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無傷の4連勝。カブス・今永昇太の快進撃を支える擬音語のひらめき。

一村順子フリーランス・スポーツライター
4月26日 米マサチューセッツ州フェンウェイ・パーク(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

 カブスの今永昇太投手が開幕から無傷の4連勝、防御率0・98の快進撃を続けている。好投を支えているのは、切れ味抜群の直球だ。4勝目を挙げた26日(日本時間27日)、敵地でのレッドソックス戦は、球数88球中40球を占め、最速93・3マイル。平均速度は91・7マイルだった。チャートを見ると、ストライクゾーンより下には1球も投げていない。低目は2球だけで、大半がベルトより上に集まっている。高目の直球で相手打線を封じ込んだ。

 「(噂には)聞いていたが、こういうことか。いい直球だった。敬礼しかない」と敵将コーラ監督も脱帽。当然、データを元に今永対策を講じていたが、攻略出来ず。つまり、分かっていても、打てないー。それが、今永の直球だ。

 特徴的なのは、重力に逆らって浮き上がるような動き。日本では「キレ」と表現したり、米国では「ライジング」と言ったりする。サイバーメトリクス的にデータで検証すると、リリースポイントからのベース通過までの落ち幅は平均13・1インチ(33センチ)。同じ球速帯のメジャー投手の平均より3・3インチ(8・4センチ)少ない。この”予想外の落ちなさ”こそが、相手打線を翻弄する生命線。この8センチ以上の誤差で、その試合は14度の空振りを奪った。

 特に、走者を置いた場面での「ラン・バリュー値」は『コービン・バーンズ投手(オリオールズ)のカッター』と並び、メジャー全体で1位タイ(4月29日現在)。平均速度の92・3マイルはメジャー平均を大きく下回る。決して剛速球ではないけれど、『今永の直球』はメジャー屈指の価値がある。今永曰く、「僕の場合は、データで、高目の方が低目よりもホップ成分の数値が高いんです」。自分の武器が、最大限に効果を発揮する高目のコースに、しっかりと投げられる制球力も、また、成功の要因だろう。

 開幕から約1ヶ月。ここまで5試合で計27回2/3を投げ、四球はわずか3個。抜群の制球力を支えているのは、理想の体重移動を表す擬音語だという。

 「例えば、『うーーーん、パッ』とか、『ぎゅーぅぅぅん、ポン』とか。僕は、常に、擬音語でリズムを掴むようにしているんです。実は、その前の登板(20日対マーリンズ6回5被安打3失点2自責)ではリズムが上手く掴めず、力任せに投げてしまった反省がありました。今回は、登板の2日前くらいの練習で、その擬音語がひらめいた。それが、上手くハマって体重移動が安定しました」と今永。横浜DeNA時代、木塚敦志投手コーチに教わったユニークなリズム取得術だという。

 「特に、アメリカに来るとボールの質が均一でなかったり、球場毎にマウンドが違ったり、体調や気温などの条件で、リズムは色々、変わってくる。その中で、いいバランスを探す作業は常に必要で、僕の場合は擬音語で、自分のピッチング・リズムを探すというか。自分の感覚では、それが一番しっくり来るので。ピッチャーだけではなくて、野手もそうかもしれない。自分のリズムがあれば、相手がどう出て来ても、あんまり関係がないと思うので」

 日本語は他の言語に比べて、擬音語、擬態語等のオノマトペが豊富な言語と言われる。ラプソードなどの測定分析機器を使った最新データを駆使し、緻密に投球を組み立てる一方、最後に体に落とし込む作業は、情緒豊かな日本語の擬音語表現というアンバランスさも面白い。

 本拠地以外、どこで投げても初見参というルーキーにとっては、掴んだリズムが突如、狂う時もある。実は、レッドソックス戦でも思わぬアクシデントが生じていた。せっかく自分の感覚とマッチした擬音語をゲットして登板当日を迎えたが、試合が始まった瞬間、マウンドの粘土質に違和感を覚えた。「スパイクの歯が刺さるけど、抜けない感じ。これは、投げにくいと思った」

 前足(右足)が抜きにくい感覚を察知した今永は、即座に修正する。「これでは、足が残る分、反り腰になって、体が遠回りする。キャッチャー方向に向きにくいなという感覚があったので、いつもより、やや前傾気味というか。腸腰筋とかを使って股関節にしっかり乗れば、軸が変わらない、と。ウォームアップの段階で、大丈夫だ、というバランスを見つけることができたので、良かったです」

 2分5秒のイニング間に修正。繊細で、尚且つ鋭利な感覚で、危なげなく立ち上がると、後は、リズム良くイニングを重ねた。

 「(擬音語は)稀にキープすることもあるけど、ほぼ常に変わります。シーズンが進むにつれて、どんどん体調も変わってくるし、それを見つけていく作業の繰り返しになりますね」

 次回登板は、どんな擬音語のひらめきがあるのだろう。『投げる哲学者』は語彙力だけでなく、擬音語のボキャブラリーも豊富なようだ。

フリーランス・スポーツライター

89年産經新聞社入社。サンケイスポーツ運動部に所属。五輪種目、テニス、ラグビーなど一般スポーツを担当後、96年から大リーグ、プロ野球を担当する。日本人大リーガーや阪神、オリックスなどを取材。2001年から拠点を米国に移し、05年フリーランスに転向。ボストン近郊在住。メジャーリーグの現場から、徒然なるままにホットな話題をお届けします。

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