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石破首相が就任前に発言「リニアに使うお金があれば北海道の鉄道に使うべき」 北の鉄路は石破政権で蘇るか

鉄道乗蔵鉄道ライター
北海道のオホーツク海沿岸を走る釧網本線(写真AC)

 2024年10月1日、石破茂氏が第102代総理大臣となった。その直後に開かれた記者会見では、ある記者から「石破政権が日本にとって、あるいは国民にとって現時点では十分にわからない。各メディア、記者クラブ、ネット、テレビで毎回、国政選挙前に開かれる野党との討論会に参加されるのか」と飛び出した質問に対して、石破首相は「可能な限り対応したい。ネットメディアの影響力は十分に承知をしており、総裁になる前、総理になる前からできるだけいろいろな取材に対しては積極的に応じるように心がけてきた」と答えた。

鉄道に関する各紙インタビューの共通点は!?

 石破氏のこうした発言が示すように、インターネット上では、日本の鉄道のあるべき姿について語ったインタビュー記事をさまざま見つけることができる。石破氏は、鉄道が災害や有事の際に必要不可欠なインフラであると語っていたことについては、筆者の過去記事

・(「有事の際に戦車を運ぶのは鉄道」 鉄道ファン、石破茂首相誕生で期待高まる地方鉄道の存続・活性化

・(「日本の鉄道では戦車は運べない」ネット上の批判に欠けている視点 現状追認ではなく課題解決型思考が必要

でも詳しく触れているが、今回は、石破氏が北海道の鉄道に対してどのように認識し、問題意識を持っているのか掘り下げてみたい。

 現在、インターネット上で容易に閲覧が可能となっている石破氏のインタビュー記事は、

・東洋経済オンライン 2018年5月8日付記事(石破茂が指摘する「日本に必要な鉄道政策」

・JCASTニュース 2024年1月4日付記事(「リニアに何の意味があるかよく分からない」 鉄オタ・石破茂氏が語る、本当に必要な鉄道整備とは

・JCASTニュース 2024年1月5日付記事(「国防力としての鉄道、全然儲かりませんよ?」 鉄オタ・石破茂議員が指摘する、ローカル線が担う「本来の役割」

・AERA dot. 2024年2月24日付記事(「鉄オタ」石破茂氏に聞くローカル線の廃線問題 鉄道の役割と未来の在り方とは何か

が挙げられるが、これらの記事の中で共通して語っていることは、地方を含めて日本の鉄道を維持していくためには「上下分離」が必要になるという点だ。

「上下分離」とは何か

 日本では鉄道だけが、鉄道会社が線路をつくり全てのコストを負担しなければならないことから、利用者が少ない地方の鉄道については赤字になることから廃線問題が必ず起きる。しかし、道路や空港は公費で維持管理していることから、バス会社や航空会社はこうしたインフラの維持管理にかかる費用をすべて求められることはなく、公共交通機関の中で鉄道だけが全てのコストを民間に負わせるという理不尽な状況に置かれている。こうしたことから、石破氏は、鉄道も同じ公共交通機関として、線路は公費で維持管理し、そこに民間企業が列車を運行させる「上下分離方式」が落としどころになるのではいかと発言している。

 石破氏は、ケースによっては「バス転換を否定しない」としながらも、東日本大震災時に普段は貨物列車が走行していない磐越西線がガソリンなどの緊急輸送に使われたことから、「鉄道をネットワークとして考えること」の重要性や、「原子力災害時にクルマが大渋滞し身動きが取れなくなったときの避難路としての鉄道の重要性」や、「有事の際の戦車の鉄道輸送」の可能性についても触れている。

リニアに使うお金があれば北海道の鉄道を近代化するべき

北海道の都市間特急列車はそのほとんどが電車ではなくディーゼル車により運行が行われている(写真AC)
北海道の都市間特急列車はそのほとんどが電車ではなくディーゼル車により運行が行われている(写真AC)

