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2024年はハリウッドの日本元年?「SHOGUN 将軍」以外にもある、日本を扱う今年の話題作

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
今月10日配信開始のシリーズ「サニー」は日本が舞台(Apple TV+)

 プライムタイム・エミー賞ノミネーション発表まで、あと1週間。今回は、日本を舞台にした「SHOGUN 将軍」が大健闘しそうだ。

 アメリカでディズニー傘下のHuluが配信、FXが放映し、記録的な大ヒットとなったこの作品は、ドラマシリーズ部門はもちろんのこと、演技部門でも、真田広之、浅野忠信、アンナ・サワイ、コズモ・ジャーヴィス、平岳大などの候補入りが予想されている。作品、真田、浅野、サワイはそれぞれの部門のフロントランナー。アメリカの作品とはいえ、せりふの7割が日本語の時代劇が複数部門でこの栄誉ある賞を受賞することになれば、相当に画期的である。

 エミー賞の予想には食い込んでいないが、今年前半は、アメリカでやはりHuluが配信した「The Contestant」もあった。1998年、高視聴率を稼いだ「電波少年的懸賞生活」に出演したなすびについてのドキュメンタリー映画だ。監督はイギリス人女性クレア・ティトリー。

 ティトリーは、ほかの作品のためにリサーチをしている時、偶然インターネットで「電波少年的懸賞生活」の映像を見つけ、興味を持ったという。だが、それらネットのコンテンツは、日本の文化を面白がるものばかりで、なすびの人物像に迫るものは見当たらなかった。それで彼女は、この番組だけに限らず、彼という人を全体的に見る映画を作りたいと、なすびにアプローチしたとのことだ。

 この映画には、なすび本人や彼の家族、昔からの友人のほか、”悪役”的存在である番組のプロデューサーも出演し、それぞれに正直な思いを語っている。番組の雰囲気が西洋の視聴者に正しく伝わるよう、ティトリーは、アーカイブ映像にただ英語字幕を入れるのではなく、オリジナルの日本語と同じようなトーンで声を英語に吹き替え、キャプションも英語にするなど、労力を注いだ。

今年5月、アメリカで配信開始されたドキュメンタリー映画「The Contestant」の一場面(Hulu)
今年5月、アメリカで配信開始されたドキュメンタリー映画「The Contestant」の一場面(Hulu)

 だが、2024年に公開、あるいは配信される日本がからむ海外製作の作品は、これだけではない。今月も、配信シリーズが世界規模でデビュー、また劇場用映画が北米で公開されるのだ。

 配信シリーズは、10日にApple TV+で始まる「サニー」。出演はラシダ・ジョーンズ、西島秀俊、ジュディ・オング、國村隼、YOU、アニー・ザ・クラムジーら。日本在住のアイルランド人作家が書いた2018年の小説「Dark Manual」を、アメリカ人女性ケイティ・ロビンスが脚色し、イギリス人女性ルーシー・チェルニアクが監督したもの。近未来の京都を舞台に、夫と息子を突然にして失ったアメリカ人女性(ジョーンズ)が、サニーという名のロボットの力も借りながら、自分の家族に本当は何が起きたのかを探っていこうとする、ダークなユーモアに満ちたミステリースリラーだ。

「サニー」の撮影は、実際に京都と東京で、日本人クルーを雇って行われた(Apple TV+)
「サニー」の撮影は、実際に京都と東京で、日本人クルーを雇って行われた(Apple TV+)

 撮影は、京都と東京で、日本のクルーを雇って行った。パンデミック中で観光客がいなかったことは、祇園のような場所で撮影する上で幸いだったが、道を完全に閉鎖することはできなかったため、配送トラックがやってくると、できるだけ早く去っていってもらうべく、プロダクション関係者が荷下ろしを手伝うような場面もあったという。今のところ、Rottentomatoes.comの評価は91%と、かなり良い。

 今週金曜日にアメリカで公開される劇場用映画は、アイスランド人監督バルタザール・コルマウクル(『エベレスト3D』、『アドリフト 41日間の漂流』)が監督した「Touch」(原題)。原作はアイスランド人作家が書いた小説「Snerting」。

「Touch」はアイスランド人男性と日本人女性の恋物語(Lija Jonsdottir/ 2024 Focus Features LLC. All Rights Reserved.)
「Touch」はアイスランド人男性と日本人女性の恋物語(Lija Jonsdottir/ 2024 Focus Features LLC. All Rights Reserved.)

 1969年にロンドンの大学に通ったアイスランド人青年クリストファーが、ひょんなことで日本食レストランのバイトに応募し、店のオーナー(本木雅弘)の娘、美子と恋に堕ちるという物語。美子を演じるのは木村拓哉と工藤静香の次女Koki,。

 美子は、広島で生まれ、東京を経て父と共にロンドンに引っ越したという設定なので、彼女を演じる女優にも、完全に海外で生まれ育った日系人ではなく、日本人らしい雰囲気があり、しかも英語が話せる若い女性を求めていたと、コルマウクル監督。それらを兼ね備えている女優は、それほど多くはなかった。Koki,の写真はかなり早い時期に送られてきており、実際にせりふ読みをしてもらうと、この人だと思ったのだという。彼女が有名人の子だということは、アイスランドのロケ地に母親が訪ねてきた時、日本人のエキストラの反応を見て初めて知ったとも、コルマウクル監督は語っている。

 映画は、およそ50年間にわたる、美しいラブストーリー。広島に住む人たちの原爆体験について語られているのも特筆すべき。現状、Rottentomatoes.comでは100%の高評価を得ている。毎年アワードシーズンに活躍する北米配給のフォーカス・フィーチャーズも、賞狙い作品と位置付けているようだ。秋頃から本格化するアワードシーズンの厳しい競争に残れるかどうかが注目される。

若き日の美子をKoki,、クリストファーを監督自身の息子が演じる(Lija Jonsdottir/ 2024 Focus Features LLC. All Rights Reserved.)
若き日の美子をKoki,、クリストファーを監督自身の息子が演じる(Lija Jonsdottir/ 2024 Focus Features LLC. All Rights Reserved.)

 一方、「サニー」は、配信開始が今年のプライムタイエミー賞の締め切り後だったため、エミーに関しては来年の対象となる。しかし、年明けに発表される、映画とテレビ両方を扱う放送映画批評家協会賞(Critics Choice Awards)や、全米映画俳優組合賞(SAG)をはじめとする組合関係のアワードには資格がある。

 今年前半のオスカーでは、「君たちはどう生きるか」が長編アニメーション映画部門、「ゴジラ-1.0」が視覚効果部門を受賞した(受賞は逃したが、日本出身のKazu Hiroも、メイクアップ&ヘアスタイリング部門に候補入りしていた)。それから1年もしないうちに、また日本に関係する作品が大ヒットをしたり、アワードで大健闘したりするようなことになったなら、2024年は日本にとって特別な年になるかもしれない。もっとも、大ヒットを受けて「SHOGUN 将軍」は第2シーズンに向けた話し合いを始めているし、これはあくまで始まりなのかも。才能ある日本人が世界で活躍し、日本についての優れた物語が世界規模でもっと語られていく機会がこれからも増えることを願いたいものだ。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「シュプール」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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