Yahoo!ニュース

ロック墓参記 第2回/ロサンゼルス編:ジョニー・ラモーン、クリス・コーネル、フェイ・レイ他

山崎智之音楽ライター
ジョニー・ラモーンの墓 / pic by yamazaki666

近年、数多くのロック・ミュージシャンが亡くなった。そのせいもあり、ロックを“聴く”ことに加えて“追悼する”というコンセプトがこれまで以上に拡がっている。ロック墓参記、 第2回は前回に引き続き米国ロサンゼルス編で、今回は“ハリウッド・フォーエヴァー”墓地を訪れてみよう。

1899年に“ハリウッド・セメタリー”として開設、ロサンゼルスでも歴史の長い墓地のひとつである“ハリウッド・フォーエヴァー”には場所柄、エンタテインメント業界の多数の有名人が眠っている。1998年に現在のキャッチーな名称に改名、毎年10月31日〜11月2日には派手な装飾とライヴでメキシコの“死者の日”を祝うイベントも行われ、4万人が集まってくる。

ロサンゼルスの市街地にあるこの墓地は、巨大レコード/CDショップ“アミーバ・ミュージック”から徒歩約10分というアクセスの良さ。郊外の墓地のようにとてつもなく広いわけでもなく、短期滞在の旅行者であってもお墓参りを行うことが可能だ。入口を入って右にある事務所では有名人の墓を示したエリアマップも売られている(ビヴァリーヒルズのスター豪邸マップに似た感じ)。

Hollywood Forever / photo by yamazaki666
Hollywood Forever / photo by yamazaki666

ただ、墓地に一歩足を踏み入れると、筆者(山崎)が訪れたのが平日の昼間ということもあってか静かで、放し飼いのクジャクが悠然と歩いている。くれぐれも亡くなった方々や遺族たちへの敬意と礼節をもって墓参をしていただきたい。

ロック・ファンにとって“ハリウッド・フォーエヴァー”を代表するアイコンのひとつとなっているのが、ラモーンズのジョニー・ラモーン(1948-2004)の墓だ。ギターを抱えた勇姿を形取った銅像は、かなり遠くからでも目を捉える。

Johnny Ramone's grave / photo by yamazaki666
Johnny Ramone's grave / photo by yamazaki666

墓石にはヴィンセント・ギャロ、ジョン・フルシアンテ、エディ・ヴェダー、ロブ・ゾンビからのメッセージも刻まれている。

ジョニーの墓から約10メートル右にあるのが、サウンドガーデンのクリス・コーネル(1964-2017)の墓だ。地面のプレートがあるのみだが、その突然の死からさほど時間も経っておらず、周囲にはアコースティック・ギターや花、メッセージなどが供えられており、ファンの強い想いを感じさせる。

Chris Cornell's grave / photo by yamazaki666
Chris Cornell's grave / photo by yamazaki666

あくまで噂だが(2018年1月現在)、ジョニーとクリスの間にリンキン・パークのチェスター・ベニントン(1976-2017)の墓が建つともいわれている。もし実現したら、豪華ではあるものの、ロック界の失った大きな損失を再認識させる悲しみに満ちた一角となるだろう。

ジョニーとクリスの中間から少し向こう、池のほとりにあるのがハッティ・マクダニエル(1895-1952)の記念碑だ。映画『風と共に去りぬ』(1939)でメイドのマミー役を演じ、「スカーレットさま、それはダメですだ」というような言い回しが印象的だった彼女はアフリカ系としては史上初めてアカデミー賞(助演女優賞)を受賞した女優である。生前の彼女は“ハリウッド・フォーエヴァー”に埋葬されることを望んでいたが、当時はまだ人種隔離がはびこっており、ここは“白人用”の墓地だった。その結果、彼女の亡骸は同じロサンゼルスのアンジェラス=ローズデイル墓地に葬られている。“ハリウッド・フォーエヴァー”は後に彼女の墓をここに移設することを申し出るが、遺族がそれを望まなかったため、記念碑を設置することにしたのだ。

Hattie McDaniel's cenotaph / photo by yamazaki666
Hattie McDaniel's cenotaph / photo by yamazaki666

アフリカ系アメリカ人の地位向上に貢献したハッティはジョニー、クリスと共に強力なトライアングルを成している。

Jonny Ramone, Hattie McDaniel & Chris Cornell / photo by yamazaki666
Jonny Ramone, Hattie McDaniel & Chris Cornell / photo by yamazaki666

