タイガースガールズからのお願い。「日本一になって!!」
「SMBC日本シリーズ2014」が開幕した。クライマックスシリーズを無敵の5連勝(1分け含む)で勝ち抜いたタイガースとパ・リーグの覇者、ホークスとのマッチアップ。決戦のスタートは甲子園球場だった。
この時をファンとともに待ち望んでいた人達がいる。今年誕生した「タイガースガールズ」のメンバーだ。「勝ち上がって甲子園に帰ってきてくれると信じていました」と、スケジュールを空けて待っていた彼女達は「私達のパワーが伝わったかな」と大喜びだ。
試合前のダンスパフォーマンスでは、“日本シリーズ仕様”のものをひと工夫加えた。ダンスの後のポンポンでつくる文字を『日本一』にした。「シリーズ進出が決まった時、やろうと思って。お客さんにどうやったら伝わりやすいか、何パターンか考えました」と話すのは、タイガースガールズを束ねているディレクターの島田若枝子さんだ。
『GO FOR VICTORY』や『TIGERS』など思案した結果、そのままズバリ、『日本一』にした。通常、試合前のダンスは10人で行うが、この日本シリーズでは17人全員で踊っている。ダンス後、17人のポンポンでつくる『日本一』の文字には、タイガースガールズの熱い思いがこもっている。
■チアガールではなく、ファンサービスメンバー
今年、「36年ぶりにチアガール復活!」と話題を集めたタイガースガールズだが、実はその表現は正しくない。タイガース営業部の入山隼士さんによると「正確にはファンサービスメンバーです。色々な業務がある中の一つにダンスパフォーマンスもある」とのこと。
グラウンドでのダンスパフォーマンス以外に、開門時のお出迎えやダンスオーディションのMC、試合中はボールガールやリリーフカーの運転などのゲームスタッフ。そして球場以外でも幼稚園や小学校訪問なども行っている。
「昨年までそれぞれ外部に委託していたところを一任し、年間通して同じメンバーで運営していきたいということと、ファンにもっと近いところでファンサービスをしていきたいということで、タイガースガールズを作りました。チアを作ろうではなく、新しいファンを拡大するためのファンサービスメンバーです」と入山さんは話す。
昨年末に募集をかけた。年末年始を挟んだことや募集期間が短かったこともあり、応募総数は200弱だったという。「初めてだったので仕事内容も伝わりにくかったのもあります」(入山さん)。そこから選考を重ねていった。重視したのは「ファンサービスメンバーとして柔軟に考えていけるだろうなという人」。ダンスの上手さは二の次だったという。
島田ディレクターも「立ち上げの大切な1年目。責任を持って活動できる芯のある子、タイガースが好きで、熱く応援する気持ちを持っている子を選びました」と話す。「タイガースファンというだけでは務まらないんです。選ばれたら、今までファンとしてしてきたことも制限されます。例えば、お休みの日にスタンドで応援することはできなくなりますし、虎ファンが集まるお店に行くこともできません。そういうことを理解できる子でないと務まりません」。相当な覚悟が求められた。
ダンスパフォーマンスだけでなく、喋り方や喋る時の姿勢、人にしっかり伝えることができるか、といったところも重要な審査基準となった。
オーディションではタイガースに対する思いを絵描き歌で表現する人、早口言葉を言いながら踊る人、ボードを持って踊る人…様々なパフォーマンスでアピールがあったという。その中から17人の精鋭たちが選ばれた。
■対話と“シスター制”
通常の試合では、ダンスが10人、ボールガールが2人、リリーフカーが2人というシフトになる。ダンスの10人枠は「それまでの試合のパフォーマンスでの結果を見ながら」とカードごとの入れ替え制だ。厳しい。「最初は経験でダンスにも差があったけど、元々のダンスの力というより『ここで何をしなきゃいけないか』ということを考えられる子が伸びていますね。ダンスやチアの経験がある子が追い越されたりもあります」。お客さんから見て楽しめているのか。自分も楽しんで、表現したいことがお客さんに伝えられているのか。「上手下手ではないんです」と島田ディレクターは強調する。
18歳から30歳の女子たち17人をまとめていくに当たって、島田ディレクターは対話を大切にしている。「全員それぞれ生活もあって、考え方も感じていることも違う。小さな変化も見て、話を聞くようにしています」と言い、月に1度、マンツーマンで懇談する機会を設けている。
また“シスター制”も導入した。「野球部の部屋子みたいなもんです(笑)。2人組で、まずはその2人で相談すること」。構成は通常、「ベテランとルーキー」なのだが、今年は全員同列ということで「経験者と未経験者」としている。
女の子ばかりというのは特殊だ。「大変ですねぇ。自分自身も難しかったんで、そこを一番気をつけています。仲良しサークルではないので、意見を言い合って、切磋琢磨して助け合ってやっていってほしい。コミュニケーションのやり方を間違わないように指示は出しています」。
そして円滑なコミュニケーションを育むために、1.陰で悪口を言わない、2.注意する時は皆の前でしない、3.頭ごなしに相手を否定しない―という決め事を作っている。「自分だけ目立ちたいという子はいませんし、今、派閥もなく皆で助け合ってやっていけています」。島田ディレクターの思いはしっかりと受け止められている。
■ファンにとって身近な存在に…
発足初年度のタイガースガールズは大活躍だった。試合が劣勢な時は雰囲気を変えようと奮闘し、リードしている時は更に盛り上げた。甲子園球場で開催されたオールスターゲームでは「彼女達がいてくれてよかった。ファンとの交流がマスコット以外でもできたし、随所で働いてくれた。彼女達がいたから、華やかな演出も可能になった」と、入山さんも手応えを感じたという。
ただ「もっともっとやれることもあるだろうし、ファンにもっと身近になってもらいたい」と願いは尽きない。期待するのはファン層の拡大だ。男性ファンが多いタイガースにとって、女性ファン獲得は目指すところだ。「選手として入団できない女の子にとって、グラウンドに立てるという夢を持ってもらえるし、同年代の女性なら頑張っていることに共感を持ってもらえる」と、タイガースガールズの存在に期待するところは大きいという。
さて日本シリーズはここまで1勝1敗のタイとして、舞台をヤフオクドームに移す。敵地で決まってしまう可能性もあるが、ファンの願いは甲子園球場での日本一決定だろう。
その時はきっと、タイガースガールズが最高のパフォーマンスで花を添えてくれる。