賞味期限切れの卵は生で何日食べられる?の記事がずっと読まれる理由とは?6月19日は食育の日
「賞味期限切れ卵は生で何日食べられる?ニワトリが24時間かけて産んだ卵を賞味期限で容赦なく捨てる私たち」という記事がコンスタントに読まれている。以前からもそうだったが、コロナ禍でもまた読まれているようだ。2年以上前に書いた記事が、なぜ、今も読まれるのだろうか。
「賞味期限」の本当の意味を人は知らない
かつて「男子は技術、女子は家庭科」と男女分かれて履修していた技術・家庭科だが、平成に入った後、段階を経て、家庭科は男女共修となった。
中学校の家庭科の教科書には、賞味期限と消費期限の違いが説明されている。下のグラフでもある程度わかる通り、賞味期限が過ぎてもすぐに品質が劣化するものではない。「美味しさの目安」であり、そこに「安全係数」として1未満の係数が掛け算されるから、実際の「美味しく食べられる期間」よりも数ヶ月以上短くなっている場合も多い。
2020年5月に実施された、グランドデザイン株式会社の調査では、賞味期限と消費期限の違いを61.7%が「知っている」と答えた。
では、「知っている」と答えた人は、卵の賞味期限が「真夏に生で食べられる」前提で、パックしてから2週間と設定されていることを知っているだろうか。気温が10度以下で保管されていれば、産卵から57日間、生で食べられるということはどうだろうか。加熱調理すれば、2週間以上、十分食べられるということはわかっているだろうか。おそらく、「知っている」と答えた全員の方が、そこまで詳しくは把握していないのではないだろうか。
ペットボトルのミネラルウォーターに書いてある賞味期限が、実は正確には賞味期限ではなく、書いてある内容量がちゃんと入っている期間であるということは、ほとんどの人が知らないだろう。
ペットボトル容器を介して水が蒸発してしまい、内容量が欠けてしまうため、内容量が担保できる期間を表示しているということは、一般の人には知られていない。残念ながら、全国の行政や企業で保存されているペットボトルのミネラルウォーターは、見かけ上の「賞味期限」が過ぎたら捨てられているだろう。
欧州食品関連企業はパッケージを通して期限表示の啓発を実施
欧州の食品関連企業は、パッケージを通して、賞味期限の意味を伝える、いわゆる消費者教育や消費者啓発に尽力している。
ドイツのスーパーマーケットチェーンであるKaufland (カウフラント)は、自社のPBである牛乳の賞味期限表示の横に「賞味期限が過ぎても、もっと長く持つ場合が多いです」というメッセージをつけた。
デンマークの牛乳メーカーは、牛乳パッケージの一面に、賞味期限の意味と、五感のうち、目と鼻と舌で確認する方法をイラスト入りで入れた。賞味期限表示は、法律上、変えることはできないが、その横に、「過ぎても多くの場合は大丈夫」のメッセージを入れている。
スウェーデンも同様で、飲むヨーグルトの賞味期限表示(写真左)の横に、「過ぎてもほとんどの場合は飲食可能」のメッセージ(写真右)を入れている。
イギリスは、コロナ禍で、食品をフードバンクなどで再利用する場合、賞味期限がどのくらいまで過ぎていても使えるかどうかを判断するためのガイドラインを発表した。
下記のように、食品ごとに具体的に示している。
新鮮でカットしていない果物や野菜:日付表示は法律で義務付けられていない。ほとんどの野菜は5度以下の冷蔵庫でパッケージに入れて保存すれば長く保存できる
パン・ベーカリー製品:賞味期限過ぎても2日間ぐらい、ベーカリー製品は賞味期限過ぎてから1週間ぐらい。長期保存できるパッケージの場合は1ヶ月もしくはそれ以上の場合もある
ポテトチップス:賞味期限過ぎてから1ヶ月
ビスケット・シリアル:賞味期限過ぎてから6ヶ月
缶詰・菓子・飲料(缶・プラスチック・ガラス瓶入り)・パスタソース:賞味期限過ぎてから1年
(乾燥)パスタ:賞味期限過ぎてから3年
ジャム:賞味期限過ぎてから3年~5年
冷凍食品:賞味期限過ぎてから数ヶ月
このように示すことは、ある意味リスクも生じるが、それを承知で公表している。その姿勢がいさぎよい。
6月19日は食育の日
先日、賞味期限が切れたことを見過ごし、学校現場で使われた食材を、あとになって廃棄したことが報道されていた。自治体が、この食品メーカーに問い合わせたところ、適切に保管されていれば、賞味期限が3ヶ月程度過ぎていても健康被害は生じないことを確認できたという。賞味期限は「美味しさの目安」であり、品質が切れる期限ではないのだから、まあ予想できることだ。だが、マニュアルで賞味期限の確認が決められているのにもかかわらず、それを怠ったのは学校の手落ちだった。対象者が子どもなので、大人以上に気を付けるべきだろう。
この件は別としても、賞味期限切れを、あたかも品質期限切れかのように報じるメディアにも疑問を感じる。
多くの人が、賞味期限は目安に過ぎないのではとなんとなく思っている。でも一方で、具体的にどの食品がどれくらいまで長く食べられるかは理解していない。ましてや、卵となれば、お腹をこわしそうだし、サルモネラ菌などがあるから心配だ。どうなんだろう?よくわからないからこそ、「賞味期限切れの卵はどれくらい食べられるか」という記事が、これだけ長く読み続けられているのではないだろうか。
平飼いで飼っているにわとりの生みたての卵を販売するある農場の方は、生食の賞味期限を1ヶ月に設定している。これは一般の卵の「2週間」より2倍長い。その理由として、25度に保管温度を保った保存試験で、40日経っても卵の内部に菌の増殖が見られなかったことを、賞味期限の根拠にしている。このことを文章にしたため、卵を買ってくださった方に渡しているという。知人の方が教えてくださった。この農場は遠方なのですぐには行けないが、いつか訪問したいと思っている。
一方で、筆者がアンケートをとった結果、買い物のときに棚の奥に手を伸ばして日付表示の新しいものを買ったことがある人は、2,300名中、89%に及ぶ。同じ値段なら新しい方を取る人が圧倒的に多い。
6月19日は食育の日だ。6月の1ヶ月間は食育月間と制定されている。
本当の意味の「食育」とは、なんだろうか。
日本お得意の、形だけ「食育、はーい法律作りましたよ、教科書にも載せています」のやってるふりパフォーマンスではなく、「賞味期限」とは何なのかを理解し、食べられる食べ物は、美味しさの目安(賞味期限)にとらわれず、捨てないことを、日々の生活で実践することではないだろうか。生活者の身についていなければ何の意味もない。