Yahoo!ニュース

5年連続で市場拡大もビデオゲームは人気低迷 アーケードゲーム市場の実態は

鴫原盛之ライター/日本デジタルゲーム学会ゲームメディアSIG代表
※写真はイメージ(※「JAEPO2020」の会場で筆者撮影)

日本アミューズメント産業協会(JAIA)は、2019年度のアミューズメント(アーケードゲーム)市場のデータをまとめた「アミューズメント産業界の実態調査 報告書」を2月16日に発行した。

はたして、コロナ禍直前の市場動向はどんなものだったのか? 以下、本書に掲載された数字のなかから、特に重要なポイントに絞ってお伝えする。

市場規模は右肩上がりだが、ビデオゲームの売上だけは低下

2019年の市場規模は7055億円。2018年は6817億円だったので、前年比で103.5%となる。ピークだった2006年の9263億円には遠く及ばないが、2019年10月1日から消費税率が8から10%にアップし、消費の落ち込みがますます加速するとの懸念もあったなか、2015年から5年連続で市場規模が上昇したことになる。

直近10年間の市場規模(※データの出典は「アミューズメント産業界の実態調査 報告書」より。以下同)
直近10年間の市場規模(※データの出典は「アミューズメント産業界の実態調査 報告書」より。以下同)

2019年の店舗、またはリース機の稼働による売上高をまとめたオペレーション売上高は5408億円で、前年比104%(※2018年の売上高は5010億円)となった。

機種ごとのオペレーション売上高を見ると、テレビ(ビデオ)ゲーム、音楽ゲーム、プライズ(景品)ゲーム、メダルゲーム、アミューズメントベンダー(※シール機類)、キッズカードゲームのうち唯一、ビデオゲームだけが前年を下回っていた。なお、2019年のビデオゲームのオペレーション売上高は、2019年が631億円(※前年は686億円)で、設置台数も6.6万台(※同7.1万台)に減少した。

「大型タイトルが数多く市場に投入された前年度の反動により減少した」と本書で説明されているように、ビデオゲームではこれと言ったヒット商品が出ず、また売上高は市場規模が1993年の調査以来、最低を記録した2014年の639億円をも下回る。

下記の円グラフは、2019年の機種ごとのオペレーション売上高構成比である。ビデオゲームの売上高はわずか12%しかなく、近年は需要の低下が顕著であることが改めてわかる結果となった。

一方、プライズゲームのオペレーション売上高は2988億円(※前年は2813億円)で売上全体の55.3%を占め、設置台数は16万台(※同14.4万台)に増加した。2017年にプライズゲームの売上高が初めて全体の過半数を上回るようになってからは、現在も引き続きプライズゲームが店舗にとって大きな収益源になっていることがわかる。

なお過去の市場データは、2019年2月に掲載した拙稿「ゲーセンの数は5分の1に減少、歴史に残る作品が続々誕生:数字で振返る『平成アーケードゲーム30年史』」からご覧いただきたい。

   2019年のオペレーション売上高構成比
   2019年のオペレーション売上高構成比

店舗数は微増も、大規模店舗への集約がさらに加速

ゲームセンターの店舗数を見ると、2019年の調査では12,212店。前年は12,167店だったので、わずかながら上回った。実は、店舗数が前年を上回ったのは1998年以来、21年ぶりのことだ。

ただし、店舗数の内訳をよく見ると、ゲーム専業の店舗数は、前年の3308店から2364店に、前年比で71.5%と大きく減少した。さらに、風営法の許可を得て営業している店舗も、前年の4193店から4022店に減少した。

全体の店舗数が増えたのは、飲食店やデパート、量販店などに併設された兼業店舗が増加したことが理由である。逆に、80年代に多く見られたような、ビデオゲームが中心としたゲームセンターの店舗数は、この1年間で閉店が急加速したことになる。

また、既存店の売上高は前年比の90.6%となっており、店舗数こそ微増したものの、けっして楽観できる状況とは言えない。

店舗数の推移
店舗数の推移

「1店舗あたりの設置台数」ごとに店舗数を見ていくと、設置台数が101台以上の大型店舗が5354店で全体の43.8%を占めており、これは設置台数が20台以下の店舗(※主に、メーカー・専門業者からゲーム機をレンタルして営業をする、ごく小規模のゲームコーナー)の5205店をも上回る。

さらに数字を細かく追うと、101~200台の設置店舗は、前年の1841店から3579店とほぼ倍増したのに対し、20台以下の小規模店舗は6647店から5205店に、同じく21~50台の店舗は、前年の1085店から482店と急減していることがわかった。

前述したように、市場が上向きのなかビデオゲームの売上、需要が低迷し、80年代に多く見られたようなビデオゲーム中心の小規模店舗は淘汰がさらに進み、大型店舗にどんどん集約していることが見て取れる。

1店舗あたり設置台数別の店舗数
1店舗あたり設置台数別の店舗数

繰り返すが、今回の調査は2019年度、つまりコロナ禍以前のデータである。次回の調査では、おそらく本調査が開始された1993年以来、最も厳しい数字が出ることは避けられないだろう。

過去最低の市場規模となった、2014年のどん底状態(5833億円)からようやく脱出し、5年前から実に1000億円以上も伸びた矢先に、新型コロナウイルスの流行は、まさに痛恨、無念の極みだ。

現在も政府による緊急事態宣言が発令されるなか、ゲームセンターは臨時の時短営業や休業を実施しても、何の補償も得られない状況が続いている。またメーカー側でも、昨年からコロナ禍のため多くの開発プロジェクトが延期、または中止になったとの情報も耳にしている。

毎年2月、ちょうど今の時期に開催される、JAEPO主催の最新アーケードゲーム展示イベント「ジャパンアミューズメントエキスポ」は、今年はコロナ禍のため中止となり、代わりに業界関係者が対象のオンライン商談会だけが実施された。

イベントの中止はやむを得ないが、商談に使用された新作ゲーム、あるいはサービスはどんなものがあったのか、メディアも含む一般には非公開というのは正直いかがなものだろうか。少しでも多くの人に関心を持ってもらうべく、公式サイトで新作タイトル・サービスをまとめて紹介するページを作ったり、プレイ動画を配信するなど、最低限のアクションは起こしてほしかった。

もし7000億円もの市場規模を誇る産業が壊滅となったら経済、あるいは雇用の面でも甚大な被害が出ることになるだろう。拙稿「ゲームセンターをも席巻する『鬼滅の刃』 プライズゲーム用景品が大人気」でもご紹介したように、現在も好調が続くプライズゲームが業界の命綱になればいいのだが……。

(参考リンク)

・日本アミューズメント産業協会

ライター/日本デジタルゲーム学会ゲームメディアSIG代表

1993年に「月刊ゲーメスト」の攻略ライターとしてデビュー。その後、ゲームセンター店長やメーカー営業などの職を経て、2004年からゲームメディアを中心に活動するフリーライターとなり、文化庁のメディア芸術連携促進事業 連携共同事業などにも参加し、ゲーム産業史のオーラル・ヒストリーの収集・記録も手掛ける。主な著書は「ファミダス ファミコン裏技編」「ゲーム職人第1集」(共にマイクロマガジン社)、「ナムコはいかにして世界を変えたのか──ゲーム音楽の誕生」(Pヴァイン)、共著では「デジタルゲームの教科書」(SBクリエイティブ)「ビジネスを変える『ゲームニクス』」(日経BP)などがある。

鴫原盛之の最近の記事