侍ジャパン世界一へのキーマンは、やはり近藤健介しかいない【第5回ワールド・ベースボール・クラシック】
1点を追う9回表、先頭の大谷翔平(ロサンゼルス・エンゼルス)が、ジオバニー・ガイェゴスの代わり端の初球を果敢に打ったツーベースは見事だし、吉田正尚(ボストン・レッドソックス)も打ち気に逸らず、冷静に四球を選ぶ。ここで村上宗隆(東京ヤクルト)に強攻させ、しかも一塁走者の吉田に代えて周東佑京を代走に送ったことで、村上の中越えの当たりで一気に逆転サヨナラ勝ちに持ち込んだ栗山英樹監督の采配も素晴らしい。もちろん、あの場面で打った村上も、快足で生還した周東も最高だ。
第5回ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)で3大会ぶり3回目の優勝を目指す侍ジャパンは、勢いに乗るメキシコを相手に、常に先行を許しながらも最後に粘り強さを発揮。これ以上ないという勝ち方でアメリカの待つ決勝へ駒を進めた。
プロ選手による世界一決定戦が産声を上げた時から、アメリカと日本による頂上決戦が大会を発展させるために不可欠だと言われてきたが、ついにそれが実現する。勝敗よりも、野球の未来につながる大事な一戦になるのは間違いない。
ただ、やるからには勝ちたい。1984年、ロサンゼルス五輪で公開競技に採用された時は、マーク・マグワイアら金の卵が揃うアメリカを社会人と大学生の日本が倒し、「まさか銀メダルとは」とアメリカの野球ファンを驚かせた。4年後のソウル五輪ではアメリカが日本にやり返し、2021年の東京五輪ではプロ同士がぶつかり合った。そんなアメリカと日本の頂上決戦は、40年の時を経て互いに史上最強チームで激突する。
二番・近藤がいい流れを呼び込んでいる
では、野球史にくっきりと刻まれるであろうWBC決勝のキーマンは誰か。東京五輪の際、こんな記事をリリースした。
要約すれば、二番に近藤健介(当時は北海道日本ハム=現・福岡ソフトバンク)に起用すれば攻撃の幅は広がると書いたのだが、まさに今回はそんな流れになっている。鈴木誠也(シカゴ・カブス)が出場することになっていた時点で、栗山監督が近藤の二番ライトを決めていたのかはわからない。少なくとも、ライトは鈴木が守っていただろうし、リードオフのラーズ・ヌートバー(セントルイス・カージナルス)から大谷、鈴木と上位に並んでいたかもしれない。
近藤の二番ライトは、鈴木の欠場によるB案なのだろう。だが、どの選手も世界に誇る一芸を身につけている今回の侍ジャパンの中でも、近藤の流れを呼び込むバッティングは特筆ものだ。
7回裏二死から放った技ありの右前安打は、大谷が四球でつなぎ、吉田の同点3ラン本塁打を呼び込む。5回裏二死満塁の左飛はいい当たりだったし、8回裏二死一、二塁での三振も流れを止めたようには感じなかった。実際、続く9回裏は先頭が大谷になり、メキシコに大きなプレッシャーをかけている。
ヌートバーが思い切りのよさを存分に発揮しているのをはじめ、近藤の存在は前後の打者にもいい影響を与えていると言っていい。大会打率.391の確実性に加え、相手バッテリーの嫌がる粘りや選球眼。「恐怖の九番打者」トレイ・ターナーの4本塁打が象徴するパワーがアメリカの強みなら、侍ジャパンは近藤が見せる勝利を呼び込む打撃で上回る。3月22日の朝、近藤が塁上でペッパーミルのパフォーマンスをしているようなら、日本は世界一の栄冠を手にしているだろう。