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愛の逃避行へ踏み出すあどけなさの残るヒロインを演じて。「裸になることへの抵抗はほとんどなかった」

水上賢治映画ライター
「さいはて」で主演を務めた北澤響

 「海辺の生と死」「アレノ」「愛の小さな歴史」「アララト」など、人間の「生」と「性」に迫る作品で知られる映画監督・越川道夫。

 その作家性の高い独自の視点を持った彼の作品は、とりわけ女性の心の在り様に焦点を当ててきた。

 そして、新たに届けられた一作「さいはて」もまたひとりのヒロインの胸の内をつぶさに見つめる。

 そのヒロインは、まだあどけなさが残るモモ。

 作品は、笑顔の裏に実は大きな哀しみを抱えた彼女と偶然知り合った40代の男性トウドウとの逃避行の行方を描く。

 このモモ役に挑んだのは、本作が長編映画初主演となる新進女優、北澤響(きたざわ・ひびき)。

 裸になることを含めて、すべてをさらけ出すことを余儀なくされた難役といっていいモモにいかにして挑んだのか?

 北澤に訊く。(全五回)

「さいはて」で主演を務めた北澤響
「さいはて」で主演を務めた北澤響

一番大変だったシーンは?

 ここからは印象に残るいくつかのシーンについての話を。

 まず本人として一番大変だったシーンは、どの場面だっただろうか?

「全部です(笑)。

 全部のシーンが大変でした。

 前にお話したように、難しい役であることは覚悟していましたし、演じることに関してプレッシャーを感じることはありませんでした。

 ただ、初主演を務めさせていただくことはプレッシャーで。

 そもそも主演どころか映画の現場の経験が浅いわたしに果たして務まるのか、不安でした。

 中島歩さんが演じられるトウドウと、わたしの演じるモモがほとんど全編にわたって出てくる。

 メインの人物としてずっと現場に立ち続けることがどれだけ大変なことなのか経験したことがないのでわからない。

 そのプレッシャーはずっとあって気持ちとしていっぱいいっぱいだったので、当時のわたしにとっては全部のシーンが大変でした。

 中でも、最初、撮影1日目、2日目あたりは右も左もわからないような状態だったので、『大変だった』という記憶が強いです」

「さいはて」より
「さいはて」より

あのシーンは、身体的に一番大変だったかも

 では、たとえば、冒頭、夜の湖の中でモモが体を浮かせているシーンがある。

 このシーンは見るからに大変そうなのだが、実際はどうだっただろうか?

「そうですね。あのシーンは、身体的に一番大変だったかもしれないです。

 あのシーンは、水中に潜っているダイバーの方がいて、その方に支えてもらって、あのように浮き続けているんですけど……。

 夜の水辺って、ちょっと怖いじゃないですか。

 ダイバーの方がちゃんと支えてくださって浮いているんですけど、夜で闇が深くて、なんか急に水の中に引きずり込まれるのではないかという怖さがある。

 あと、まだまだ寒い時期で。しかも夜でしたから、もう寒くて寒くて。いろいろな意味で震えていました(笑)。

 身体的に一番大変だったのはあのシーンですね」

あのいびきはアフレコじゃないです

 個人的にびっくりしたシーンが、これも冒頭で、酔いつぶれて店のカウンターに突っ伏して寝ている場面。

 ここで、北澤演じるモモはいびきをかきながら気持ちよく寝ているのだが、このいびきのリアルさに驚かされる。

 これはアフレコ、もしくはなにか作ったものなのだろうか?

「あれ、わたしがあの場で出した(?)いびきです(苦笑)。

 特に、台本上はなかったんですけど、自分で(いびきを)つけました。

 あのシーンは、変にこぎれいにしたくないなと思ったんです。

 あの瞬間のモモは、気持ちよく酔って、気持ちよくうたたねしている。そういうときって、人って無防備で自然体になっている。

 変な話ですけど、よだれをちょっと垂らしているぐらいの方が自然ですよね。

 だから、変にきれいな姿に映ってしまうのは違うなと思ったんです。

 それで、特に監督に断ることもなく、そのままいびきをかいてみたんです。

 そうしたら、大丈夫だったみたいで、そのままOKになったんですよね。

 あのいびきはアフレコじゃないです。

 あの場で、わたしが自らの鼻で出した『いびき』です(笑)」

「さいはて」より
「さいはて」より

裸になることへのためらいはほとんどなかった

 もうひとつ、初の濡れ場はやはり大変だったのではないだろうか?

「自分が裸になること、脱ぐことへのためらいはほとんどなかったんです。

 まあ、この仕事をする上では、そういうことを求められるときもあるだろうなという気持ちがあって。

 そういうときがきたら、自分はチャレンジしてみようという気持ちがあったので、抵抗がなかった。

 だから、脱ぐことに覚悟みたいなことはなくて、意外とあっけらかんと『やります』みたいな感じだったんです。

 とはいえ、いざ濡れ場のシーンに臨むとなると、やはり違って。

 まず、そもそも濡れ場をやったことがないので、どういう風に居ればいいのかよくわからない。

 あと、カメラ位置などかなり細かく決まっているので、ちょっと動きがずれるだけで狙い通りのシーンにならない。

 けっこう動きが制約されたり、無理な体勢にならないといけなかったりで、『いや、濡れ場ってこんなに大変なんだ』と思いました」

(※第五回に続く)

【「さいはて」北澤響インタビュー第一回はこちら】

【「さいはて」北澤響インタビュー第二回はこちら】

【「さいはて」北澤響インタビュー第三回はこちら】

「さいはて」メインビジュアル
「さいはて」メインビジュアル

「さいはて」

監督・脚本:越川道夫

出演:北澤響 中島歩

金子清文 美香 杉山ひこひこ 君音 内田周作

公式サイト:https://mayonaka-kinema.com/saihate/

京都みなみ館にて7月13日(木)まで、

群馬・シネマテークたかさきにて7月14日(金)より、

栃木・小山シネマロブレにて7月21日(金)より公開、以後、全国順次公開予定

写真はすべて(C)2023 キングレコード

映画ライター

レコード会社、雑誌編集などを経てフリーのライターに。 現在、テレビ雑誌やウェブ媒体で、監督や俳優などのインタビューおよび作品レビュー記事を執筆中。2010~13年、<PFF(ぴあフィルムフェスティバル)>のセレクション・メンバー、2015、2017年には<山形国際ドキュメンタリー映画祭>コンペティション部門の予備選考委員、2018年、2019年と<SSFF&ASIA>のノンフィクション部門の審査委員を務めた。

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