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速報:昨年の労災が「20年で最大」の死傷者数 コロナだけではない増加要因とは?

今野晴貴NPO法人POSSE代表。雇用・労働政策研究者。
過去20年の労災死傷者の推移

1998年以降最大、コロナ抜きでも2002年以降最大の労災

 本日(2022年5月30日)、厚生労働省が2021年の労働災害発生状況を公表した。

 2021年の労災による死傷者数は約15万人となり、1998年以降で最大の数値となることがわかった。とはいえ、そのうち1万9332人は新型コロナウイルス感染による労災である。

 では、コロナ感染を除いた労災死傷者数はどうだろうか。実はこちらの数字も高く、2002年以降の過去20年間で最大の13万586人に上る。コロナ感染抜きで13万人に達したのも、2001年以来のことだ。

 一体、どのような労災が増加したのだろうか。背景には何があるのだろうか。公表された統計を見ていこう。

過去20年の労災死傷者の推移
過去20年の労災死傷者の推移

社会福祉施設の労災は46.5%増加、動作の反動・無理な動作は28.4%増加

 まず、直接のコロナ感染による労災を除外したうえで、労災による死傷者が過去5年間で増加している主要な業界を見てみよう。下記の3つが特徴的だ。

陸上貨物運送(2017年の1万4706人→2021年の1万6355人で11.2%増加)

小売(2017年の1万3881人→2021年の1万6425人で18.3%増加)

社会福祉施設(2017年の8738人→2021年の1万2797人で46.5%増加)

 次に、労災の種類の変化を見てみよう。過去5年間で最も増加したのは、次に示した三種類である。

「動作の反動、無理な動作」(2017年の1万6177人→2021年の2万777人で28.4%増加)

「転倒」(2017年の2万8310人→3万3672人で18.9%増加)

「墜落・転落」(2017年の2万374人→2021年の2万1286人で4.5%の増加)

コロナ禍、高齢労働者の増加、サービス産業労働者の増加

 上記の特徴から、労災増加の背景として推測されるのは、まず間接的なコロナ禍による影響だ。

 特に宅配業界の労災は年々増加していたが、「ステイホーム」期間中に宅配の需要が高くなり、ますます宅配労働者の業務が過酷になったことで、労災の増加に拍車がかかったものと考えられる。ちなみに同業界の労災では荷役作業中等の「墜落・転落」が最も多く、 26.9%となっている。

 第二に、高齢労働者の増加の影響である。「動作の反動、無理な動作」は、60歳以上の女性では約2倍の発生割合となっている。さらに「転倒」は60代後半の女性で20代の約16倍、「墜落・転落」は60代後半の男性で20代の約4倍の発生割合だ。高齢労働者の場合、体力の衰えからバランスを崩したり、危険を避けられなかったりして、若年労働者よりも労災被害に遭いやすい。

 第三に、サービス産業の労働者の増加である。社会全体のサービス産業化が進む中で、小売や社会福祉施設(主に介護であると考えられる)の労働者数じたいの増加が、そのまま労災に影響していると見られる(なお、飲食業界の労災は2020年から減少しているが、コロナ禍の休業の影響だろう)。

 なお、小売や社会福祉施設業界の労災では、「転倒」が非常に多い(社会福祉施設でここ3年で最も多いのは「動作の反動、無理な動作」となっている)。特にこうした業界では、製造業や建築業に比べて、労災対策が不十分であるという点が指摘されている。

労災被害の増加を食い止めていくために

 戦後、労災対策が進んでいく中で、労災死傷者数は減少してきた。しかし、非正規雇用、高齢労働者、「ブラック企業」の正社員、外国出身の労働者の増加など、労働環境が劣悪化する中で、20年分もの深刻な揺り戻しが起きてしまっている。

 こうした労災事故の増加の中で、労災対策はもちろん、起きてしまった労災被害について会社に責任を追求し、現場の労働者や家族が声を上げていくことが重要であろう。

 もちろん、いくら賠償が払われたとしても、事故でなくしてしまったり、動かなくなってしまったりした身体が元に戻るわけではないし、被害者が亡くなった場合はなおさらだ。しかし、残された被害者自身や遺族の生活を少しでも過ごしやすいものにするためにも、同様の被害を今後起こさせないよう経営者に教訓を残すためにも、損害賠償請求を行うことは非常に大事なことだ。

 ただ、いずれも個人で行うことはかなり困難なので、ぜひ労災被害者の権利行使を支援する団体や専門家に相談してみてほしい(末尾も参照)。

 産業構造の変化や、労働者層の変化、感染症の拡大などによって、労災事故が今後も増えていくだろう。だが、労災事故を減らすためにも、労働者や遺族が声をあげ、損害賠償を払わせることが当たり前になる社会になっていくことが不可欠ではないだろうか。

(なお、労災の相談を受けている労働組合「労災ユニオン」では、6/5(日)の13時~17時に労災相談ホットラインを実施を予定している。電話は0120-987-215(相談無料・通話無料・秘密厳守)まで)

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ブラック企業対策仙台弁護団

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NPO法人POSSE代表。雇用・労働政策研究者。

NPO法人「POSSE」代表。年間5000件以上の労働・生活相談に関わり、労働・福祉政策について研究・提言している。近著に『賃労働の系譜学 フォーディズムからデジタル封建制へ』(青土社)。その他に『ストライキ2.0』(集英社新書)、『ブラック企業』(文春新書)、『ブラックバイト』(岩波新書)、『生活保護』(ちくま新書)など多数。流行語大賞トップ10(「ブラック企業」)、大佛次郎論壇賞、日本労働社会学会奨励賞などを受賞。一橋大学大学院社会学研究科博士後期課程修了。博士(社会学)。専門社会調査士。

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