5年目の進化―阪神タイガースのTigers Girls(タイガースガールズ)
■ブーツを履いて踊るという決断
結成されて5年目を迎えた。もはや阪神タイガースになくてはならない存在になったタイガースガールズ。といっても、毎年同じではない。初年度から継続しているのは3人のみで、メンバーも変われば活動の内容も広がり、技術もアップ。年々進化しているのだ。
「今年、一番違うのはユニフォームです」と話すのは、結成時から彼女たちの指導をしている島田若枝子ディレクターだ。「これまで4年間のテイストとは変わって、今まで積み上げてきたものプラス、新たな5年目のタイガースガールズとしてのスタイルになりました」。
島田ディレクターによると、今年は「認知された実感」をひしひしと感じているという。「阪神タイガースの中にタイガースガールズがいるっていうのが、いい意味で当たり前になった。わたしもメンバーも、ひとつ形になったなと感じています」と話す。
そこで「5年目のプラスアルファというか、何か進歩したものができるんじゃないかって自信も出てきて、5年目を迎えるにあたってもっとチャレンジしたいと思ったんです」と、より高みを目指した。
それを体現しているのがユニフォームの「ブーツ」だ。なんと外周ステージでのダンスで、ヒールのあるブーツを履いて踊っているのだ。
「他球団のチアでヒールのブーツを履いて踊っているのはなかなか見たことなくて…」。NFLの映像などでは目にするが、希少ということはつまり難易度が高いということだ。それを今年のメンバーはみごとにクリアしている。
「今までのタイガースガールズは“さわやか”とか“元気”というイメージだったと思うんです。それを進化させて“おとなっぽさ”が加わりました」と島田ディレクターも胸を張る。
なるほど。インパクト大だ。「かわいい」「ステキ」と女性ファンからの評判もいい。もっともわかりやく大きく変えられるということでビジュアル面に手を加えたが、それに伴ってダンスも進化したというわけだ。
■タイガースガールズのいるところだけ晴れてるね
実際、その難易度はかなり高いそうだ。「ある程度のダンスのスキルがないと、履きこなせない」と島田ディレクターも言い切る。「ヒールを履いて踊ったことがない子がほとんど。最初は不安もあったようです。『今までと同じようにできないんじゃないか』って」。
しかし島田ディレクターは信じていた。「わたしも去年までだったら言えなかった。今の彼女たちならできるレベルにあると感じたのでチャレンジしようと思った」と、自信を持って取り入れた。
ブーツの導入が決まったのは今年に入ってからだ。そこから開幕まで3ヶ月、みっちり特訓した。これまでのフラットな靴での練習に加えて、ヒールを履いての練習を増やした。
コツがあるという。「自分の体をコントロールするということです。ブーツを履くからだけではなく、自分の体…手先、足先、爪の先までコントロールする力を持つことで、どんな状況でも対応できるんです。たとえ靴が変わろうが、雨で床が滑ろうが」。島田ディレクターはニッコリとこともなげに語るが、これは相当な訓練が必要だ。
さらにこう続ける。「難しいことを言い訳にしたくないんです。たとえば雨でもお客さまは来てくださっている。そんなとき、タイガースガールズのパフォーマンスを見て楽しかったとか感じてくださったら、わたしたちの役割が果たせたなって喜べるんです」。
どうやらその根底にある「タイガースファンに楽しんでもらいたい」という思いが、至難を可能にさせているようだ。
雨が降っている中でも、ブーツで華麗に踊るタイガースガールズ。「『タイガースガールズのいるところだけ晴れてるね』なんて思っていただけるように…」。そんな思いで難関をクリアし、進化を続けているのだ。
■いいところカード
現在18人のメンバーがいるが、その経験も経歴もさまざまだ。「タイガースガールズに入って体型が変わった子、2年目でよくなった子、いろいろいます。意識が変わることによって見た目が変わる。ただ痩せるとかじゃなくて、苦手なことを克服したことで自信を持って、内面から変わってくる」。島田ディレクターは日々、彼女たちをつぶさに観察し、その変化を感じている。
大事なのは「自分のいいところを発見すること」だという。「そういうのが外に顕れてくると、『この子、こんなに綺麗だったんだ』とあらためて驚いたりしますね」ということもあるそうだ。
そこで島田ディレクターが提唱しているのが「お互いのいいところを言い合いましょう」ということだ。「口で言うのはもちろんですが、思いついたら即、LINEで送ったりも」。人はやはり、言葉で明確に伝えられると嬉しいものだ。それによって自信が芽生える。
シーズン前の2月には合宿を行った。一泊二日で寝食をともにし、いろいろなことを言い合ったそうだが、そこで取り入れたのが「いいところカード」だ。
「18名のメンバーとわたし、それぞれが自分以外の子のいいところを18人分書いて渡すんです」。そう話す島田ディレクターも現役時代に同じことをして、そのころにもらったカードは今でも宝物として大切に置いてあるそうだ。
「もちろん普段から注意もし合います。でも注意ばかりじゃね。日頃からもいいところはすぐに伝えるようにしています」。
お互いに認め合える関係が、タイガースガールズの結束を強くしている。
■Makoさん(2年目)
日々進化を見せるタイガースガールズのメンバーの中から二人、話を聞いた。まずは2年目のMakoさんだ。
「昨年、甲子園でタイガースが勝ったときの景色が最高で、もう一度それを味わいたかったのと、昨年できなかったことをもう一度チャレンジしたくて」と今年もオーディションを受けた。
「昨年は自分自身と向き合えてなかったし、ダンスやそれ以外もチーム(タイガースガールズ)のためにもっとできたんじゃないかって思うんです」。反省が口をつく。
