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ドネツク市街地に9M22Sクラスター焼夷ロケット弾が撃ち込まれる

JSF軍事/生き物ライター
SNS投稿動画よりドネツク市への焼夷弾攻撃

 7月23日の深夜、ウクライナのドネツク市の中心部に焼夷兵器が撃ち込まれました。焼夷子弾が上空で散布され燃えながら落下してくる光の粒の数の多さから見て、これは9M22Sクラスター焼夷ロケット弾に内蔵された多数の9N510焼夷子弾が落下してくる様子です。

9M22Sクラスター焼夷ロケット弾の9N510焼夷子弾はマグネシウム-テルミット系であり、成分として白リンは一切使われておりません。白リン弾ではないので注意してください。

なお白リン弾の燃焼温度は摂氏800~1000度。マグネシウム-テルミット系の焼夷弾の燃焼温度は摂氏2000~3000度になります。

 ドネツク市の中心部はロシア側勢力の自称・ドネツク人民共和国の支配領域です。ここから前線まで直ぐ其処であり、現時点では9M22S攻撃地点から僅か10km先は戦場です。なお9M22Sの最大射程は20kmです。

赤色はロシア側支配領域

Google地図を利用したUkraine Control Mapに筆者が9M22S攻撃地点を追記
Google地図を利用したUkraine Control Mapに筆者が9M22S攻撃地点を追記

 すると、普通に考えれば「ウクライナ側が9M22Sクラスター焼夷ロケット弾をドネツク市街地に撃ち込んだ」ことになります。9M22S焼夷ロケット弾はグラド多連装ロケット発射機から運用される旧ソ連時代からある兵器で、ウクライナとロシアの双方が保有しています。そのためロシア側の自作自演の可能性もありますが、現時点ではそのようなことをうかがわせるような情報はまだ入ってきていません。

 これまでウクライナの戦場で9M22Sクラスター焼夷ロケット弾を多用してきたのはロシア側です。これでもしウクライナ側も使いだしたならば、双方が共に条約違反行為を行いだしたことになります。

 ロシアもウクライナも特定通常兵器使用禁止制限条約(CCW)と附属議定書1〜5には参加しています。

High Contracting Parties and Signatories CCW | United Nations Office for Disarmament Affairs (UNODA)

 特定通常兵器使用禁止制限条約(CCW)の付属議定書「焼夷兵器の使用の禁止又は制限に関する議定書(議定書III)」では、人口密集地への焼夷兵器の空中投射は禁止されています。たとえその場所に軍事目標があったとしても、市街地では焼夷兵器の空中投射は禁止されています。市街地への9M22Sクラスター焼夷ロケット弾の使用は条約違反行為です。

【追記】現場から9M22Sクラスター焼夷ロケット弾の9N510焼夷子弾の不発弾が発見されました。小さな六角柱のマグネシウム合金製の外殻は、この兵器にしかない特徴的な形状です。

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軍事/生き物ライター

弾道ミサイル防衛、極超音速兵器、無人兵器(ドローン)、ロシア-ウクライナ戦争など、ニュースによく出る最新の軍事的なテーマに付いて兵器を中心に解説を行っています。

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