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トランプ勝利に米コメディアンらが自虐的、自省的ジョークで反応

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
選挙後初の「SNL」にはデイナ・カーヴィ演じるイーロン・マスクが登場(NBC)

 悲しみが癒えるには、いくつかの段階があると言われる。カマラ・ハリス勝利で初の女性アメリカ大統領(しかも有色人種!)が誕生するとの期待に胸をときめかせていた人たちも、ショック、絶望、怒りから、次の感情へと少しだけ移行し始めているようだ。

 現地時間先週水曜日の深夜に放映された「Jimmy Kimmel Live!」で司会者ジミー・キンメルが言ったように、ハリウッドセレブをはじめとするハリス支持者は、「常識が勝つはず」、「犯罪者と検察官の2択なら、どちらを選ぶかは明白」だと思いこんでいた。だが、それはみんなにとっての常識ではなかったのである。むしろ、そう思わない人のほうが、アメリカ全土には多かったのだ。その厳しい現実を見せつけられ、ハリス支持者らは、呆然としつつ、同じ考えを持つ仲間とつるんで外を見ていなかった自分たちの浅はかさを見つめている。

 選挙後初の放映となった現地時間先週土曜日の「Saturday Night Live」(SNL)にも、それは見てとれた。常にトランプを揶揄し、選挙直前の回にはハリス本人をサプライズ出演させたこの番組がこの結果をどう扱うのか興味が持たれていたが、彼らはその不都合な真実に焦点を当てている。

 冒頭で、レギュラー出演者は揃って舞台に立ち、トランプに向けて、「『SNL』はずっとあなたを支持してきました」と宣言。もちろんそれはジョークで、その後すぐ「私たちはあなたの中に自分自身を見ますから」、「私が将来持つ子供たちにとって、あなたは尊敬できる存在になってくれると知っています」、「これからこの番組はトランプを良い形で描いていきます。彼は私のヒーロー。彼はすばらしい大統領、そしてついには王となるでしょう」と皮肉を連発。「最悪、この地球が破壊された場合も、僕らはみんな火星に行けるでしょうし。僕らが信じ、愛するイーロン・マスクのおかげでね」と、デイナ・カーヴィ演じるマスクを舞台に出してきて、トランプのキャンペーンを支えた彼をも笑いのネタにした。

「テレビ討論会を見て誰に入れるか決めた人なんていない」

 次のコーナーでは、この回のホストでコメディアンのビル・バーが、「個人的に、このバカげた選挙がついに終わってほっとしているよ。誰が誰に投票するか、4年前にみんなわかっていた。なのに、ここまで引っ張ったんだ。(候補者の)テレビ討論会を見ながら決めようと思った人なんて、いるんだろうか。あのふたりはまるで正反対。『オレンジの顔の頑固者は何と言っている?なるほど。じゃあ鼻に声がかかった不動産エージェントは?なるほど。いやあ、難しい。決められないなあ』なんていう人がいたと思う?」とダークなユーモアで現実を指摘。

 また、ニュース番組のパロディ「Weekend Update」のコーナーでは、黒人コメディアンのマイケル・チェが「ペンシルバニア州の田舎の人たちがジャマイカ系とインド系の女性に投票するなんて、なぜ私は信じたのですかね。私はリベラルな白人と一緒にいすぎて、おバカな楽観主義を受け継いでしまったようです」と個人的に、そして白人コメディアンのコリン・ジョストが「心配しないで。民主党は今回のことを見つめ直し、間違いから学んで、2028年にはまたバイデンを候補者に立てるでしょう」と民主党支持者として、自虐のジョークを飛ばした。

トランプのいう「アメリカの黄金時代」は日没を意味するか

 だが、ジョストは、「勝利スピーチの中で、トランプは、アメリカに黄金時代をもたらすと約束しました。陽が落ちる時は、黄金色になりますからね」とトランプ自身をネタにすることも忘れない。チェも、「トランプが選挙で勝つと、世界で最も裕福な10人の資産が600億ドル以上も上がったそうです。最大の金持ちは、即座にしてさらに金持ちになったということ」と言った後、「Make America Great Again」の野球帽をかぶった一般人男性の写真を出してきて、「大丈夫、あなたにもすぐ回ってきますよ」と、トランプのいうことを信じている支持者を揶揄した。

 たっぷり笑わせてくれたものの、どこか物悲しく、諦めムードがあったこの回に、マヤ・ルドルフが演じるハリスは登場せず。これからも、出番はしばらくないだろう。

 ただし、ハリスが次に何をするのか次第かもしれない。もしハリスが2026年のカリフォルニア州知事戦に出馬した場合、勝ち目はかなりありそうなのだ。カリフォルニア大学バークレー校政府研究機関と「Los Angeles Times」が共同で行った調査によれば、カリフォルニア州民の民主党支持者の72%が、ハリスが州知事になることに「強く」あるいは「ある程度」賛成しているのである。

 大統領選のような全国的大イベントではないにしても、10人以上が立候補すると思われる重要な選挙に彼女がまた出てくるとなれば、注目されるのは必至。カリフォルニア州知事は過去にアーノルド・シュワルツェネッガーも務めているし、ネタの余地はありそうな気がする。

 とはいえ、ハリスは次の動きについて何も公言しておらず、まだ先の話。今はとにかく、「アメリカの黄金時代」が日没を意味しないことを祈りつつ、悲しみが癒されるのを待ちたい。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「シュプール」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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