そこで今年は意識が変わったという。「チームの中では“妹キャラ”なんですけど、それだけじゃないわたしをもう少し出したいなと思って、頼られる存在になりたいという課題があるんです。去年よりはチームのために何ができるか考えられるようになったし、自分に足りないことと向き合えるようになって、まだまだだけど、少しは成長したかなと思います」。はにかみながら話す。
「家から一歩出たら、見られているという意識を持っている」そうで、「お化粧の勉強から始まって、筋力トレーニングをしたりもしています」と、自分磨きに余念がない。
食事も栄養士の資格を持つメンバーの指導を仰いで考えて摂り、毎朝食後はラジオ体操を欠かさない。
今後も「ダンスのテクニック面で向き合いたいし、小さなことからミスがないようにして、チーム一丸となってもう一段階上がりたい」とステップアップを誓っている。
■Chinamiさん(1年目)
新メンバーのChinamiさんは「はじめの方は全然慣れなくて、困ったというか自分と戦ってきた時期もあったけど…」と、最初はたいへんだったようだ。しかし試合を重ねていくうちに「球場にわたしが立っていて、わたしの笑顔や声が届いていることが不思議っていうか、嬉しい」と感じられるようになった。
そもそもはご家族がタイガースファンで、「弟は野球、わたしはダンスをやっていたので、『これは受けないといけない!』と思ったんです(笑)」と志望した動機を語る。実際にやってみて「笑顔でお客さまを楽しませられる、子どもたちに夢を与えられる、ステキなお仕事です」と実感しているという。
しかし陰の努力は涙ぐましい。「自分磨きがたいへんです。見た目も大事なんで、ダイエットや筋力トレーニング…好きなモデルさんを理想像にして、そこに向かって頑張ってます」。
これまで多かったという間食も控え、「もともと姿勢が悪かったんで、お腹を引き上げる感じで」と普段から姿勢を意識するようになった。すると「半年くらいで身長が3cmくらい伸びたんです!」と、スタイルも変化してきた。「久々に会った友だちに『痩せたね』『化粧、変わった?』『かわいくなったね』って前向きな言葉をもらえるようになりました」。そう話す笑顔がとてもチャーミングだ。
「わたしを見て、元気になってもらいたいし、子どもたちに憧れられるようになりたい。選手にも力を送りたい」。熱い思いを吐露する。
そしてもちろん、タイガースファンのご家族に見てもらいたい。「ひいおばあちゃん、おじいちゃん、おばあちゃんもユニフォーム着て球場に来て、わたしが踊ってるのを見て泣いていたそうなんです。お父さん、お母さんもわたしが踊ってる姿が一番好きって言ってくれます」。“一番身近なファン”も喜ばせていく。
■厳しいけど大きなリターン
彼女たちは毎週月曜日にレッスンを行う。ダンスだけではなくグリーティング、入口での出迎え、イベント進行、ゲームスタッフなど、役割は多岐にわたる。試合ごとにその分担が変わり、さらにダンスのメンバーやフォーメーションも毎試合変化がある。その1週間分のレッスンを月曜日にすべて行っている。6連戦前となると6試合分、頭に入れておかねばならないのだ。
そんな彼女たちの動きを見て、担当を振り分けている島田ディレクター。「変わらぬモチベーションで取り組めているか、チームに貢献できているか、そういったところを総合的に見て配置しています」。総監督といったところか。
「メンバーを見ることに、もっともパワーを割きます。ひとりひとりを見てあげて、どんなことに困っているか、どんなことで苦労しているか、壁にぶつかったとき、うまくいかないときを見逃さないように。そしてどう声をかけてあげるか、そのタイミングもひとりひとり違うので」。
そうして見続けた彼女たちの「成長が一番の喜び」という。「日々コツコツと努力を重ねて自信をつけると、見た目に顕れる。そういうのを見ると、本当に嬉しい」と目を細める。
厳しい世界だ。しかし彼女たちはみな意識が高く、ストイックだ。
「厳しいけど、リターンも大きいんですよ。お客さまが笑顔になったり、子どもたちに憧れられたり。自分が頑張ったこと(の対価)が直接返ってくるお仕事ってなかなかない。彼女たちには感謝しながら取り組んでほしい。誰にでもできるわけじゃない、そしてずっとできるわけじゃないから」。
島田ディレクターの言う「リターン」とは、やりがいだ。そして誇りだ。
阪神タイガースにはタイガースガールズがいる。今日も笑顔で、タイガースファンとともに勝利の後押しをする。
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【島田若枝子(しまだ もえこ)ディレクター】
1999年~同志社大学でチアリーディングを始める
2004年~社会人アメリカンフットボールXリーグオンワードスカイラークスチアリーダーズ
2007年~新潟アルビレックスチアリーダーズ
2010年~チアチームGracesを立ち上げる
ラグビートップリーグNECグリーンロケッツのホームゲーム、ビーチバレーJBVツアーでのパフォーマンスなど各種スポーツイベントや企業イベントに出演
2011年~プロフェッショナルチアリーディング協会オールスターチアリーダー
バスケットボールbjリーグ浜松・東三河フェニックスFireGirlsパフォーマンスディレクター
2013年 社会人アメリカンフットボールXリーグ日本ユニシスブルズチアリーダーズコーチ
2013年~バスケットボールbj リーグ浜松・東三河フェニックスFireGirlsジュニアチアリーダーズを立ち上げ、ディレクターに就任
2014年~Tigers Girls ディレクター
(撮影はすべて筆者)
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