入管、読売新聞にリークした「人権配慮」の欺瞞―「難民鎖国」日本、さらに悪化か?
迫害から逃れて来た難民達や、日本に家族がいるなど帰国できない事情を持つ外国人達を、法務省・出入国在留管理庁(入管)が、国外退去を迫り、その収容施設に長期収容している問題で、新たな動きがありそうだ。今月22日付の読売新聞によれば、入管は、6か月以上の収容が見込まれる難民申請中や訴訟中の外国人らについて、収容施設外での生活を認める「監理措置」(仮称)制度を新たに導入する方針だそうだ。また、難民認定には至らないものの、母国が紛争中で帰国できない外国人らを「準難民」(仮称)と認定し、在留を認めて保護対象とするとも報じている。これは、一見良いニュースのように見えるが、難民その他の在日外国人を支援してきた弁護士達は入管や日本の難民受け入れ制度が抱える本質的な問題を解決するものではない、むしろ不当な管理強化だとして批判している。また、読売新聞が報じている入管の方針は、法務大臣の諮問機関の一つ「収容と送還専門部会」での議論でもほとんど論議されていなかったもので、政策決定のプロセスや行政とメディアとの関係性という点からも不透明かつ不誠実なものだ。本稿では、読売新聞が報じた「入管の新方針」の問題点や、「収容と送還専門部会」での論議について、難民その他の外国人の人権という視点から、解説していく。
◯寝耳に水の「監理措置」と「準難民」
入管による長期収容は、就労や逃亡しない等の条件で収容施設外での生活を認める「仮放免」が数年前から異様に認められ辛くなったことから、それまでは例外的であった2年以上の収容も珍しいものではなくなった。これに対し、長期収容されている被収容者達は、仮放免を求めハンガーストライキを行った。そうした中で、昨年6月、長崎県の大村入管でハンガーストライキ中であったナイジェリア人男性が餓死する事態も起きた。この件に対し市民やメディアからの批判が相次いだこともあり、法務省・入管は法務大臣の諮問機関の一つとして「収容と送還専門部会」を立ち上げ、同部会は今年6月に提言を取りまとめた。この提言をもとに早ければ今年10月後半から招集される臨時国会に提出されるべく、その直前に入管法の改正の政府案が閣議決定される可能性がある。上述の読売新聞の記事はそうした日程を見越した、入管側のリークである可能性が考えられる。その記事中で唐突に出てきたのが、「監理措置」と「準難民」である。
◯監理措置は「新たな全件収容主義」
読売新聞の報道によれば、「監理措置」とは、入管が認めた支援団体や弁護士らが「監理人」となり、対象者の生活状況などを把握して同庁へ定期的に報告する義務を負うかわりに、収容施設外での生活を認めるのだという。
入管問題に詳しい高橋済弁護士は、今月29日に開催された「収容・送還問題を考える弁護士の会」・「仮放免者の会」の勉強会で、「入管法の改正は、国際条約約(国連の各種の人権条約)に違反しないものをつくることが重要であるし、条約に違反する法律も本来、無効」と強調した。その上で高橋弁護士は、読売新聞の報道にある「監理措置」について、「新たな全件収容主義にほかならない」「(現状の)自由権規約9条1項違反は解消しない」と指摘した。
全件収容主義とは、在留資格を失った外国人を、難民申請中であるといった個別の事情や逃亡の可能性のあるなし等に関係なく、原則全員、送還まで事実上無期限で収容するという入管の運用。自由権規約9条1項とは、世界人権宣言を条約化したものであり、人権諸条約の中で最も基本的かつ包括的なものである国際人権規約・自由権規の条文の一つで、「すべての者は、身体の自由及び安全についての権利を有する。 何人も、恣意的に逮捕され又は抑留されない。 何人も、法律で定める理由及び手続によらない限り、その自由を奪われない」というもの。入管の全件収容主義は、この自由権規約9条1項に違反している恐れがあると、専門家や人権団体等から指摘されているのだ。
