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2020年、恵方巻の食品ロスはどう変わったか?101店舗の調査結果

井出留美食品ロス問題ジャーナリスト・博士(栄養学)
2020年2月3日16時頃、首都圏のスーパーに山と積まれた恵方巻(筆者撮影)

2020年2月3日は、令和の元号になって初めての節分だった。2019年に引き続き、農林水産省より小売業界に対し、需要に見合った数の恵方巻を売るようにと通知が出された。これに対し、大手コンビニエンスストア3社はじめとする26企業が賛同した。

農林水産省の恵方巻食品ロス削減プロジェクトに賛同した26社(農林水産省HPより)
農林水産省の恵方巻食品ロス削減プロジェクトに賛同した26社(農林水産省HPより)

はたして、今年の恵方巻の食品ロスはどうだったのだろうか。

2020年2月3日の19時から23時にかけて、食品小売店が閉店する、あるいは日付が変わる前にどれくらい残っているか、首都圏の百貨店・コンビニエンスストア・スーパー・寿司店・駅チカなど、合計101店舗を調査した。日頃、折に触れてインターンとして手伝ってくれている、「学生フードロス削減プロジェクト」を主宰する大学生3名に調査協力していただいた。

調査方法

調査日:2020年2月3日(月曜日)

調査時間:19時〜23時。

20時閉店の百貨店が多かったので、おおむね下記の流れにした(コンビニは、早い時間帯にまわった場合、再度21時以降にもまわるようにした)。

19〜20時 百貨店

20〜21時 スーパー

21時以降 コンビニエンスストア

対象地域:首都圏

対象店舗数:101店

対象店舗内訳:

百貨店 出店店舗 26店

コンビニエンスストア 50店

スーパーマーケット19店

寿司店 5店

駅ナカ 1駅

結果

小売店の種類および売れ残り本数は次の通りとなった。

2020年2月3日夜に実施した恵方巻の売れ残り本数調査(筆者作成)
2020年2月3日夜に実施した恵方巻の売れ残り本数調査(筆者作成)

結果(1)百貨店

1店舗あたりの平均残数=18本/店

農林水産省の恵方巻ロス削減プロジェクトに賛同した大丸東京は、売り場に「ロスゼロ」の告知を掲げていた。

大丸東京が掲げていたロスゼロの告知(株式会社office3.11関係者撮影)
大丸東京が掲げていたロスゼロの告知(株式会社office3.11関係者撮影)

予約した恵方巻を受け取るためか、19:30の時点でも長蛇の列ができていた。

19:30の大丸東京。長い行列が続いていた(株式会社office3.11関係者撮影)
19:30の大丸東京。長い行列が続いていた(株式会社office3.11関係者撮影)

百貨店・コンビニ・スーパー・寿司店など、すべての業態のうち、百貨店(に出店している店舗)が、最も売れ残り本数が多い結果となった。多い店舗では閉店10分前に200本残っており、さらにバックヤード(裏の倉庫)から追加してくるような店舗もあった。

調査に協力してくれた大学生によれば、ある百貨店では、閉店20分前の時点で20〜30%引きにしており、それでも28本が残っていた。にもかかわらず、管理職らしき人が店舗内を巡回し、売り場の担当者に「あれしかないの?お客さん、たくさん買おうとしてるじゃん。もっと仕入れるようにバイヤーに言ってよ」と、売り場担当者に指示しているのが聞こえてきたという。

首都圏の百貨店(桑原慧さん撮影)
首都圏の百貨店(桑原慧さん撮影)

ただし店舗によってかなりの差があり、閉店30分前にはキッチリ完売していたお店もあった。店内調理している店舗では、顧客の入り具合や残数を見ながら、売り切れる量だけを調理している店舗も多く、調査対象26店舗中、12店舗では完売・売り切れとなっていた。

完売していたお店(桑原慧さん撮影)
完売していたお店(桑原慧さん撮影)

筆者は、2019年2月3日に調査した百貨店と同じ店舗に再度出向いた。2019年は、300本近くが残っていたが、2020年は売り場全店舗合わせて10本しか残っていなかった。

