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スクリーンショットによるツイート引用は著作権侵害との判決(追記:知財高裁で覆りました)

栗原潔弁理士 知財コンサルタント 金沢工業大学客員教授
(写真:當舎慎悟/アフロ)

追記:この裁判の控訴審ではなくまた別の裁判ですが、スクショでツイート引用したことだけを理由に著作権法上の正当な引用ではないとされることはないという知財高裁の判示がありました。こちらの新記事をご参照ください。

ツイッターにおいて他人のツイートを引用する際には、当然ながらリツイート機能(RT)を使用することになりますが、場合によって、スクリーンショットの画像を添付することで引用するケースもあります。その理由としては、(1)元ツイート主に引用されたことを覚られたくない、(2)サムネールもまとめて引用したい、(3)元ツイートが消されても証拠が残るようにしたい、等があるでしょう(追記:(5)ブロックされていて正規のRT機能を使用できない、というケースもあるかもしれません)。

比較的よく行われている行為だと思いますが、これに関して、ツイッターが提供する正規のRT機能を使わない、スクショによるツイートの引用は著作権法で定められた正当な引用ではない(結果として著作権侵害に相当する)とした判決がありました(判決文)。

著作権侵害訴訟ではなく、発信者情報開示請求訴訟の要件の一つとして著作権侵害が判断されたものです。原告はまず米ツイッター社を発信者情報開示で訴えて、仮処分により発信者のIPアドレスを取得、そして、そのIPアドレスに基づき、プロバイダーであるNTTドコモを訴えて発信者の個人情報の開示を請求した(それが今回の判決)ということになります。なお、代理人の記載がないので、本人訴訟と思われます。

ツイッター(および、プロバイダー)を被告とする発信者情報開示請求の訴訟は最近よくありますが、今回の訴訟で興味深いのは(著作権法32条に規定される)引用の正当性(公正な慣行に合致するか)が判断されている点です。

裁判所の判断の部分からポイントとなる部分を抜粋すると以下のとおりです(太線筆者)。

ツイッターの規約は,ツイッター上のコンテンツの複製,修正,これに基づく二次的著作物の作成,配信等をする場合には,ツイッターが提供するインターフェース及び手順を使用しなければならない旨規定し,ツイッターは,他人のコンテンツを引用する手順として,引用ツイートという方法を設けていることが認められる。そうすると,本件各投稿は,上記規約の規定にかかわらず,上記手順を使用することなく,スクリーンショットの方法で原告各投稿を複製した上ツイッターに掲載していることが認められる。そのため,本件各投稿は,上記規約に違反するものと認めるのが相当であり,本件各投稿において原告各投稿を引用して利用することが,公正な慣行に合致するものと認めることはできない。

要するに、正規のRTの機能を使わずにスクショで他人のツイートを引用するツイートをすると、著作権法上の正当な引用とは認められず、元ツイート主に発信者情報開示請求を行われるた場合に、個人情報(今回のケースでは、氏名、住所、電子メールアドレス、電話番号)が開示されてしまう可能性があるということになります。ネット上で匿名で口喧嘩する場合には十分に注意する必要があるでしょう。

とは言え、スクリーンショットによる「引用」は頻繁に行われている行為であるため、それだけを理由に正当な引用ではないとする判示には多少の違和感を覚えます。ツイッターに関する判決は、どうも現実の利用形態をわかっているのだろうかと疑問に感じるものがないとは言えません。ツイッター(さらには、ネット一般)を使いこなしている裁判官は少ないんだろうなという印象です。

たとえば、先日の伊藤詩織氏の名誉毀損に関する裁判では、「(コメントなしの)RTは賛同を意味する」という判示がなされたそうです(参照記事)。自分用のメモ、あるいは、「こんなこと言ってる奴がいるw」というニュアンスでRTをするケースはよくあると思うのですが、これからは、こういう場合は、コメント付きRTで「自分用メモです」、「こんなことを言っている人がいます(私は賛同しているわけではありません)」と付記する必要が出てくるでしょう。なお、念のため書いておくと、私は伊藤氏への名誉毀損を許容せよと言っているのではありません。「コメントなしRTは原則的に元ツイートへの賛同を意味する」との判示がされたことに違和感を感じていると言っています。

