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「SHOGUN 将軍」全世界で大ヒット。日本が舞台のドラマが記録を確立したことの意味

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
真田広之が主演とプロデューサーを務める「SHOGUN 将軍」は大ヒットデビュー

 サムライが、世界を制覇した。「SHOGUN 将軍」が、世界中の視聴者の心を見事につかんでみせたのだ。

 先月27日に第1話と第2話を配信したこのミニシリーズは、最初の6日間に全世界で900万の視聴数を獲得(『SHOGUN 将軍』を配信するディズニーは、全体の視聴時間をドラマの尺で割ったもので視聴数を測る)。これは、ディズニー・ジェネラル・エンタテインメントにとって、最高記録のデビュー。これまで記録を持っていたのは、「The Kardashians」第1シーズン。

 北米だけを見ても、Huluが配信するFX作品のデビューとして過去最高記録を達成。これまで最高記録を保持していたのは、アメリカで大人気を誇り、あらゆる賞を獲りまくってもいる「一流シェフのファミリーレストラン」第2シーズンだった。ディズニー傘下のFXプロダクションズが製作した10話構成による「SHOGUN 将軍」は、アメリカではやはりディズニー傘下であるHuluで配信されるほか、ケーブルチャンネルFXで放映。中南米ではDisney+とStar+、その他の国ではDisney+が配信する。

シリーズの後半重要になってくる落葉の方役を、二階堂ふみが演じる
シリーズの後半重要になってくる落葉の方役を、二階堂ふみが演じる

 出演者のほとんどが日本人、しかも時代物。せりふのおよそ7割が日本語で、日本語を知らない視聴者は字幕を読まなければならないこのドラマが全世界からこんなに温かく受け入れられたのは、まさに画期的なこと。そう遠くない昔、ハリウッドの作品にはアジア人がほとんど出てこないのが現実だったのだ。出てきたとしても脇役で、当然ながらそのキャラクターは英語を話す。

 もっとも、近年は韓国語の「イカゲーム」や、せりふはほとんど英語ながら(韓国語も少しだけ出てくるが)アジア系キャスト中心の「BEEF/ビーフ〜逆上〜」などが配信でヒットしており、アジア系が前面に出てくる作品が受け入れられる土壌ができていることは、ある程度証明されていた。それでも、「SHOGUN 将軍」は、かけられている予算の規模が違う。

 正確な製作予算は明かされていないが、FXの歴史で最高レベルとのこと。それは、1600年の日本をバンクーバーに再現したセットや衣装、視覚効果などにも容易に見て取れる。主演とプロデューサーを兼任する真田広之も、「新しいセットに入るたびにスケール感に圧倒され、役者冥利に尽きる」と、配信開始前の筆者とのインタビューで語っていた。

虎永(真田広之)とイギリス人ブラックソーン(コズモ・ジャーヴィス)の通訳を務める鞠子役に抜擢されたのはニュージーランド生まれのアンナ・サワイ
虎永(真田広之)とイギリス人ブラックソーン(コズモ・ジャーヴィス)の通訳を務める鞠子役に抜擢されたのはニュージーランド生まれのアンナ・サワイ

 30秒スポットで700万ドル(およそ10億円)もするスーパーボウルの試合中継でも予告編を流すなど、宣伝広告費も惜しんでいない。製作陣はそれだけこの作品に自信を持っていたということだろう。しかし、ヒットするかどうかは誰にもわからないもの。そのギャンブルは正しかったことが、今、証明されたのだ。

 実際、見た人の評価は非常に高い。配信開始前に100%だったRottentomatoes.comは、今もほぼ同じ99%。配信開始後に加わった一般人の評価も94%だ。一般人のコメントには、「まだ3話しか見られていないので気が早いかもしれないが、これは今年最高のドラマのひとつになるだろう」、「劇場用映画のレベルの大傑作」、「1話を見た時から好きだったが、話が進むに従ってますます良くなる」など、絶賛の声が寄せられている。

 そんな中で注目したいのは、「衣装をはじめ日本文化のディテールが徹底しているところがすばらしい」、「このドラマを見て日本の歴史をもっと知りたいと思うようになった」などといったコメントだ。真田が徹底してこだわった正しい日本の描写は、日本人以外の視聴者の心にも響いたということ。どうせ日本人にしかわからないと決めつけられがちなそれらのディテールは、この作品の大きな魅力のひとつなのである。

虎永に仕える身でありながら、自分のためにさまざまな策を練る藪重を、浅野忠信が演じる
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 もちろん、ドラマはまだ始まって2週目で、これからがさらに期待される。毎回多くのドラマチックなことが起きるものの、最後の3話はとりわけ劇的で、「次が待ちきれない」というファンの気持ちはますますたかぶると思われるのだ。口コミ効果もあってファンは増え続け、最終回ではさらにすごい数字を出すことになるかもしれない。

 配信開始前、真田は、「これをきっかけに、日本をテーマにした作品が作られやすくなって、もっと世界にアピールしていけるようになれば」との願いを語っていた。今、そこに1歩近づいた形だ。将来、歴史を振り返った時、「SHOGUN 将軍」は、ハリウッドの日本の取り上げ方にどんな影響を与えたことになるのだろうか。

写真/Courtesy of FX Networks

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「シュプール」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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