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笑いの美学を貫く『トークサバイバー!』は千鳥・大悟版『とんぼ』である

ラリー遠田作家・お笑い評論家

Netflixで独占配信中のコメディシリーズ『トークサバイバー! ~トークが面白いと生き残れるドラマ~』が話題を呼んでいる。企画・演出を手がけているのは『ゴッドタン』などの人気番組の演出・プロデュースで知られる佐久間宣行氏、メインキャストは千鳥の2人。いま最も勢いのあるテレビマンと芸人がタッグを組み、壮大なスケールのバラエティ作品を世に送り出した。

配信が始まるとすぐにお笑いファンの間で注目を集め、ネット上の口コミでその評判がどんどん広がっていき、Netflix国内シリーズ部門のランキングでは2週連続1位を記録した。

『キングちゃん』の人気企画を発展させた

『トークサバイバー!』の原型となっているのは、テレビ東京で放送されていた『NEO決戦バラエティ キングちゃん』の「ドラマチックハートブレイク王」という企画だ。芸人たちがドラマの設定で真面目に役柄を演じながら、自分が情けない思いをした経験を語るという変則的なトーク企画である。

『トークサバイバー!』ではそれをさらに発展させて、ドラマパートとトークパートの二部構成になった。ドラマパートでは、千鳥の大悟を主役にしたストーリーが展開される。本物のドラマや映画のように映像が作り込まれていて見ごたえがある。

このドラマパートを「フリ」にして、トークパートでは芸人たちが役柄を演じたままテーマに沿ったエピソードを披露していく。ドラマの部分がこれでもかというほど緻密に作り込まれているからこそ、トークパートのバカバカしさが際立って笑いが増幅する仕掛けだ。

ただ、このトークパートにも独特の緊張感が漂っている。面白くなかった人は脱落してドラマの中でも殺されてしまい、その後のストーリーに参加できなくなるからだ。この生き残りをかけた「笑いのデスゲーム」と物語が同時並行で進んでいき、視聴者をどんどん引き込んでいく。

超豪華メンバーによる笑いの真剣勝負

『トークサバイバー!』の最大の見どころは、豪華な顔ぶれの芸人たちが本気で勝負をしている姿である。その中には、劇団ひとり、ケンドーコバヤシなどの実力派の中堅芸人もいれば、ヒコロヒー、オズワルドの伊藤俊介のようにいま売り出し中の若手芸人もいる。狩野英孝、オードリーの春日俊彰のように、普段トークで笑いを取っているイメージがない芸人たちも、それぞれの持ち味を出している。また、アンミカ、峯岸みなみなどの芸人以外のメンバーも底力を見せていた。

彼らが普段のバラエティ番組よりも一段ギアを上げて真剣勝負をしているように見えるのには2つの理由が考えられる。1つは、これがNetflixで配信される大がかりな番組であるから。もう1つは、そこに千鳥がいるからだ。

千鳥のノブは女性ゲストと共に別室で芸人たちを見守り、要所要所でコメントをいれていく。一方、ドラマパートで主役を演じる大悟は、トークパートではほかの芸人と横並びでトークに参加している。プレーヤーでありながら聞き手として場をまとめる進行役も兼ねているようなところがある。

芸人として圧倒的な実力を誇り、同業者の芸人からの支持も厚い千鳥の大悟が、自ら死地に飛び込み、真剣勝負をしている。そんな大悟の背中を見て、芸人たちも負けられないと本気になる。作り込まれた舞台装置と「座長」としての千鳥が、いい意味での緊張感を生んでいた。

「ダサかっこいい」大悟のお笑い哲学

『トークサバイバー!』を何かにたとえるなら、大悟版の『とんぼ』ではないかと思った。『とんぼ』とは、1988年にTBSで放送されていた長渕剛主演の伝説的なドラマである。生粋の長渕ファンである大悟は、このドラマが大好きで、これまでに何十回も繰り返し見ているという。『とんぼ』では、長渕が自分なりの正義を貫くヤクザを思い入れたっぷりに演じている。

大悟が『トークサバイバー!』のドラマパートで演じているのも、その役柄に近いところがあると言えなくもない。言動のすべてが「かっこつけすぎてダサい」というボケになっているので、映像を見守るノブがそこにツッコミをいれてはいるが、ドラマそのものはしっかり作られている。

ひたすら二枚目を気取ってかっこつけている大悟は、とんでもなくダサい。でも、そのダサさが面白いというのは、一周回って芸人として「かっこいい」ということでもある、という二重構造がここには存在する。

ネタバレを避けるため具体的には書かないが、とある場面で大悟が脱落した芸人たちに発する「悪くはなかった。ただ……(以下略)」という一言は、ボケでありながら芸人たちの背筋が伸びるメッセージにもなっていて、この作品の二重構造を鮮やかに示しており、個人的にはここでゾクゾクするような興奮と感動を味わった。

『とんぼ』は、長渕と制作者が自分たちの「美意識」を貫いたことで後世に残る伝説的な作品となった。『トークサバイバー!』でも、全編にわたって「笑いの美意識」が貫かれているので、面白いだけでなく、見る人の心に刺さる作品となっている。

鉄板トークをどんどん消費する出る側の芸人たちの負担は大きそうだが、この作品は『M-1グランプリ』や『笑ってはいけない』シリーズのような、お笑い界を代表するビッグコンテンツになる可能性を秘めている。続編にも期待したい。

作家・お笑い評論家

テレビ番組制作会社勤務を経て作家・お笑い評論家に。テレビ・お笑いに関する取材、執筆、イベント主催など、多岐にわたる活動を行っている。主な著書に『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと『めちゃイケ』の終わり<ポスト平成>のテレビバラエティ論』(イースト新書)、『逆襲する山里亮太』(双葉社)、『なぜ、とんねるずとダウンタウンは仲が悪いと言われるのか?』(コア新書)、『この芸人を見よ! 1・2』(サイゾー)、『M-1戦国史』(メディアファクトリー新書)がある。マンガ『イロモンガール』(白泉社)では原作を担当した。

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