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政府も東京都も東京五輪「開催不可能宣言」の準備に入るべきではないのか?

山田順作家、ジャーナリスト
東京五輪開催に向けて難しい判断に立たされた橋本聖子五輪相(写真:ロイター/アフロ)

 橋本聖子五輪相が3日、新型コロナウイルスによる感染症(COVID-19)の拡大を受け、東京五輪を今年の後半に延期する可能性があると発言したことが波紋を呼んでいる。

 これは、可能性を指摘しただけにもかかわらず、世界のメディアはそうは報じなかった。日本がそれを検討しているというニュアンスで伝えたところが多かった。

 現在、五輪ができるかどうかは、日本の最大の懸案事項となっている。そのため、国内メディアの報道はこの1点に集中し、関係者の発言に一喜一憂している。テレビのコメンテーターたちの議論も、この1点をめぐってのものが多くなっている。

 しかし、これは、本末転倒ではないだろうか?

 五輪開催ができるかどうかは、新型コロナウイルスの感染拡大が止まるかどうか、とくに開催国の日本がそれをできるかどうかにかかっているからだ。世界はこれを注視している。

 WHOのテドロス事務局長は、3日、ジュネーブでの記者会見で、東京五輪開催について、「いま決めるのは時期尚早で、状況を見守るべきだ」と述べ、IOCとともに状況を注視していく考えを示した。また、IOCのバッハ会長も、「成功に向けて、今後も全力を尽くしていく」と宣言し、「選手たちには準備を続けてほしい」と述べた。

 つまり、WHOもIOCもいまの状況ではなにも言えない。結論は、今後の状況次第と言っているにすぎない。

 となると、その結論を導くのは、日本の取り組み次第となる。関係者がどんな発言をしようと、その発言者がたとえIOC会長であろうと、開催には関係ない。

 日本のメディアが見落としているのは、じつは、開催できるかの鍵を握るのが、アメリカ国務省の渡航情報にあるということだ。現在、日本は渡航警戒レベル2 「注意強化」(Exercise increased caution)である。韓国とイタリアの一部はすでに渡航警戒レベル4「渡航中止」(Do not travel)になっている。

 トランプ大統領は3日、記者団に「イタリア、韓国、日本の状況を注視している」と述べ、日本も対象とする可能性があるとの考えを示した。となると、このままでは日本がレベル3 「渡航を再検討」(Reconsider travel )になるのは、確実だ。

 そうなれば、アメリカ人は日本にほぼ来ない。アメリカのアスリートたちも来ない。つまり、この渡航警戒レベルが、五輪開催時まで解除されなければ五輪開催は不可能になる。IOCも日本も「やる」と言っても、できるわけがない。

 現在、政府は野党の協力の下に、「緊急事態宣言」ができる特措法の制定を目指している。こんな状況なのに遅すぎたと言えるが、緊急事態宣言をしたらどうなるだろうか? 次は、それがいつ解除できるか、その条件とはなにかということが課題となる。

 感染拡大防止ができなければ、当然だが緊急事態宣言は解除できない。緊急事態宣言が発令中の国が五輪開催をできるわけがない。

 日本が目指さなければいけないのは、五輪開催ではない。優先事項は五輪開催より、国民の命、安全を守るための新型コロナウイルスの感染拡大防止だ。これが、最優先課題で、五輪開催は優先課題ではない。この点をメディア報道ははき違えているように思えてならない。

 この優先順位がわかれば、いま、日本がしなければならないのは、どれほど感染が拡大しているのか、PCR検査を徹底して、その実態をつかむことだ。五輪開催を優先して、感染者数を少なくしようと検査数を抑えようなどとは、けっしてしてはならない。

 そうして、そろそろ準備に入らなければならないのが、東京五輪の自主返上である。自ら期限を決めて「開催不可能宣言」の準備に入ることだ。その準備をしないで、ずるずると時間がすぎ、世界から五輪開催は無理と宣告されたら、これほど屈辱的なことはない。日本と日本人の信用は地に落ちる。

 

作家、ジャーナリスト

1952年横浜生まれ。1976年光文社入社。2002年『光文社 ペーパーバックス』を創刊し編集長。2010年からフリーランス。作家、ジャーナリストとして、主に国際政治・経済で、取材・執筆活動をしながら、出版プロデュースも手掛ける。主な著書は『出版大崩壊』『資産フライト』(ともに文春新書)『中国の夢は100年たっても実現しない』(PHP)『日本が2度勝っていた大東亜・太平洋戦争』(ヒカルランド)『日本人はなぜ世界での存在感を失っているのか』(ソフトバンク新書)『地方創生の罠』(青春新書)『永久属国論』(さくら舎)『コロナ敗戦後の世界』(MdN新書)。最新刊は『地球温暖化敗戦』(ベストブック )。

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