 経営危機が表面化しているJR北海道についても、石破氏は「リニアに使うお金があれば北海道の鉄道を近代化するべき」という趣旨の発言をしている。

 1987年の国鉄分割民営化によって誕生したJR北海道は、国鉄から引き継いだ路線を維持運営していくためには年間500億円弱の赤字が出るとされ、この赤字額を穴埋めするために経営安定基金の運用益によって赤字の穴埋めをするスキームが考え出された。経営安定基金は当時の長期金利7.3%から逆算した6822億円とされたが、その後のバブル経済の崩壊による国の低金利政策の影響を受け、経営安定基金の運用益は急激に減少。しかし、こうした状況はなぜか10年以上に渡って放置され続け2010年代に入ってからJR北海道の経営問題が表面化した。

 こうした状況の中で、石破氏は、リニア新幹線の建設についていつの間にか国費が使われることになっていることに触れ「そのお金があるんだったら、北海道の鉄道の近代化にもっと使ったらどうなのか」と問題提起している。さらに「JR北海道は本当に気の毒に思っている」と発言し、ほとんど電化されておらず、重いディーゼル車で過酷な自然環境の中で高速走行をすれば、設備の補修に当然、お金がかかりJR北海道の経営を圧迫することになる。経営安定基金で運用益を出せたのは、金利が高かった時代の話で、いまこれだけ金利が下がっていれば、JR北海道の経営努力が足りないとか、労使関係がうまくいっていないとかそういう要素はないとはいわないけれど、リニアを作るお金があるんだったら北海道の鉄道近代化のほうがよっぽど意味があるという趣旨の発言をしている。

 このほか、別のインタビューでは、北海道の鉄道の活性化に向けては、「JR北海道に財政的な余力がないのであれば、ほかの事業者がJR北海道の線路を使って列車を運行するようなやり方はあるはずだ」、新千歳空港駅についても「今の新千歳空港駅はホーム1面、線路2本しかないので、札幌とのシャトル便のダイヤで目いっぱい」「だったら新千歳空港駅にもう1本ホームを作って線路を2本付けて空港を降りたお客様がそのまま北海道を走る特急列車に乗れるようにすればいい」とも述べている。

JR北海道の経営問題についての解決策は?

2010年代にJR北海道の経営危機が表面化した以降、多くの路線が廃止され根室本線の富良野ー新得間の廃止では、幹線の根室本線が分断された(写真AC)
2010年代にJR北海道の経営危機が表面化した以降、多くの路線が廃止され根室本線の富良野ー新得間の廃止では、幹線の根室本線が分断された(写真AC)

 石破氏が総裁・総理になる前の一連のインタビュー内容から、JR北海道の経営問題の解決策についてはどのようなことが考えられるのだろうか。JR北海道の経営問題の本質は、経営安定基金の運用益によって赤字を穴埋めするとされたJR北海道の経営スキームが、国の低金利政策によって崩壊してしまったことにある。すなわち、国の運輸政策の失敗である。

 こうしたことを踏まえれば、国はまずは、低金利政策の実施によって得られなくなった、JR北海道が本来得るべきだった運用益を手当てするのが本筋で、その上で上下分離などの必要な施策をとることが重要と言える。その上で、公費を使用して北海道の鉄道施設の近代化を図るということになる。

 収益面では、JR北海道のマーケティング能力に不安があれば、現在、北海道内で東急電鉄の車両により運行が行われているザ・ロイヤルエクスプレス北海道のように、JR北海道以外の事業者による北海道内の線路を使用した列車運行の拡大や、新千歳空港駅の機能強化により、鉄道の潜在需要の発掘や利便性の強化による利用促進も考えられる。

 いずれにせよ、石破首相が就任前にインタビューで語った内容は本当に実行に移されることがあるのか、国民の注目が集まっている。

(了)

鉄道ライター

鉄道に乗りすぎて頭の中が時刻表になりました。日本の鉄道全路線の乗りつぶしに挑戦中です。学生時代はお金がなかったので青春18きっぷで日本列島縦断修行をしてましたが、社会人になってからは新幹線で日本列島縦断修行ができるようになりました。

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