“ハリウッド・フォーエヴァー”にはもう1人、ラモーンズのメンバーが眠っている。ディー・ディー・ラモーン(1951-2002)だ。ジョニーから歩いて数分の距離にある彼の墓はジョニーほど派手ではないものの、ロゴも入って、圧倒する存在感を放っている。

Dee Dee Ramone's grave / photo by yamazaki666
Dee Dee Ramone's grave / photo by yamazaki666

さらにミュージシャンではキャメルのピーター・バーデンス(1944-2002)、アート・ペッパー(1925-1982)、ウディ・ハーマン(1913-1987)が葬られている。ミュージシャンではないがプラスティック・オノ・バンドの『平和の祈りをこめて Live Peace in Toronto 1969』(1969)のイントロMCやランナウェイズの仕掛人として知られるキム・ファウリー(1939-2015)の墓もここにある。

屋内の遺骨安置所にはクリスチャン・デスのロズ・ウィリアムス(1963-1998)、フィル・スペクターに射殺された女優ラナ・クラークソン(1962-2003/代表作は『野獣女戦士アマゾネス・クイーン』)などの遺骨がそれぞれの遺骨棚に収められているが、残念ながら今回は見つけることが出来なかった。

Hollywood Forever columbarium / photo by yamazaki666
Hollywood Forever columbarium / photo by yamazaki666

いったんジョニー・ラモーンとクリス・コーネルの墓の近くに戻ってきて、ミュージシャン以外に目を向けてみると、『キング・コング』でヒロインを演じたフェイ・レイ(1907-2004)が2人の後ろ、池のほとりに眠っている。

Fay Wray's grave / photo by yamazaki666
Fay Wray's grave / photo by yamazaki666

フェイ・レイとジョニー・ラモーンの後ろ姿を1枚の写真に収めることが可能だったりする。ラモーンズの「ザ・クラッシャー」の歌詞には“俺はパワフルでストロング、キング・コングみたいに”という一節があるが、奇妙な縁を感じさせる。

Fary Wray & Johnny Ramone / photo by yamazaki666
Fary Wray & Johnny Ramone / photo by yamazaki666

その近くには『スター・トレック』新劇場版シリーズなどで知られる俳優アントン・イェルチン(1989-2016)の墓もある。彼が主演したジョー・ダンテ監督の『ゾンビ・ガール』(2014)での墓場のシーンは、この“ハリウッド・フォーエヴァー”で撮影されたものだ。なお2017年10月にはここに彼の銅像が建てられた。

Anton Yelchin's grave / photo by yamazaki666
Anton Yelchin's grave / photo by yamazaki666

映画監督のセシル・B・デミルと兄ウィリアム・C・デミルの墓はその超大作の数々を彷彿とさせる大型なものだし、ルドルフ・ヴァレンティノ親子、ジュディ・ガーランド、ピーター・ローレ、ジェイン・マンスフィールド、『ティファニーで朝食を』のミスター・ユニオシことミッキー・ルーニーなど、輝ける往年のハリウッドの残滓を感じることが可能だ。

Cecil B. DeMille & William C. Demille / photo by yamazaki666
Cecil B. DeMille & William C. Demille / photo by yamazaki666

“ハリウッド・フォーエヴァー”という名の通り、この墓地に眠るハリウッドのスター達は永遠に輝き続ける。

Toto memorial / photo by yamazaki666
Toto memorial / photo by yamazaki666

最後に『オズの魔法使』の犬、トトの墓。 遺骸の入った本物のお墓は道路拡張工事で失われてしまったので、実際には記念碑だ。

作中の飼い主だったドロシー=ジュディ・ガーランドが2017年に“ハリウッド・フォーエヴァー”に移転してきたため、一緒の墓地に眠ることになったが、少し離れているのが残念。

音楽ライター

1970年、東京生まれの音楽ライター。ベルギー、オランダ、チェコスロバキア(当時)、イギリスで育つ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業後、一般企業勤務を経て、1994年に音楽ライターに。ミュージシャンを中心に1,300以上のインタビューを行い、雑誌や書籍、CDライナーノーツなどで執筆活動を行う。『ロックで学ぶ世界史』『ダークサイド・オブ・ロック』『激重轟音メタル・ディスク・ガイド』『ロック・ムービー・クロニクル』などを総監修・執筆。実用英検1級、TOEIC945点取得。

山崎智之の最近の記事