追記:

いくつか重要ポイントを追記しておきます。

引用が著作権法上の正当な引用とされる(著作権侵害にならない)ための条件としては以下があります。

第32条1項 公表された著作物は、引用して利用することができる。この場合において、その引用は、公正な慣行に合致するものであり、かつ、報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行なわれるものでなければならない。

第48条1項 次の各号に掲げる場合には、当該各号に規定する著作物の出所を、その複製又は利用の態様に応じ合理的と認められる方法及び程度により、明示しなければならない。

1号 第32条(略)の規定により著作物を複製する場合(以下略)

要するに、以下の条件がすべて満足されていなければなりません。

1.公表済

2.公正な慣行に合致

3.報道、批評、研究その他の目的

4.正当な範囲内

5.(合理的な範囲での)出所表示

「公正な慣行」については、法文上は明記されていませんが、以下の要件があるというのが通説です。

a. 主従関係:引用する側が主、引用される側が従

b. 明瞭区分性:引用部分が両者が明確に区分されている

c. 必然性:引用する必然性がある

今回の訴訟で言えば、たとえば、「誹謗中傷を目的としている」「主従関係がない」等の理由により引用不適格(結果的に著作権侵害)というロジックであればわかるのですが、「ツイッターが用意した手順を使わない利用は公正な慣行に合致しない」というロジックがいきなり出できたことに私が違和感を感じているわけです。他の引用の要件が満足されていても、ツイッターの正規のRT機能を使わないで引用すると、正当な引用の要件を満足しないことになってしまいます。

ところで、今回のケースはツイッター内で閉じた話ですが、ブログやウェブサイトでツイートを引用する場合はどうでしょうか?このような場合の「ツイッターが提供するインターフェース及び手順」としては埋め込みツイートがありますので、これを使わないで地の文で「ツイッターで@hogehogeさんが『xxx』と言っています」というような書き方をすると正当な引用とは認められない可能性が出てきてしまいます。

また、テレビや新聞でのツイート引用はどうなのかという話もありますが、時事の事件の報道のための利用は著作権法41条により可能ですし、ツイッター社が放送のためにユーザーのツイートの使用を許可することにユーザーが同意するという規約もありますので、別論です(こちらはこちらで別の論点がありますが)。

なお、この訴訟は発信者情報開示請求訴訟であり、「発信者」は当事者ではありませんので、上記の結論に不満があっても反論のしようがありません。したがって、この後に、この原告が発信者に対して著作権侵害訴訟を行った場合にも、同じ結論が出るとは限りません。しかし、判決文によれば、原告は「任意での示談交渉」を予定しているとのことなので、情報開示がされれば目的を達成できたということなのかもしれません。

追記:弁護士ドットコムの記事によるとNTTドコモ側が控訴したとのことです。発信者情報開示訴訟で被告(プロバイダー)が控訴するのは珍しいのではないかと思います。それほど、被告側がこの判決は問題があると考えているということかと思います。

弁理士 知財コンサルタント 金沢工業大学客員教授

日本IBM ガートナージャパンを経て2005年より現職、弁理士業務と知財/先進ITのコンサルティング業務に従事 『ライフサイクル・イノベーション』等ビジネス系書籍の翻訳経験多数 スタートアップ企業や個人発明家の方を中心にIT関連特許・商標登録出願のご相談に対応しています お仕事のお問い合わせ・ご依頼は http://www.techvisor.jp/blog/contact または info[at]techvisor.jp から 【お知らせ】YouTube「弁理士栗原潔の知財情報チャンネル」で知財の入門情報発信中です

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