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EURO2020第4日。スコットランドとスペインで考える(ゴールに)急がば回れって本当か?

木村浩嗣在スペイン・ジャーナリスト
大会ベストゴールは、このシックのゴールで決まりでいい(写真:ロイター/アフロ)

スペイン対スウェーデンについてはこちらに掲載される予定だから、一言だけ。

今一番やりたくない仕事とはスペイン代表監督ではないか。

モラタかモレーノかで大議論が起きている。が、招集時にナバスやアスパスを呼ばず我が道を行ったルイス・エンリケ監督は、また我が道を行っている。

彼の頭の中には議論は存在しない。世論は昨季スペイン人得点王のモレーノだが、彼はモラタ。モラタは得点以外は全然悪くなく、むしろここ数年では最も体がキレているのではないかと思うが、肝心のゴールを決められない。

となると当然、なぜモレーノを先発させないのか!となる。

しょせんは結果論である。モラタがゴールを決めていれば手の平を返して絶賛するのだ。後出しじゃんけんで、手を見てから批判されるルイス・エンリケには同情を禁じ得ない。

■監督!意地張ってないよね?

彼はモラタを信じている。今モレーノに切り替えればモラタは落ち込んで、今大会ゴールは期待できないかもしれない。が、ゴールゲッターにはツキがあるのも事実で、自信喪失気味のモラタにはベンチで気分転換してもらった方が良いような気もする。

ルイス・エンリケが66分モラタを下げ、モレーノの出番かとスペイン中が期待する中サラビアを入れた時には「わざとやってんのか!」と誰もが叫んだろう。点が欲しいのにゼロトップ。この不思議な実験は10分以内に終了し、モレーノが投入されたのは74分のことだった。

詰まるところ采配権は監督にあり、練習やグラウンド外の振る舞いなどすべてを把握しているのはルイス・エンリケなのだから、彼の采配こそがベストである。

だが、その決定は冷静な判断の下で行ってほしい。反骨心のあるリーダーがブーイングされ意地を張っている――なんてことがないように。世間への反発で判断の目が曇るなんてことがないように。

次のポーランド戦、どちらが先発してもゴールを決めなければ監督が批判される。

まさに、監督はつらいよ、だ。

今流行の場所で采配を振るうルイス・エンリケ
今流行の場所で采配を振るうルイス・エンリケ写真:ムツ・カワモリ/アフロ

■スコットランド対チェコ

この試合は面白かった。EUROにはこういうカード名では判断できない拾い物がある。

シックのスーパーゴールが話題になっていることと思うが、バツリークのアクロバチックなセーブも注目されるべきだ。2-2くらいで終わってもおかしくない内容が0-2という結果になったのは、シックとバツリークのお陰である。

蹴って前に走るっていいね。ラグビーみたいで単純に血湧き肉躍るものがある。不正確なロングボールでも殺到することでセカンドボールを拾えれば、ゴールチャンスに直結する。自陣ゴール前から敵陣ゴール前まで5秒ってところか。

走っている限り、ボールに追い着く限り、アバウトな放り込みサッカーにはならない。で、上がったセンタリングにぶつかって行ければ、ボールの転がり様によっては決定機が生まれる。

何が起こるかわからない。この不確実性へのドキドキ、ワクワクもサッカーの楽しみだ。しかも次はイングランドとのダービーではないか!

■殺到できればアバウトだっていい

アバウトだって何度も繰り返せば確率は上がる。テクニックがなくて精度が低いのなら、回数を稼げばいい。愚直に前へ、前へ出続ければいい。

スコットランドのスタッツが面白い。

ボール支配率56%なのにパスは373本しか繋げず、それで19本のシュートを放ち、うち枠内は5本である。

一方、同夜スウェーデンと対戦したスペインは、ボール支配率75%でパスを852本と気が遠くなるほど繋ぎながら、シュートは17本で、うち枠内は5本である。

昨夜のスペインはよくあるように横パス、バックパスばかりで攻めあぐんでいたばかりではない。よくチャンスを作ったし圧倒的に攻めていたが、それでもこの数字だ。

決定的なチャンスが次々と訪れたのはロスタイムを含めた残り15分で、次々とセンタリングを送り込むようになってからでもある。

パスって何のためにあるんだろう?

ゴールに急がば回れって本当か?

■ポーランド対スロバキア

ポーランドの左右非対称な3バック。右サイドはFWのヨスビアク、左サイドはSBのリブス。案の定、守備を知らないらしいヨスビアクはそこにいるだけでカバーリングをさぼり、2対1の数的有利なのに相手にごぼう抜きされて、先制される原因となった。この3バックは4バックにも変化し、その場合は当然、左のリブスが下がって来る。

もっとも、この可変システムがどこまで有効だったかはわからない。3バックのセンターのグリクは敵陣でマイボールなのに、1人でもの凄く深い、仲間のCBのカバーリングには到底間に合いそうもない不思議なポジショニングをしているし――。

というようなことと、スロバキアのレバンドフスキ対策について書こうと思ったら、クリホビアクの退場で試合の方向が決まり、直後の勝ち越し点で勝敗が決してしまった。

セビージャファンに愛された好漢クリホビアクにファウルを犯すつもりはなかったろう。思わず足を踏んでしまった感じ。ファイトがあるが不器用、というところが出てしまった。

無念レバンドフスキ。彼の調子は良さそうだったが
無念レバンドフスキ。彼の調子は良さそうだったが写真:代表撮影/ロイター/アフロ

在スペイン・ジャーナリスト

編集者、コピーライターを経て94年からスペインへ。98年、99年と同国サッカー連盟のコーチライセンスを取得し少年チームを指導。2006年に帰国し『footballista フットボリスタ』編集長に就任。08年からスペイン・セビージャに拠点を移し特派員兼編集長に。15年7月編集長を辞しスペインサッカーを追いつつ、セビージャ市王者となった少年チームを率いる。サラマンカ大学映像コミュニケーション学部に聴講生として5年間在籍。趣味は映画(スペイン映画数百本鑑賞済み)、踊り(セビジャーナス)、おしゃべり、料理を通して人と深くつき合うこと。スペインのシッチェス映画祭とサン・セバスティアン映画祭を毎年取材

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