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朝倉海はUFC王者なれるのか?パントージャ戦の展開を考察─。12・8ラスベガス『UFC310』

近藤隆夫スポーツジャーナリスト
UFC初参戦でフライ級王座に挑戦する朝倉海(写真:日刊スポーツ/アフロ)

王者パントージャの強さとは

まさに「いきなりクライマックス」である。

RIZINバンタム級王座を返上しUFCへの参戦を決めた朝倉海(JTT)。その初戦で、UFCフライ級王者アレッシャンドリ・パントージャ(ブラジル)に挑戦することになったのだ。舞台は12月8日(日本時間/現地時間12月7日)、米国ラスベガス・T-モバイルアリーナ『UFC310』。

「相手はチャンピオンでタイトル戦含めて6連勝している選手、フライ級で世界一強い人。でも自信はあります。全然、勝てると思っている。日本人として初めてのUFCチャンピオンになって応援してくれるファンの期待に応えたい」

UFC初戦が正式発表された直後に、朝倉海はそう話した。

それにしても、UFCデビュー戦がタイトルマッチというのは稀なケースだ。朝倉の実力が高く評価されていることの証明だろう。

UFCのダナ・ホワイト代表は、こう話している。

「カイ・アサクラは恐ろしいストライカーだ。過去2勝ではボディにヒザを炸裂させ勝利した。誰も彼と闘いたがらない。怖いものなしのパントージャだけが『やる』と言った。だから、初戦がタイトルマッチになったんだ」

朝倉の挑戦を受けるパントージャとは如何なるバックボーンを持つファイターなのかに、まずは触れておこう。

2007年、17歳でプロデビュー。ブラジル国内で総合格闘技キャリアを積んだ後、16年夏にUFCへの登竜門テレビ企画『The Ultimate Fighter』シーズン24に参加。ここで開かれたフライ級トーナメントでは準決勝で扇久保博正(パラエストラ松戸/現THE BLACKBELT JAPAN)に敗れるも実力評価は高く、翌17年1月にUFCデビューを果たした。朝倉海がRIZINデビューをする11カ月前のことである。

以降、オクタゴンでキャリアを積みUFC13戦目(昨年7月)でフライ級王座に挑戦。王者ブランドン・モレノ(メキシコ)を2-1のスプリット判定で破り念願のベルト奪取、その後に2度の王座防衛を果たしている。UFC戦績12勝(6KO&一本)3敗、MMAプロ通算戦績28勝(18KO&K一本)5敗。

ブラジリアン柔術黒帯ながら打撃も得意、ATTに所属を移してからはレスリング技術も進化させている。オールラウンドファイターでスタミナも十分、メンタルの強さも持ち合わせており競り合いにも強い。

今年5月、リオ・デ・ジャネイロで開催された『UFC301』でスティーブ・エルセグ(左)を果敢に攻めるアレッシャンドリ・パントージャ。判定で勝利し2度目の王座防衛を果たした(写真:AP/アフロ)
今年5月、リオ・デ・ジャネイロで開催された『UFC301』でスティーブ・エルセグ(左)を果敢に攻めるアレッシャンドリ・パントージャ。判定で勝利し2度目の王座防衛を果たした(写真:AP/アフロ)

「名勝負数え唄」の序章

そんな穴が少ない王者パントージャを朝倉は攻略できるのか?

現役選手、指導者、関係者らがYouTubeで、この一戦の勝敗と展開を予想している。期待を込めて「朝倉優位」と口にする者が多いが展開予想は、皆ほぼ同じだ。

打撃力で上回るのは朝倉で、得意のパンチ、ヒザ蹴りをクリーンヒットさせる可能性が高い。これが決まればKOで勝てる。しかし、パントージャが巧みなインサイドワークで朝倉の打撃をいなしながら自らのペースでグラウンド攻防も交えて試合を進めれば判定で競り合いを制す。

つまり「KOなら朝倉」「判定ならパントージャ」との見立てだ。

爆発力でパントージャを上回る朝倉だが、不安要素もある。

初めてのUFCの舞台、独特の緊張感に包まれよう。また、5ラウンド制を闘うのも初めて。そしてウェイトをフライ級に落としても、これまでと同じようなパフォーマンスができるのか否か。

私は両者の実力は互角だと思う、甲乙つけ難い。よって勝敗予想は避けるが、5ラウンドをフルに闘い抜いての判定決着になると見ている。

ATT、JTT両陣営はともに相手を研究し尽くしている。よって序盤は両者ともに慎重に動くことだろう。中盤以降は組み合いの多いスクランブル状態が続き、スタミナの削り合いとなる。朝倉もパントージャも強靭なメンタルを持ち主だ、互いに譲らず僅差の判定決着になるのではないか。

朝倉海が勝利したなら日本人、いやアジア人初の男性UFCチャンピオン誕生となる。快挙を期待したい。そしてこうも感じている。両者の対峙は一度限りではない、今回の闘いは「UFCフライ級名勝負数え唄」の序章ではないかと─。

スポーツジャーナリスト

1967年1月26日生まれ、三重県松阪市出身。上智大学文学部在学中から『週刊ゴング』誌の記者となり、その後『ゴング格闘技』編集長を務める。タイ、インドなどアジア諸国を放浪、米国生活を経てスポーツジャーナリストに。プロスポーツから学校体育の現場まで幅広く取材・執筆活動を展開、テレビ、ラジオのコメンテーターも務める。『グレイシー一族の真実』(文藝春秋)、『プロレスが死んだ日。』(集英社インターナショナル)、『情熱のサイドスロー~小林繁物語~』(竹書房)、『柔道の父、体育の父  嘉納治五郎』(ともに汐文社)ほか著書多数。仕事のご依頼、お問い合わせは、takao2869@gmail.comまで。

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