う頻度が高くなっているという点だ。この間、様々な在留資格を得て日本で働く外国籍の労働者は急増していたが、2021年はコロナを理由とした渡航制限により前年度比0.2%にとどまっていた。2020年は172.4万人が働いており、うち4682人が労災に遭っていた(0.27%)が、2021年は172.7万人のうち5715人で労災に遭う割合は0.33%と前年より高くなっている。
また、技能実習生が労災に遭う割合が外国人労働者の中でも高く、これまで以上に彼らの働く職場がより危険になっていることもわかる。例えば、技能実習生数は外国人労働者総数の20.4%だが、労災死傷者数でみると33.5%を占めており、外国人のなかでも労災に遭いやすい。
また、実は渡航制限の影響を最も受けた技能実習生は2020年の40.2万人から2021年の35.2万人と約5万人も減少しているのだが、労災死傷者数は2020年の1625人から287人も増加しており、技能実習生が労災に遭う頻度が高い危険な職場で働くようになっている。
参考:厚生労働省「外国人雇用状況の届出状況」(各年10月末現在)
会社の安全対策の不備に起因する労災事故
業種別にみると、製造業での労災が圧倒的に多く、全体の約半分(52.6%)を占めている。怪我の種類で最も多いのは、「はさまれ・巻き込まれ」の1162人で、その大半はやはり製造業での事故だ。
では実際にどのような労災事故があったのだろうか。具体例を報道などから見ていきたい。
20歳代の外国人技能実習生が木造住宅の解体工事中に、建物の地下一階部分に入り瓦礫を運び出す作業を行っていたところ、コンクリート製の一階部分が崩壊し、その下敷きとなって死亡。安全教育を怠ったとして、労働安全衛生法違反で会社(国土環境開発)と代表取締役が書類送検された。
宮城県の水産加工業者で働いていた30歳代のベトナム人女性技能実習生は、昨年5月、作業中に機械に指を挟まれて人差し指を切断する大怪我を負った。機械の運転を停止しないまま調整作業を行わせたとして労働基準監督署は会社に労働安全衛生法20条違反で是正勧告を行った。
愛媛県で船舶の塗装作業中に40歳の中国人男性技能実習生が約15メートル下のスペースに転落し死亡した。今治労働基準監督署は転落の恐れがあったにも関わらず立ち入りを禁止しなかったとして、労働安全衛生法違反で会社と代表取締役を書類送検した。
ここまでの具体的な事例をみてわかるのは、外国人労働者の労災事故はいわゆる「文化の違い」に起因するものではなく、むしろ会社側の安全対策の不備にあるという点だ。会社には労働者が安全に働くことができる職場環境をつくる義務(安全配慮義務)があるが、これらのケースをみても事前に怪我や事故を防ぐための対策を講じていなかったことが原因で、事故が起こっている。
そもそも「文化の違い」や「認識の齟齬」が労災事故の原因なのであれば、「日本人」の労災事故は減っていなければおかしいが、別の記事で紹介したように全体的に労災事故は増加傾向にある。
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つまり、増え続ける労災事故を減らすためには、労働者側の認識を変えることではなく、会社側に必要な安全対策を求めていくことしかないのだ。
頻発する労災隠し
さらに、労災の件数は増え続けているが、その背後には、会社が「労災を使うな」と労働者を脅して、実際は職場での事故や怪我であるにも関わらず「私傷病」として処理されてしまっているケースも数多く存在すると考えられる。
例えば、これまで何度も報道され注目を集めた岡山市の建設企業で働いていたベトナム人男性技能実習生のケースでは、2年以上職場の同僚から暴力を受け続けていたことに加えて、2020年5月には足場解体作業中に解体部品が男性の顔面を直撃して歯を折るという大怪我を負った。
しかし、男性を支援する労働組合・福山ユニオンたんぽぽによれば、会社側は男性に労災ではなく「自転車で転んだことにして」と伝え、また病院に同行して、団体に代わって日本語で医師に虚偽の説明をしたという。(<上>「守る」仕組み作り 急務 )
また、別のケースでも、労災事故で小指の爪を失った中国人技能実習生に対して休みを与えないだけでなく、労災を隠蔽するために労災保険ではなく健康保険を使わせたとして、電子通信機器用部品製造業の丸和製作所が書類送検されている。
(技能実習生 休業させず労災隠ぺい 健康保険使わせ送検 津労基署)
職場で怪我や病気などが起こったにも関わらず労働者死傷病報告を労働基準監督署に提出しないという「労災隠し」は、労働安全衛生法で罰則も定められた違法行為だが、企業は今後の保険料負担の増額や、被害に遭った労働者から責任を追及されることを避けるために、このような違法行為も平然と行っている。特に、立場の弱い外国人労働者がその被害に遭っていると考えられる。
労災をなくしていくために
ここまでみて明らかなのは、外国人労働者が働く職場がより危険度を増していること、そして今回の統計で明らかになった事実じたいが氷山の一角であり、本来労災であるにも関わらずそのように取り扱われていないケースが数多く存在する可能性があるということだ。
では、どうすればよいだろうか。まず必要なことは、労災に遭った労働者じしんがその責任を会社に追及して必要な補償を受けられるようにすることだろう。周りにそのような人を知っていれば、このような支援活動を行っている労働組合や労働者側のNPOなどの専門家にぜひ相談するようすすめてほしい。一人で、ましてや日本語が母語でない労働者が労災申請を行い、会社に補償を求めることは大変だが、支援団体の通訳などを介すれば、そのような権利行使も十分可能だ。
さらには、事故が起こる前に会社に安全対策を求めていくことも重要だ。実は労働組合には、単に賃金を上げるといったことにとどまらず、職場の安全対策(労災事故やハラスメント対策など)を求めるという役割もある。このように働く人じしんが声を上げて、職場環境を変えていくことが必要だ。
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