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ツイッターについて常識的判断を行った知財高裁判決:スクショを使っても著作権法上適正な引用になり得る

栗原潔弁理士 知財コンサルタント 金沢工業大学客員教授
(写真:ロイター/アフロ)

(2022年)11月2日に知財高裁において大変興味深い判決がありました。ツイッターでの発信者情報開示の控訴審です(控訴人は原審の原告である個人、被控訴人はTOKAIコミュニケーションズというISPです、ツイッター社は直接の当事者ではありません)。結果は控訴人勝訴で、ISPに発信者情報の開示が命じられました。

この裁判の原審については「ツイッター・ユーザーの発信者情報開示請求棄却の意外な理由」という記事を今年の4月に書いています。かいつまんで書くと、原審原告は、ツイッター社への仮処分によるログを提供してもらっており、そのログに基づいて、名誉毀損と著作権侵害の疑いがある発信者の情報(氏名、住所、電話番号等)を開示することをISPに請求していました。しかし、(以下、過去記事より引用)

ツイッターから提供されたログでは、Amazon AWSやさくらインターネットのサーバーからのログインが混在しており、問題ツイートの直前のログインがAWSやさくらからのものであったことから、被告プロバイダーから当該問題ツイートが行われたとは限らないという理由で、著作権侵害については判断が示されることなく、発信者情報開示請求が棄却されました。

このユーザーは、外出中はNTTドコモのスマホから、家ではTOKAIコミュニケーションズのネットサービスからツイートを書き込んでおり、Amazon AWSやさくらインターネットのサーバーからのログインは外部アプリによるものというのが、技術常識を踏まえた合理的推定と思いますし、原告も当然それを主張しているのですが、裁判所は証拠がないとして一蹴しています。

というちょっと理解に苦しむ判断により、請求が棄却されていました(念のために書いておくと、ツイッターの仕様では各ツイートのIPアドレスはログされず、ログイン時のみIPアドレスがログされ、また、複数IPアドレスからの同時ログインが可能なのでこういった問題が生じます)。

今回の知財高裁では、(以下、判決文より引用)

「当該権利の侵害に係る発信者情報」の範囲をむやみに拡大することは相当とはいえないものの、侵害情報の投稿がされたログイン時のIPアドレスから把握される情報に限定するとなると、複数のログインが同時にされているなどして投稿がされたログインが特定できない場合などには、被害者の権利の救済をはかることができないこととなり、上記法(栗原注:プロバイダー責任制限法のこと)の趣旨に反する結果となる。

として、開示請求が認められました。

さて、この判決文では、今回の原審とはまた別の裁判で地裁が行った判断を覆しています(実務的な影響はこちらの方が大きいかもしれません)。

控訴人(原審原告)は、発信者が控訴人のツイートをスクショで行っていることから「(ツイートの引用は正規のリツイート機能を使用するというツイッターの規約に反しているから公正な慣行に従っておらず)著作権法上の引用の要件に合致しない(ゆえに著作権侵害である)」と主張しています。これは、過去記事「スクリーンショットによるツイート引用は著作権侵害との判決」で書いている話です(この過去記事は現在でも頻繁にツイッターで引用されていますので、後でこの過去記事にも追記しておきます)。

これに対して知財高裁は(以下、判決文から引用、強調は栗原による)、

控訴人らは、引用リツイートではなくスクリーンショットによることは、ツイッター社の方針に反するものであって、公正な慣行に反すると主張する。しかしながら、そもそもツイッターの運営者の方針によって直ちに引用の適法性が左右されるものではない上、スクリーンショットの投稿がツイッターの利用規約に違反するなどの事情はうかがえない(略)。そして、批評対象となったツイートを示す手段として引用リツイートのみによったのでは、元のツイートが変更されたり削除された場合には、引用リツイートにおいて表示される内容も変更されたり削除されることから、読者をして、批評の妥当性を検討することができなくなるおそれがあるところ、スクリーンショットを添付することで、このような場合を回避することができる。(略)そうすると、スクリーンショットにより引用をすることは、批評という引用の目的に照らし必要性があるというべきであり、その余の本件に顕れた事情に照らしても公正な慣行に反するとはいえないから、控訴人らの上記主張は採用できない。

と、この部分に関しては控訴人の主張を認めず、結果的に著作権侵害は認められませんでした。とはいえ、名誉毀損については認められましたので、結果的に開示請求が認められたわけです。ツイートのスクショ引用が公正な慣行に合致するか否かという争点はこの裁判の結論には影響しないもかかわらず、知財高裁はわざわざ判断を行ったということになります。

まとめますと、この知財高裁判決では、ツイッターに関する過去の地裁の判断を覆して以下の点が判示されたことになります。

1)ツイッターアカウントへのログインが複数のIPから行われていても、問題ツイートのツイート主のIPであると合理的に推定できるのであれば発信者情報開示の対象となる。

2)スクショで引用したことだけを理由にして著作権法上の正当な引用の要件を満足しないということはない。

「ですよねー」としか言いようがない気がしますが、地裁の段階から技術常識とツイッター利用の実情に合致した判断をしてくれればよかったのにというのが正直なところです。

弁理士 知財コンサルタント 金沢工業大学客員教授

日本IBM ガートナージャパンを経て2005年より現職、弁理士業務と知財/先進ITのコンサルティング業務に従事 『ライフサイクル・イノベーション』等ビジネス系書籍の翻訳経験多数 スタートアップ企業や個人発明家の方を中心にIT関連特許・商標登録出願のご相談に対応しています お仕事のお問い合わせ・ご依頼は http://www.techvisor.jp/blog/contact または info[at]techvisor.jp から 【お知らせ】YouTube「弁理士栗原潔の知財情報チャンネル」で知財の入門情報発信中です

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