結果(2)コンビニエンスストア

1店舗あたりの平均残数=6本/店

2019年と比べるとロス削減できている店舗が多く、全対象50店舗のうち、31店舗で完売していた。

企業ごとの内訳は下記の通り。

コンビニエンスストア、企業ごとの売れ残り本数と完売率(筆者作成、企業名略称あり)
コンビニエンスストア、企業ごとの売れ残り本数と完売率(筆者作成、企業名略称あり)

ニューデイズとデイリーヤマザキに関しては、商品棚に恵方巻がないだけでなく、値札などもなかったため、取り扱った形跡が見られなかった。

売れ残り本数としてはセブンイレブンが最も多かったが、全調査店舗数に対する完売率は、セブン-イレブンが最も高かった。

セブン-イレブンは、予約した消費者に、もれなく、人気キャラクターのチコちゃんのグッズをプレゼントする企画を立てていた。調査対象のうち、完売した店舗が71%という今回の結果であれば、チコちゃんに叱られないで済むだろうか。

セブン-イレブン・ジャパンが各店舗で配った予約のチラシ(チラシのうち上部、筆者撮影)
セブン-イレブン・ジャパンが各店舗で配った予約のチラシ(チラシのうち上部、筆者撮影)

同じ企業であっても、店舗によって差があった。たとえば21時前のあるファミリーマートでは残り1本だったところ、すぐ近くでは42本が残っていた(その後21時45分には残り28本となった)。

21時前に42本が残っていたファミリーマート(筆者撮影)
21時前に42本が残っていたファミリーマート(筆者撮影)

ファミリーマートでは、季節商品は「完全予約制」となったはずだが、加盟店から直営店へとなったファミリーマートでも、日付が変わる前の段階で、かなり恵方巻の本数が多い店舗があった。

ファミリーマート加盟店オーナー、高中隆行さん提供(この店舗は高中さんの店と違う直営店)
ファミリーマート加盟店オーナー、高中隆行さん提供(この店舗は高中さんの店と違う直営店)

結果(3)スーパーマーケット

1店舗あたりの平均残数=2本/店

スーパーマーケットは全業態の中で、最も優秀だった(駅ナカは恵方巻の取り扱いなし)。19店舗中、17店舗で完売。農林水産省の方針に賛同していたマルエツは、見事、完売だった。

20時20分の時点で完売していたスーパー(筆者撮影)
20時20分の時点で完売していたスーパー(筆者撮影)

2019年には22時の時点で数百本残っていたスーパーにも行ってみたが、今年はキレイに完売していた。

他にも、完売の札を出している店があった。

完売御礼の札(筆者撮影)
完売御礼の札(筆者撮影)
完売をお詫びする札(桑原慧さん撮影)
完売をお詫びする札(桑原慧さん撮影)

東京・代々木のスーパー、マルハンは、完売するよう量を調整したとのことで、19時には完売していた。

店の棚がスッキリと空になっている店が多く見られた。

閉店1時間前には40%引きにするなど値引き販売し、期限が切れるまでにきちんと売り切ろうとする試みも見られた。

売れ残った恵方巻に40%引きのシールを貼り、売り切ろうとするスーパー(筆者撮影)
売れ残った恵方巻に40%引きのシールを貼り、売り切ろうとするスーパー(筆者撮影)

手作りの恵方巻や、手巻き寿司を作ることを推奨するスーパーもあり、手巻き寿司のネタや、刺身を販売する様子も見られた。

結果(4)寿司店

1店舗あたりの平均残数=3本/店

寿司店は、スーパーマーケットに次いで優秀だった。どの店も、売り切れる数を調整して作り、店舗だけでは足りない場合は、集客数の多い駅の方まで出向いていって売る店舗も見られた。

