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鈴木知事、貨物列車脱線事故の「JR北海道に遺憾表明」が違和感だらけなワケ 口は出すがカネは出さない?

鉄道乗蔵鉄道ライター
北海道庁本庁舎(写真:I, J o CC BY-SA 3.0)

 2024年11月21日、北海道の鈴木直道知事は、北海道庁でJR北海道の綿貫泰之社長と面会し、16日にJR函館本線の森―石倉間の貨物列車脱線事故について「人流、物流で大きな影響があり極めて遺憾」と述べ、これに対して綿貫社長が「利用客や貨物の荷主、関係者に多大な不便と迷惑をかけたと謝罪。

 綿貫社長は事故現場と類似の踏切で緊急点検を実施したことを報告すると、知事は「JRの経営再生と持続的な鉄道網の確立には輸送の安心安全が大前提だ」と、レールの検査対象を増やすなど安全対策の徹底を求めた様子が報道されたが、この鈴木知事の姿勢に対して違和感を覚えると、ネット上では一部で疑問の声が上がっている。

 JR北海道では、8月31日にも石勝線が豪雨により4日間にわたって寸断された際には、札幌と帯広を結ぶ特急とかち号と札幌と釧路を結ぶ特急おおぞら号が終日運休となり、この時はバス代行輸送すら行われなかった。さらに北海道東部の農作物や乳製品を出荷する貨物列車の運行も止まり、貨物列車のトラック代行輸送もほとんど行うことができなかったことが明らかとなった。

 背景には、ドライバー不足があり、2024年度を迎え残業規制が強化されたことも影響している。この問題の責任の一端は北海道庁にもある。

道庁にも責任があるはずの石勝線寸断時の混乱についてはスルー?

 特に、石勝線の寸断については、3月31日限りで廃止された根室本線の新得―富良野間を廃止せずに、災害時に特急列車や貨物列車が迂回できるようで整備しておけば、釧路や帯広から来る列車を新得―富良野―滝川経由で札幌まで運行することができたが、このルートを廃止してしまったことにより、北海道の鉄道網はより一層脆弱となっている。この根室本線の部分廃止については北海道庁も大きく関わっており、このとき札幌と帯広・釧路方面の人流、物流に大きな影響を及ぼした点については知事にも責任の一端があるはずだが、なぜかこの件についてはスルーしている。

 根室本線の分断については、北海道の鉄道経営を半ば放棄しているJR北海道と行政コストの節約にしか興味がない北海道庁の双方に問題があるが、JR北海道問題の本質は年間500億円にも及ぶ赤字額を経営安定基金の運用益によって穴埋めするという当初国が想定していた経営スキームが、国の低金利政策により崩壊してしまったことが原因であり、本来であればこの是正についてJR北海道と北海道庁の双方が国に対して求めていくことが筋である。

 根室本線は2016年の台風被害によって東鹿越―新得間が不通となり、その後、復旧されることなく被災区間を含む富良野―新得間81.7kmが廃止された。この時の復旧費用は約10億円とされており、この金額は2022年に11年ぶりに災害復旧された福島県の只見線の約90億円や、現在、復旧が進められている熊本県の肥薩線の約235億円と比較しても極めて少額である。

 さらに、このとき国会では、全国の赤字ローカル線を激甚災害から救おうと鉄道の災害復旧にあたって鉄道会社に対する公的な補助率を引き上げようと鉄道軌道整備法の改正が進められていたが、北海道庁の担当部長が衆議院議員会館に乗り込み法改正を推進していた議員に対して「道で策定している計画内容に変更が生じ、負担額が増えるようなことがあっては困る」とクレームを付けている。こうした北海道の政策姿勢が招いた混乱が、この8月の豪雨被害による石勝線寸断で生じた都市間交通と物流の寸断であると言っても過言ではない。

知事の責任は国に対して制度の是正を求めることでは?

 こうした中で、鈴木直道知事はJR北海道を責めるばかりで、国の運輸政策の失敗によりJR北海道が資金不足に陥った根本的な原因を解決しようという姿勢が見られないのは違和感だらけだ。さらに、鈴木知事が夕張市長時代に「攻めの廃線」と称して自ら石勝線夕張支線の廃線を行っているが、夕張市のその後については人口減少に歯止めがかからないばかりか、バス路線の廃止も進み、交通崩壊の一途をたどっている。2023年10月には夕張と新札幌を結ぶ夕鉄バスの路線が廃止され、2024年10月には北海道中央バスも夕張から撤退し、高速ゆうばり号と岩見沢に向かう路線バスが廃止され、夕張の人流に対して大きな影響を及ぼしている。

 鈴木知事は、夕張市長時代に夕張を国際的なリゾート地にするとして、ホテルマウントレースイを始めとした市が所有する観光4施設を格安で中国系資本の企業に売却しているが、その後倒産し、旧夕張駅前にあったホテルマウントレースイはいまだ再開する気配がなく廃墟のようになっている。こうした現状についても鈴木知事は、すでに関与する立場にないとして、いまだ説明責任を果たしていない。

 また、先日、騒動となった北海道猟友会の「ヒグマ駆除拒否報道」についても、鈴木直道知事は国に助けを求めると支離滅裂な対応を行っている。この問題の発端は、北海道知事が所管する北海道公安委員会が、砂川市で警察官立ち会いのもとでヒグマの駆除のため発砲したハンターの男性に対して猟銃所持の許可取り消しといった不当な処分を行ったことが原因で、責任の所在は知事にあるはずであるが、なぜか国に助けを求めるといった違和感だらけの対応を行っている。筆者の記事(猟友会が異例の「ヒグマ駆除拒否」報道で問われる北海道知事の責任 JR北海道ではクマとの衝突事故も増加)でも詳しく触れている。

 こうした鈴木知事の姿勢に対してネット上には「人を不快にさせる天才だ」「JR北海道に頭を下げさせるよりも、知事が霞が関に出向いて北海道の鉄道支援を要請するのが先ではないのか」「口だけ出して金出さず。知事としてのメンツだけは立ちました」「廃線王がナニを偉そうに」など厳しいコメントが寄せられている。

(了)

鉄道ライター

鉄道に乗りすぎて頭の中が時刻表になりました。日本の鉄道全路線の乗りつぶしに挑戦中です。学生時代はお金がなかったので青春18きっぷで日本列島縦断修行をしてましたが、社会人になってからは新幹線で日本列島縦断修行ができるようになりました。ステッカーやTシャツなど鉄道乗蔵グッズを作りました。

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