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井上尚弥に年内挑戦を目指す危険な男が井上のスパーリングパートナーを2回で撃沈

三浦勝夫ボクシング・ビート米国通信員
2度ロブレス(右)を倒して仕留めたデイビス(写真:TNT Sports)

強烈フィニッシュ

 「イノウエとの対戦に大きく前進した。彼に挑戦することに動揺してはいない。日本の土を踏むことになっても全然大丈夫だ」

 こう豪語するのはIBFを除く他の主要3団体で、スーパーバンタム級にランキングされる英国人、リアム・デイビス(最高位はWBC6位)。これまで欧州、英国、WBCとWBOのインターナショナル王者に就いたデイビスは16日(日本時間17日)英国バーミンガムのリゾーツ・ワールド・アリーナでメキシコからの刺客、エリク・ロブレス・アヤラを迎えた。試合はIBO(インターナショナル・ボクシング・オーガニゼーション)スーパーバンタム級王座決定戦としてゴングが鳴った。

 デイビス(27歳)に関しては前回、昨年11月に行った試合の直後に紹介しているのでご記憶の方もいらっしゃると思うが、このデイビスvs.ロブレスが興味深いのはスーパーバンタム級4団体統一王者井上尚弥(大橋)にターゲットを絞るデイビスと、日本に招へいされ、井上のスパーリングパートナーを務めたロブレスが顔を合わせたことだった。サウスポーのロブレスはマーロン・タパレス(フィリピン)対策のパートナーを務めた。

タパレス戦の前、井上をサポートしたロブレス(写真:Zanfer Boxing)
タパレス戦の前、井上をサポートしたロブレス(写真:Zanfer Boxing)

 ロブレス(23歳)は昨年7月、同じく英国でプロスペクトの一人だったリー・マクレガー(英)に判定勝ちを飾り注目を浴びた選手。その時に獲得したのが今回争われたIBOスーパーバンタム級王座だった。前回の記事でも触れたようにこのベルトは“マイナー”王座である。ロブレスはこの王座を返上して決定戦に臨んだ。その間、昨年12月、地元でWBO傘下のNABOタイトルを獲得していた。

 デイビス陣営が他の保持する地域タイトルではなく、なぜ権威で劣るタイトル戦を選択したのか定かでない。しかしデイビスはそんなツッコミを払いのける、強烈なデモンストレーションを披露。井上に挑む足固めをしたような圧勝劇だった。

リアム・デイビスvs.エリク・ロブレス・アヤラ

井上並みのパンチで倒す

 開始とともに仕掛けたデイビスはロブレスをコーナー、ロープへ詰める。身長177センチ、リーチ182センチとスーパーバンタム級では超大柄なデイビスは距離をキープしながらもプレスをかけて行く。サウスポーのロブレスはガードを上げて対処せざるを得ない。

 2ラウンド、デイビスの左ジャブをかいくぐりチャンスを狙うロブレスだが、右アッパーカットをアゴに食らい大の字。倒れた際に後頭部をマットに打ちつけダメージが深い。辛うじて起き上がったメキシコ人にレフェリーは続行を許す。ロープを背にするロブレスにデイビスは怒涛の連打を浴びせる。最後、右ストレートから左フックが決まりロブレス(15勝9KO2敗)が崩れ落ちると同時にレフェリーがストップをかけた。

 1分17秒TKO勝ちのデイビスは16勝8KO無敗。印象的な勝利を飾り、滑らかな口調で試合を振り返った。「エリク・ロブレスをリスペクトする。今の状況に相応しい相手に勝った。彼は井上のスパーリングパートナーを務めたし、グッドファイターと呼べる選手。2024年はすごくいいスタートが切れた」

 英国の著名プロモーターで、デイビスをサポートするフランク・ウォーレン氏も「フィニッシュはワールドクラスなパフォーマンス。彼は今夜、仕事を完了した。エキサイティングで輝かしいパフォーマンスだった」とべた褒め。私見をはさめば、最初に倒した右アッパーカットは井上尚弥に匹敵するスペクタクルなパンチにも思えた。

100パーセント実現する!

 ウォーレン氏は今年中にデイビスを井上に挑戦させたいプランを明かす。それに対してデイビスも「100パーセント、イノウエと日本で対戦できると思っている」とアピール。そして「そのためには周囲の注意を惹きつけることが肝心。この試合がその足掛かりになればうれしい」と“5冠”目を手にした男は井上の背中を追う。

 プロキャリアの途中でコロナ禍などで試合枯れに陥り、2年ほどゴミ回収業で食いつないだ苦労人デイビスは、ひるむことなく打倒モンスターに邁進する。“デンジャラス”のニックネームがついた英国人の夢が叶う日はいつ訪れるのか。井上が次回ルイス・ネリを破れば有力な対戦候補に浮上することは間違いないだろう。

ボクシング・ビート米国通信員

岩手県奥州市出身。近所にアマチュアの名将、佐々木達彦氏が住んでいたためボクシングの魅力と凄さにハマる。上京後、学生時代から外国人の草サッカーチーム「スペインクラブ」でプレー。81年メキシコへ渡り現地レポートをボクシング・ビートの前身ワールドボクシングへ寄稿。90年代に入り拠点を米国カリフォルニアへ移し、フロイド・メイウェザー、ロイ・ジョーンズなどを取材。メジャーリーグもペドロ・マルティネス、アルバート・プホルスら主にラテン系選手をスポーツ紙向けにインタビュー。好物はカツ丼。愛読書は佐伯泰英氏の現代もの。

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