結果(5)駅ナカ

駅ナカは、恵方巻の取り扱いが確認できなかった。

考察とまとめ

今回の調査結果を踏まえ、考察とまとめを述べる。

  • 百貨店・コンビニは、地域や企業、店舗によって、明暗が分かれた。コンビニでは、セブン-イレブンとファミリーマートは、完売店舗率が過半数を超えていた。ローソンは、調査店舗全体では完売店舗率が低かったが、店舗によっては完売していた。
  • スーパーは、地域・企業問わず、全般的に売り切っていた。多くのコンビニと違い、期限が迫ったものを積極的に値引きしていることも背景にあるのだろう。また、百貨店と比べると、買いやすい価格帯であることなどが要因に挙げられる。
  • 百貨店もスーパーも、客の入りや在庫数を見ながら、売り切ることのできる量を店内調理した店は、完売できていた。コンビニは、店内調理はできないものの、仕入数を絞り適量販売している店舗や、予約販売を積極的に進めたところは、きちんと売り切れる傾向にあった。
  • 農林水産省に賛同した26企業のうち、首都圏での調査対象として確認することができたのは、大手コンビニ3社と大丸東京、マルエツの5企業だった。どこも、2019年に比べて、よりいっそう、売り切る努力をする傾向が確認できた。
  • 2021年には、家庭での手作りを勧めるのも一案だろう。今年、いくつかのスーパーが実施していたように、手巻き寿司を提案し、消費者が食材を買って家で作ることを店側が提案するのはどうだろう。
  • 恵方巻の具材を、日常的に売っている具材にする、あるいは生ものでない日持ちする具材にする工夫もありかもしれない。株式会社プレナスが運営する、持ち帰り弁当のほっともっとは、普段作って売っている弁当の食材で、恵方巻を作ることを発表していた。これなら、食材が無駄になることはない。恵方巻の食材が余れば、普段、作って売っている弁当を作るのに使えばいいからだ。あるいは、生ものをできるだけ使わないようにすれば、消費期限も長くなる。

以上

基本は「適量」販売だろう。

調査会社のマイボイスコムが2019年2月1日から5日に調査した結果によると、恵方巻を食べた人の購入場所はスーパーが66.6%で最多だった。コンビニと寿司店はそれぞれ10%程度。デパート(百貨店)は10%を切っており、2016年・2017年・2018年・2019年と、これらの傾向は変わらない。これを踏まえて、どの業態でも適量販売を目指していけば、食品ロスは、今年にも増して減っていくだろう。

百貨店でもタイムサービスで値引きして売る例が見られた(桑原慧さん撮影)
百貨店でもタイムサービスで値引きして売る例が見られた(桑原慧さん撮影)

調査をした大学生の感想・コメント

今回の調査に協力してくださったのは、下記「学生フードロス削減プロジェクト」のメンバー(五十音順)。

桑原慧さん(法政大学)

辻田創さん(神戸市立外国語大学)

冨塚由希乃さん(明治大学)

調査に関わっての感想を伺ってみた。

首都圏にあるスーパーの恵方巻売り場。16時の時点では、数百本がところ狭しと並べられていた(筆者撮影)
首都圏にあるスーパーの恵方巻売り場。16時の時点では、数百本がところ狭しと並べられていた(筆者撮影)

冨塚由希乃さん(明治大学)

百貨店の地下催事場は、行列が衝撃的だった。催事場のお店は、単価が2000円程だったものの完売していて、逆にコンビニの恵方巻は23時まで売れていなかったりと、大量生産のものを『安いから買う』のではなく『美味しく手作りだから買う』という印象。

節分商品は恵方巻だけではなく、お菓子なども作っていて(特にコンビニ、デパート)、それらは値引きされず、節分が終わったら捨てられてしまう・・・。

今まであまり恵方巻きに躍起になって買うことはなかったからこそ、人々の異常なまでの飛び付き具合に驚きを隠せなかった。

季節もの商品は、マーケティングしやすいもののその日が終わると一斉に捨てられるので、恵方巻に限らずイベントに踊らされるのはどうなのだろうか?と考えた。

首都圏のスーパー(筆者撮影)
首都圏のスーパー(筆者撮影)

辻田創さん(神戸市立外国語大学)

ファミリーマートではどこもすべて売り切れでした。店員の方に話を聞いたところ、「予約販売以外の当日販売はすでに売り切れてしまいました。」と仰っていました。

ダイエーは女性、外国人の方を中心に19時30分ごろにぎわっており、21時には完売していました。

ローソンはロス対策に注力しているかと思いきや、割引もなく、消費期限は2月4日午前5時までと、余裕がありました。売れ残りも一番多かったです。

桑原慧さん(法政大学)