高橋弁護士は、入管側が監理措置について「対象として、難民認定申請や同不認定を受けての訴訟、在留特別許可を求めての訴訟を行っている間に限定しているのでは」と指摘。これらの手続きや訴訟が終わった時点で全件収容主義が適用される、つまり、難民その他の外国人は結局、収容施設に収容されてしまうのではないかという問題があるのだ。高橋弁護士は「本来、専門部会の提言にあったのは、全件収容主義を見直そうというものであったはず。(監理措置が)果たして、専門部会の提言を履行しているのかという問題がある」と疑問を呈した。
監理措置では、収容施設外の生活の前提として、入管側認めた監理人の存在があることも、現状の仮放免よりも厳格な管理体制となり、難民その他外国人を支援する弁護士や支援団体の負担が大きくなる可能性がある。「現状の技能実習生の管理団体は帰国の費用を負担させられており、同様の責任を監理人に負わされる懸念がある」と高橋弁護士。そもそも、入管が認めるというかたちだと、難民その他の外国人に寄り添う立場から入管のやり方に批判的な弁護士や支援団体としては、監理人になりにくいという点も高橋弁護士は指摘した。また、入管側が認めるような監理人であるならば、難民その他の外国人に寄り添うよりも、入管側の意向を優先するようなことも考えられる。「現状の仮放免制度に代わるものとして、それより厳しい監理措置が運用されるのであれば、長期収容の問題は解決しないどころか、より酷い方向にいくのではないか」と高橋弁護士は危惧した。
また、監理措置の決定的な欠点としては、その対象を「原則、難民認定申請2回目までに限定」と絞っていることがある。入管側の言い分として「難民申請は送還逃れの手段として乱用され、不許可になっても申請が繰り返されている」というものがあるが、以下に述べるように、そもそも難民条約を独自解釈したルールにより、本来、難民として認定されるべき人々が「難民でない」とされる、日本の難民認定制度自体がおかしいのである。だからこそ、何回も難民申請を繰り返しているから、送還してもよいということにならないのだ。
◯そもそも日本の難民認定制度がおかしい
読売新聞の記事にある、もう一つの新制度が「準難民」だ。これは、現状、「難民には該当しない」とされながらも、人道的配慮から在留と就労が認められる申請者もおり(在留特別許可)、こうした外国人を「準難民」に認定し、保護対象とするというものだ。
「準難民」について、高橋弁護士は「準難民とは聞き慣れない造語。欧州などでの補完的保護に近いものと考えられる。戦争で逃げてきた人々や自国で拷問を受ける恐れのある人を対象にするのではないか」と語る。ただ、「難民鎖国」と批判される日本の難民受け入れの現状がこの「準難民」制度により大きく変わるかについては、高橋弁護士は懐疑的だ。「本来、他の国では難民条約にもとづく難民として認められる人々が日本では難民として認定されないということが問題。これは準難民制度では解決しない。なぜ日本では難民が認定されにくいかというと、いろいろ原因があるが、一つには個別把握説というものがある。これは、その国に帰ったら、確実にターゲットとされて迫害を受けるということが明白でないと難民として認めないというもの。ただ、(勉強会に参加した記者達に対し)皆さんが、もしメディア関係者であれば、皆捕まって殺されるという状況だとしたら、その国に帰りますか?しかし、Aさん、Bさんと個人が特定されて狙われているという状況でないと危険ではないというのが、日本ルール。これに、証言の整合性を非常に厳格に求められることで、99%の人々が『難民ではない』ということにされてしまうのが、現状なのです」(高橋弁護士)。
◯「収容・送還に関する専門部会」の論議とは
上述の勉強会でも言及された「収容・送還に関する専門部会」とは、法務省が、同年10月、法務大臣の私的諮問機関として開催したもので、学識経験者や弁護士、医師、NGO関係者等の10人の委員からなるもので、"退去強制命令を受けて入管施設に収容された外国人の収容長期化の解消"について論議を交わした。同部会は、今年6月、「送還忌避・長期収容問題の解決に向けた提言」を公表。今後、国会で、この提言を下に入管法が改正(改悪)されることが予想される。以下、その内容の中で特に注目すべき点に解説する。
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