Yahoo!ニュース

投資で儲けたければ、MITテクノロジーレビューを使え

遠藤司皇學館大学特別招聘教授 SPEC&Company パートナー
(ペイレスイメージズ/アフロ)

 2月27日、MITテクノロジーレビューは ”10 Breakthrough Technologies 2019” を発表した。

 2月末の記事をなぜ今になって、と思われる方もいるかもしれないが、日本版の記事を待っていたからだ。しかし一ヶ月経っても、日本版では2018年版しか公開されていない。理由は定かではないが、どうにも遅すぎると言わざるを得ない。早めの対応が望まれる。

 MITテクノロジーレビューの日本版は、2016年10月1日から開始された。現在は米国以外では、スペイン、ドイツ、イタリア、アラブ、パキスタン、中国、そして日本で展開されている。なかでも中国版の成長は目覚ましく、日本とは比べものにならないようだ。

 理由はシンプルである。現在の日本は、知識に対する投資意欲がきわめて低い。一方で中国では、新たな知識を得ることに貪欲である。知識が金になることを熟知しているからである。

 いわゆるチャイナテックの成長は見事である。KPMGによれば、IoT関連産業は年24%、フィンテックは年60%の成長率を見せているようだ。AI産業に対する政府支援も強力であり、2030年までに世界トップレベルのAI国家を目指すとの目標を掲げている。内閣府の会議室でああだこうだ話し合っているばかりの日本とはわけが違う。動かなければ、何も始まらない。

 とはいえ、政府のせいにしていても仕方ない。自分の人生は自分で決められる。活用すべきは、正しい情報、信頼できる情報、使える情報である。それらを概して知識と呼ぶとすれば、多くの知識を取り入れることで、新たなビジネスの機会を発見することができる。とくにテクノロジーの時代において、MITテクノロジーレビューは相当信頼のおける知的メディアである。現代における金の卵を産むニワトリが、目の前に存在するのである。

画期的なテクノロジー 2019

 なかでも毎年発表される 10 Breakthrough Technologies という記事は、投資計画を立てるためのガイドラインを提供してくれる。

 同記事は、数年の間、仕事と暮らしに影響を与えることが想定される画期的なテクノロジーを発表している。2019年の選出は、以下の通りである。

Robot dexterity

New-wave nuclear power

Predicting preemies

Gut probe in a pill

Custom cancer vaccines

The cow-free burger

Carbon dioxide catcher

An ECG on your wrist

Sanitation without sewers

Smooth-talking AI assistants

 知らない言葉が並んでいると、ページを閉じてしまいたくもなるだろう。そういう人は決してお金持ちにはなれない。そもそも記事は、分からない言葉を解説するために作成されているのだ。仕事で疲れているのかもしれないが、我慢して読んだほうがいい。アリストテレスの言うように、学びの根は苦いが、その果実は甘い。

 各テクノロジーは、それぞれの専門家が短い解説を書いている。加えて多くの場合、ブレークスルー、なぜ重要か、キー・プレーヤー、実現時期の四つが記されている。実現時期が「実現済み」となっている場合、それを実現しているキー・プレーヤーや、その他の関連企業に注目するとよい。「3-5年」であれば、先行投資して5年以内の収益を目指せばよいだろう。それらに選択的に投資することで、リターンの確度を上げることができる。

 投資の仕方には色々ある。個人投資であれば、メインは株式投資であろう。最近では何でもAI、AIと言う風潮があるが、偽物に騙されてはいけない。「本物のAI」を見分けるには、信頼のできる情報が必要になる。だからこそ、新しい言葉に惑わされることなく、それらの動向を普段から注視しておくべきなのである。そのための情報、知識を提供してくれるのが、MITテクノロジーレビューの豊富な記事である。

 さて、技術とは手段にほかならず、あくまでも技術そのものは何の収益も上げない。手段は、何らかの目的に用いられるときに、ようやく価値をもつ。したがって、記事のキー・プレーヤーに直接投資するのも結構だが、それらを用いて新たなビジネスを創造しようと目をギラつかせている人たちに投資することもまた、検討したほうがよい。いずれにせよ、知識が金を生むのである。テクノロジーに関する知識と、世の中が求めていることを理解するための知識の二つがかみ合ったときに、高い収益はもたらされる。

投資家が経済成長を加速させる

 マルクス主義の影響からか、わが国では「働かざる者食うべからず」(レーニン)の思想が蔓延しており、人のフンドシでお金を儲けることはよくないことのように思われている節がある。

 しかし、投資はきわめて生産的な行為である。起業家とは、社会の問題を解決するための新たな手段を生み出そうという気概のある人のことだ。だが彼らの手元には、多くの場合お金がない。せっかく思いをもっていても、実現できないのである。そうであれば、起業家に対する投資は、彼らの善意を支援する行為にほかならない。そうすることで、自らもまた善意を表することができるのである。

 単に金儲けを目指している企業も存在するだろう。あるいは、仮想通貨のようなマネーゲームも存在する。そういったものに関わってはならないのは、そこに善意がないからである。善意がないものは、分が悪いとみなされたときには、波が引くように立ち消えていく。幾多の歴史がそれを証明しているのに、人々はいまなお愚行を繰り返している。

 最後に残るのは、現実社会をよりよいものにしようという意図のあるビジネスだけだ。そのような意図は、関わる人々に活力をもたらし、立ちはだかる数々の困難を乗り越える動機を生み出すだろう。投資家は、手段に投資するのではなく、目的に投資せよ。よき目的を見分ける力を身につけるためにも、日常的に知識を得る努力は欠かせないのである。

皇學館大学特別招聘教授 SPEC&Company パートナー

1981年、山梨県生まれ。MITテクノロジーレビューのアンバサダー歴任。富士ゼロックス、ガートナー、皇學館大学准教授、経営コンサル会社の執行役員を経て、現在。複数の団体の理事や役員等を務めつつ、実践的な経営手法の開発に勤しむ。また、複数回に渡り政府機関等に政策提言を実施。主な専門は事業創造、経営思想。著書に『正統のドラッカー イノベーションと保守主義』『正統のドラッカー 古来の自由とマネジメント』『創造力はこうやって鍛える』『ビビリ改善ハンドブック』『「日本的経営」の誤解』など。同志社大学大学院法学研究科博士前期課程修了。

遠藤司の最近の記事