現職医師も驚く 異色の医療ドラマ「アライブ」が描くがん診療のリアル
1月9日から放送が始まった「アライブ」は、主人公が腫瘍内科医という異色のドラマ。
多くの腫瘍内科医が監修に加わり、がん診療の現場がリアルに描かれます。
そもそも、腫瘍内科とはどういう科なのでしょうか?
多くの病院では従来から、がんの種類ごとに別々の診療科が治療を担当する、というのが一般的です。
例えば、大腸がんなら消化器科、肺がんなら呼吸器科、といった具合ですね。
しかし、近年がん治療は多様化、複雑化しています。
抗がん剤の種類は膨大に増えている上に、手術や放射線治療など様々な手段を組み合わせてがん治療を行う必要があります。
また、抗がん剤の副作用のマネジメントに関しても、多彩な知識が必要です。
こうした中で腫瘍内科医は、がん種を問わず、がんを包括的に診る専門家として、各診療科と連携しているのです。
ドラマの「がん」は非現実的?
さて、これまでも医療ドラマでがんが扱われたことは何度もありました。
しかし、やや現実離れした描写も多く見られました。
例えば、
「抗がん剤を使うと激しい副作用で苦しむ」
「抗がん剤治療を受けるなら長い間入院する」
「がんが転移していれば治らないので余命は短い」
といったイメージで描かれることも多かったように思います。
がん治療は大きく進歩したのに、ドラマのイメージは随分古いまま、と感じることも多かったのです。
中には、現在がん診療に重要な役割を果たす「治験コーディネーター(臨床研究コーディネーター)」の、あまりに現実離れした描写に学会が講義する、といった事例もありました。
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一方、今回の「アライブ」第1話を見ると、かなり"現実に即した形"を意識してがん診療が描かれていると感じます。
通院での抗がん剤治療
「アライブ」では、外来通院しながら抗がん剤治療を行う患者さんが多く登場します。
近年は「外来化学療法センター」のような部署で、入院ではなく通院で抗がん剤治療を受けるケースが一般的になりつつあるからです。
こうした部署で午前中に点滴をし、午後から出勤する患者さんも多くいます。
副作用を予防・管理する手段が豊富になったことは、こうした治療形態を可能にした要因の一つです。
とはいえ、抗がん剤治療を受ける患者さんは、様々な副作用や心理的負担を抱えつつ生活しています。
第1話では、「ヘルプマーク」をつけて通院する患者さんが登場しました。
外見では分かりにくい病気や障がいを持つ方々が、周囲から配慮を得やすくするためのツールです。
がん治療の進歩によって、皮肉にも患者さんの抱える辛さがかえって分かりにくくなっている。
そうした現状が細かく表現されたのです。
CVポートの登場
また第1話で、「CVポート」が右胸に埋め込まれた患者さんが登場したことにも驚きました。
CVポートとは、皮膚の下に埋め込んだ小さなケースのようなもの。
ここから皮膚の下を管(カテーテル)が伸び、その先端は太い血管内(中心静脈)に置かれています。
CVポートに注射針を刺せば、確実に血管内に点滴できるツールです。
定期的に抗がん剤治療を受ける患者さんは、毎回点滴の注射をしなければなりません。
しかし、血管がもろくなって注射が難しくなったり、時に薬液が漏れて皮膚に炎症を起こしたりするリスクもあります。
CVポートは、毎回同じ皮膚の部分に注射するだけで、こうしたリスクを最小限にできます。
近年抗がん剤治療を受ける多くの患者さんがCVポートを利用します(最近は腕に埋め込むケースも多い)。
この現状がドラマで描かれるのも、初めてのことではないかと思います。
がんは「慢性疾患」に
他の臓器に転移があるような進行したがんに対しては、なかなか有効な治療手段がなかった時代もありました。
しかし、治療が著しく進歩したことで、がんは年単位でお付き合いできる病気になりつつあります。
ドラマ中でも、
「がんと一生付き合わないといけない場合もある」
「治る治らないじゃない。患者さんの人生に寄り添うのが私たち腫瘍内科の仕事です」
といったセリフが、今のがん診療のあり方を表していました。
慢性心不全や肝硬変が薬の進歩のおかげで、あるいは慢性腎不全が透析のおかげで長らくお付き合いできる病気になったように、がんもまた「慢性疾患」になりつつあるということです。
そして腫瘍内科医をはじめとした医療スタッフが、病気を持ちながら生きる患者さんの生活の質を維持するお手伝いをする。
がん診療の現場は今、そうした役割を担っていると言えます。
また、実際の現場では医師だけでなく、看護師や薬剤師、理学療法士、作業療法士、臨床心理士など、非常に多くの職種ががん診療を担っています。
ドラマではスポットの当たりにくい職種も含め、"チーム体制"で診療を行うようになったことも治療の質を高める大きな要因だ、という点は、ぜひ知っておいていただきたいと思います。
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