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『らんまん』万太郎(神木隆之介)のモデル・牧野富太郎は、永遠の「植物王子」にして稀代の「借金王」

碓井広義メディア文化評論家
筆者撮影

今週もまた、寿恵子さん(浜辺美波)が凄かった。

何しろ、200円の借金の返済を迫ってきた、コワモテの取立て屋・磯部(六平直政)を相手に、一歩も引かない。

いや、それどころか、最終的に更なる200円の追加借金に成功してしまったんだから。

当時の200円を現在に換算すると、諸説ありますが、約200万円! 

合計400万円を借りたことになります。

万太郎(神木隆之介)の研究活動は、というか一家の生活自体も、今や彼が「軍師」と呼ぶ、寿恵子に支えられていると言っていいでしょう。

ドラマの中で、借金取りが家に来た時、寿恵子は勝手口から「赤い旗」を外に出します。

「今は、入ってきちゃダメですよ」という、万太郎へのサインですね。

これは、モデルの牧野富太郎と妻の壽衛(すえ)が、実際にやっていた合図です。

しかも、赤い旗は頻繁に使われたそうですから、牧野家の借金は相当なものだったことがうかがえます。

牧野富太郎は、稀代の「借金王」

牧野富太郎は、高知から東京に来てからも、ひたすら植物研究の日々でした。

帝国大学に出入りを許されても、いわゆる就職をしたわけではありませんから、無給。

高額な研究書を買うのも、植物採取の旅行も、研究費用は全て自腹でした。

ドラマの万太郎と同じく、長い間、造り酒屋である故郷の実家からの仕送りに頼っていました。

でも、その援助も途中でなくなりました。

それでも牧野は、研究費を惜しむことはありません。

当然、どこかから借りてくるわけで、莫大な借金を背負います。

ある時期には、借金が2000円を超えたそうです。今なら約2000万円ですね。

現代人も、住宅購入などで2000万円くらいのローンを組むことはあります。

しかし、そこには「返済計画」というものがある。

でも、牧野には、それがありません。どんだけ「お坊ちゃん」なんだ!(笑)

返すための算段なしに、必要だからとお金を借りていく。

土佐弁でいう、「何とかなるろう(何とかなるだろう)」の精神でした。

前述の2000円(=2000万円)も大変なのですが、もっと先の大正期になると借金の総額は3万円、現在ならおよそ1億円(!)という、とんでもない金額に膨れ上がります。

そんな絶体絶命の危機に直面しながら、牧野の場合、実際に「何とかなっちゃう」から不思議です。

このあたりの「秘密」も、今後ドラマの中で描かれていくことでしょう。

万太郎のモデル、牧野富太郎は永遠の「植物王子」だっただけでなく、稀代の「借金王」でもあったのです。

メディア文化評論家

1955年長野県生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。千葉商科大学大学院政策研究科博士課程修了。博士(政策研究)。1981年テレビマンユニオンに参加。以後20年間、ドキュメンタリーやドラマの制作を行う。代表作に「人間ドキュメント 夏目雅子物語」など。慶大助教授などを経て、2020年まで上智大学文学部新聞学科教授(メディア文化論)。著書『脚本力』(幻冬舎)、『少しぐらいの嘘は大目に―向田邦子の言葉』(新潮社)ほか。毎日新聞、日刊ゲンダイ等で放送時評やコラム、週刊新潮で書評の連載中。文化庁「芸術祭賞」審査委員(22年度)、「芸術選奨」選考審査員(18年度~20年度)。

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