どうしても売れ残りの現場は印象に残り、全ての店舗が大量の廃棄をしているように思える。しかし、中には完売をしている、売り切る努力をしている店舗もあり嬉しく感じた。

私たちは売れ残りの現状に加えて、完売している店舗も知って欲しいという思いから、#ぱくぱく恵方巻き を付けて完売している店舗をツイッターで発信したのでぜひチェックしてほしい。

また、私の周りでは家で恵方巻を作っている方を多く見受けられた。これから家で美味しく、楽しく、適量に恵方巻を作る動きが広がってほしいと思う。

筆者の感想

農林水産省が、2019年1月に続き、2020年1月にも小売業界に通知を出したことで、より、食品ロス削減の動きが高まった。2019年の節分後の調査結果を、2020年1月というタイムリーな時期に示したことも、効果を高めたであろう。

2019年、小売業界の恵方巻ロス削減結果(農林水産省調査によるもの。農水省HP結果グラフを元にYahoo!ニュースが色を変えてグラフ作成)
2019年、小売業界の恵方巻ロス削減結果(農林水産省調査によるもの。農水省HP結果グラフを元にYahoo!ニュースが色を変えてグラフ作成)

2019年10月1日に施行された食品ロス削減推進法も、背景にあると思う。

売れ残っていた様子も見られたが、改善のきざしが見られ、じんわりと嬉しかった。

2019年の節分で調査した某百貨店も某スーパーも、昨年は数百本単位で売れ残っていた。それが、たった一年で、どちらのお店も、完売していた。売れ残りゼロ。

物事が変わるのには時間を要することも多いが、一年間でこんなにもより良い方向に社会が変わる、という姿を見ることができて、飛び上がるほど・・・というのではないが、じんわりと、嬉しさを噛み締めた。

完売し、商品がないことをお詫びする札も見られた。

でも、「売り切れごめん」でいいのではないだろうか。

完売をお詫びする札(筆者撮影)
完売をお詫びする札(筆者撮影)

大規模の小売店は、いつもメーカーに対して欠品を禁じている。売り逃しになるからだが、「お客様にご迷惑をおかけするから」とおっしゃる。

でも、結局、欠品を防いで棚にぎっしりと詰めておくためのコストは、企業だけでなく、消費者にも転嫁される。そして売れ残れば、家庭ごみと一緒に税金を使って処分される。

今回の調査では、2月3日の夕方から夜にかけて完売していた店を多く見ることができた。あれだけ完売した店があったということは、買いたくても買えなかった人もいたはずで、実際、店員に「売り切れちゃったんですか?」と聞いている人も見かけた。ソーシャルメディア上でも、売り切れていたので別のものを買った、などの投稿が複数見られた。

2月3日に恵方巻をどうしても食べたい人は、2021年は予約する、もしくは家で自分で作ることにし、今回、販売機会を失っても食品ロスを削減し、食べ物を捨てないことを選んだ企業や店に対し、苦情を言うのではなく、店の英断を褒める姿勢が求められる。

2021年の節分には、消費者もお店も、よりいっそう、食べ物(命)を無駄にしないようになることを信じて。

参考情報

2020年1月17日 季節食品のロス削減の取組が拡大!~恵方巻きのロス削減プロジェクトに26社参画~(農林水産省)

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食品ロス問題ジャーナリスト・博士(栄養学)

奈良女子大学食物学科卒、博士(栄養学/女子栄養大学大学院)、修士(農学/東京大学大学院農学生命科学研究科)。ライオン、青年海外協力隊を経て日本ケロッグ広報室長等歴任。3.11食料支援で廃棄に衝撃を受け、誕生日を冠した(株)office3.11設立。食品ロス削減推進法成立に協力した。著書に『食料危機』『あるものでまかなう生活』『賞味期限のウソ』『捨てないパン屋の挑戦』他。食品ロスを全国的に注目させたとして食生活ジャーナリスト大賞食文化部門/Yahoo!ニュース個人オーサーアワード2018/食品ロス削減推進大賞消費者庁長官賞受賞。https://iderumi.theletter.jp/about

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