愛の逃避行へ踏み出すあどけなさの残るヒロインを演じて。ヌードも求められる難役をとにかく全力で
「海辺の生と死」「アレノ」「愛の小さな歴史」「アララト」など、人間の「生」と「性」に迫る作品で知られる映画監督・越川道夫。
その作家性の高い独自の視点を持った彼の作品は、とりわけ女性の心の在り様に焦点を当ててきた。
そして、新たに届けられた一作「さいはて」もまたひとりのヒロインの胸の内をつぶさに見つめる。
そのヒロインは、まだあどけなさが残るモモ。
作品は、笑顔の裏に実は大きな哀しみを抱えた彼女と偶然知り合った40代の男性トウドウとの逃避行の行方を描く。
このモモ役に挑んだのは、本作が長編映画初主演となる新進女優、北澤響(きたざわ・ひびき)。
裸になることを含めて、すべてをさらけ出すことを余儀なくされた難役といっていいモモにいかにして挑んだのか？
北澤に訊く。（全五回）
大切なのはあくまで現場
前回（第二回はこちら）に続き、今回も演じたモモ役についての話から。
「あまり作り込まず、『20代前半のまだ若い女の子だから』といった先入観を持たないで、取り組んだのがよかった」と、役への取り組みを明かしたが、事前に越川監督とは何か話したのだろうか？
「事前にリハーサルがあったので、そこで監督とはいろいろとお話しすることができました。
ただ、大切なのはあくまで現場といいますか。
もちろんモモを演じるには、彼女の性格やバックグラウンドを踏まえて表現していかなければならない。
でも、それだけではなくて、最終的には現場で、トウドウ役の中島（歩）さんと向き合って、実際に出てくるものを大切にする。
そこを一番大切に演じてほしい感じを、監督から受けたんです。
なので、わたしのひとりよがりにならない。相手役がちゃんといる。相手ときちんと向き合って、お芝居をする。
その気持ちを忘れないようにして最後までやり抜こうと思っていました」
周りがきちんと見えていたかというと自信がないです
だが、実際にそうできたかどうかは自分では判断できないと打ち明ける。
「自分としては、中島さんときちんと向き合ってお芝居をしたと思っているんですけど……。
でも、いざ（撮影が）始まると、一生懸命になりすぎて、周りがきちんと見えていたかというと自信がないです。
かなり空回りしていたんじゃないかなと。
もうそれぐらい気持ちがいっぱいいっぱいになって、心に余裕がなかったです」
モモは予想以上に突っ走っていて驚きました
本人はそう語るが、作品を見ると、その一生懸命さがモモのひたむきさや大人にならざるをえなかった彼女の性格へとつながり、人となりを表しているように思える。
「そういっていただけるとありがたいです。
わたしも作品をみたときに思ったんです。『モモはけっこう突っ走っているな』と。
前回、モモは最初受け身だったのが、途中からトウドウをぐいぐい引っ張っていくようになるとお話ししました。
ただ演じている間は、確かにモモが変化していることは感じていた。けど、ここまでトウドウを引っ張っていくような存在になっているとは思っていなかったんです。
だから、作品をみたときは、けっこう驚きました。予想以上に彼女が突っ走っているように見えました。
でも、モモの真っすぐなところがうまく表れて感じることができるようになっていたので、これでよかったのかなと思いました」
中島さんがわたしの中からいろいろなものを引き出してくれた気がします
これらを引き出してくれたのは、トウドウ役の中島歩の存在が大きかったという。
「ほんとうに中島さんは度量が広くて、わたしのすべてを受け入れてくれて、すべてを受けとめてくれたんですよね。
さきほど話しましたけど、わたしは自分のことだけで心も体もいっぱいいっぱいで。
おそらく周囲に目を配ることなんてほとんどできていなかったと思うんです。
とにかく現場で出てくるものを大切にしようと思って、中島さんと、中島さんが演じられるトウドウときちんと向き合ってお芝居をしようと心がけてはいました。
わたし自身は、きちんと向き合ってベストを尽くしたと思っている。
でも、実際はどうだったかというと心もとないといいますか。
たぶん、自分が演じることだけで精一杯のようなことになっていて、とんでもないところにボールを投げちゃったり、ひとり相撲をとっていたり、といったときがあったと思うんです。
でも、中島さんはそれらを嫌な顔をすることもなく、受けとめてくれて、さらにわたしにきちんとしたものにして返してくれた。
だから、わたしの中から、わたし自身が何かを出したというよりは、中島さんがわたしの中からいろいろなものを引き出してくれた気がします。
越川監督も同様に、わたしからいろいろなものを引き出してくださった。
だから、もう中島さんと越川監督には感謝しかないです。
まだまだ未熟なわたしにつきあってくださって『大変お世話になりました』とお伝えしたいです」
（※第四回に続く）
「さいはて」
監督・脚本：越川道夫
出演：北澤響 中島歩
金子清文 美香 杉山ひこひこ 君音 内田周作
公式サイト：https://mayonaka-kinema.com/saihate/
京都みなみ館にて6月30日（金）より、
群馬・シネマテークたかさきにて7月14日(金)より、
栃木・小山シネマロブレにて7月21日(金)より公開、以後、全国順次公開予定
写真はすべて（C）2023 キングレコード
