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「日本の鉄道では戦車は運べない」ネット上の批判に欠けている視点 現状追認ではなく課題解決型思考が必要

鉄道乗蔵鉄道ライター
自衛隊の機材輸送列車では装甲車や火砲などが輸送されている(写真AC)

 2024年10月1日、政界きっての鉄道ファンである石破茂氏が総理大臣となった。石破首相の誕生で、地方創生や地方鉄道の存続・活性化に対して期待の声が高まっている。石破氏は、これまでさまざなまメディアでインタビューを受け、地方も含めた鉄路の有用性については各所で語っている。

 例えば、2024年2月24日にAERAdot.で受けたインタビューでは、「鉄道の役割と未来の在り方」について、ケースによってはバス転換を否定しないとしながらも、東日本大震災時のガソリンなどの緊急輸送に普段は貨物列車が走行していない磐越西線が利用されたことに触れ「少ない人数で大量の物資輸送ができる鉄道はネットワークとして考えることが重要」「原子力発電所がミサイル攻撃などでダメージを受け大勢の住民を避難させるようなことになれば、クルマだと大渋滞になるので鉄道の方が合理的」「有事の際に戦車や弾薬を運ぶのは、一義的には鉄道」と発言している。

 こうしたことから筆者は、2024年9月28日付記事(「有事の際に戦車を運ぶのは鉄道」 鉄道ファン、石破茂首相誕生で期待高まる地方鉄道の存続・活性化)で、日本国内における鉄道での戦車輸送の必要性について触れたところ、筆者のX(旧ツイッター)には、「日本の鉄道の建築限界や路盤の強度の関係から日本の鉄道での戦車輸送は不可能である」ということや、「そもそも戦車輸送の実績がないことから荒唐無稽だ」などという否定的なコメントが大量に寄せられた。

 しかし、防衛省では、2022年5月19日に国土交通省で開かれた「今後の鉄道物流のあり方に関する検討会」では、ロシア・ウクライナ両軍の戦車や装甲車が鉄道輸送されている画像とともに「自衛隊の輸送力向上のため、鉄道輸送のさらなる活用を追求」する旨が記載された資料を提出している。自衛隊の装備品の輸送については、「鉄道だけではなくトラックや船舶も含めて民間輸送力も含めて効果的に使用する」趣旨の内容も記載されているが、トラックドライバー不足が深刻している現状などを考慮すれば、今後は日本の鉄道が戦車輸送も含めて活用が可能になるように整備していくことも課題となっていくことは十分に考えられる。

 現在の日本の在来線では、狭小なトンネルも多いことから、列車の幅をジャスト3m以内に納めなければならないと制限されており、そのままでは戦車輸送に適していないことは当然、筆者も認識している。戦後初の国産戦車「61式」では全幅が2.95mだったことから鉄道輸送が可能だったが、その次の世代の「74式」で全幅が3.18mとなり履帯(キャタピラ)を外せば鉄道輸送が可能という但し書きが加わった。「90式」では、総重量が50.2tで全幅は3.33mとなりそもそも鉄道輸送は想定していないと思われるサイズとなった。しかし、最新の「10式」では、総重量44t、全幅が3.24mと「90式」と比較してサイズダウンしていることもあり、一部の設備改修を行えば必ずしも戦車輸送が不可能とは言い切れないのではないのか。

 日本の防衛費は、年々、増額の一途をたどっており、政府は2023~2027年度の5年間で防衛費を総額43兆円とする計画を決めている。当然、必要であるならば日本の鉄道も戦車輸送に適した形で、防衛費の一部を活用するなどしてアップデートしていくべきで、「日本の鉄道の現状が戦車輸送に対応できない」や「戦車輸送の実績がない」という現状追認型の主張は、各業界で人手不足が叫ばれている中で、自衛隊の装備品輸送についていかに輸送効率を上げるべきかという問題の本質を理解しているとは言いがたいのではないだろうか。

(了)

鉄道ライター

鉄道に乗りすぎて頭の中が時刻表になりました。日本の鉄道全路線の乗りつぶしに挑戦中です。学生時代はお金がなかったので青春18きっぷで日本列島縦断修行をしてましたが、社会人になってからは新幹線で日本列島縦断修行ができるようになりました。ステッカーやTシャツなど鉄道乗蔵グッズを作りました。

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