愛の逃避行へ踏み出すあどけなさの残るヒロインを演じて。難役のモモにいま感じていること
「海辺の生と死」「アレノ」「愛の小さな歴史」「アララト」など、人間の「生」と「性」に迫る作品で知られる映画監督・越川道夫。
その作家性の高い独自の視点を持った彼の作品は、とりわけ女性の心の在り様に焦点を当ててきた。
そして、新たに届けられた一作「さいはて」もまたひとりのヒロインの胸の内をつぶさに見つめる。
そのヒロインは、まだあどけなさが残るモモ。
作品は、笑顔の裏に実は大きな哀しみを抱えた彼女と偶然知り合った40代の男性トウドウとの逃避行の行方を描く。
このモモ役に挑んだのは、本作が長編映画初主演となる新進女優、北澤響(きたざわ・ひびき)。
裸になることを含めて、すべてをさらけ出すことを余儀なくされた難役といっていいモモにいかにして挑んだのか？
北澤に訊く。（全五回）
モモはトウドウのことを、『なにかを共有できる』と始めの段階で感じた
全五回の連載、最後の第五回となる今回は、いま演じ終えたモモに思うことを聞いていく。
まず、モモは、偶然出会ったトウドウと逃避行へと旅立つ。
なぜ、彼についていく気になったのか？
モモを通して、どう感じただろうか？
「シンプルに出会った瞬間、初めて顔を合わせたとき、モモはトウドウに心を惹かれるところがあったと思います。
その時点で、それが恋愛感情かどうかは定かではない。
ただ、モモはトウドウのことを、『なにかを共有できる』と始めの段階で感じたと思います。
少し話しただけで、なんとなく自分と気が合うか、合わないかわかることってあるじゃないですか。
そういう本能的なものがあのとき、モモに働いて、トウドウに自分と同じような匂いみたいなものを感じた。
それですぐには別れがたくて、あのような逃避行へとつながっていった気がします。
これはたぶんトウドウも同じで。なにかつながるものがあったのだと思います」
ひと言でいうと、『かっこいい！』と思いました
これまででも触れているようにモモはトウドウと逃避行を続ける中で、自己を確立していくところがある。
ひとりの人間として逞しく成長する。
最初のまだあどけなさの残る少女的なところから、ひとりの大人の女性に飛躍するような印象を受ける。
演じ終えたいま、モモにはどんな印象を抱いているだろうか？
「最初のころに比べると、ほんの数日のことなのに彼女は想像もつかない成長をしていますよね。
はじめはトウドウに寄り添ってもらって元気づけられていたのに、だんだん自分の意思で動くようになって、後半はトウドウを元気づけるような存在になっている。
前半は、トウドウに手を引かれている感じですけど、後半は、トウドウの手を引っ張っているぐらいになっている。
いや、ひと言でいうと、『かっこいい！』と思いました。
わたしも負けてられないというか。モモのように成長しないと、とちょっと反省しています（笑）。
あと、演じた身としては、彼女のことがすごく愛おしいです。
モモに巡り合えてほんとうによかった。
自分もモモのように自分に嘘をつかないで、自分の心に正直に、真っすぐ生きていけたらと思っています」
二人の関係は、最果てからスタート
では、これは空想の話になるが、トウドウとモモの関係はどうなっていくと推察するだろうか？
「この二人はどこに辿り着くんですかね？
あくまで個人的な意見ですけど、わたしは、二人にこのまま逃避行というか、この旅を続けてほしい気持ちがある。
タイトルの『さいはて』が示しているように、ふたりは最果てを目指す。
ただ、二人の関係は、その最果てからがほんとうの意味でスタートするような気がします。
二人の心の軌跡をたどって、よく考えると、これから何かが始まる気がするんですよね。
二人の旅はまだ終わっていないのではないか？
そう思うので、ここから新たな旅へと出てほしい。
まだ終わってほしくない気持ちがあります」
「さいはて」
監督・脚本：越川道夫
出演：北澤響 中島歩
金子清文 美香 杉山ひこひこ 君音 内田周作
公式サイト：https://mayonaka-kinema.com/saihate/
群馬・シネマテークたかさきにて公開中、
栃木・小山シネマロブレにて7月21日(金)より、
兵庫・CinemaKOBEにて7月29日(土)～8月4日(金)まで公開、
以後、全国順次公開予定
写真はすべて（C）2023 キングレコード
