ツイッター・ユーザーの発信者情報開示請求棄却の意外な理由
裁判所のサイトで知財関連判例を定期的にチェックしていますが、月に1回は発信者情報開示の訴訟を見る印象です(すべての判決文がウェブに載るわけではないので統計的な意味はあまりないですが)。そして、著作権侵害に基づいて、ツイッター・ユーザーの個人情報の開示を求める訴訟では請求が認められるケースが多い印象です(これまた統計的に有意とは言えませんが)。
アイコンがトリミングされているので同一性保持権侵害、スクリーンショットで引用しているので著作権法上の正当な引用の要件を満たさない等、個人的にはやや違和感を覚える解釈が定着していることもあり、著作権侵害に基づくツイッター・ユーザーの発信者情報開示請求は認められやすいと言えます。結果的に、実質的には名誉毀損に関する争いでありながら、著作権侵害が方便として使用されているケースもあるように思えます(これは、ツイッター、そして、発信者情報開示に限ったケースではないですが)。
しかし、先日、珍しく、ツイッター・ユーザーの発信者情報開示請求が認められなかった裁判がありました(判決文)。なかなかに議論を呼ぶ要素があると思いますのでここで紹介します。
前提として、ツイッターで問題ツイート(著作権侵害、名誉毀損、誹謗中傷等)を行ったユーザーの個人情報を開示してもらうためには、
- 米ツイッターに発信者情報開示の仮処分を請求してログを開示してもらう
- ログのIPアドレスを元にそのIPを管理するプロバイダーに対して発信者の個人情報(氏名、住所、電話番号等)を開示してもらう
という2ステップが必要になります。今回の訴訟は上記のステップ2の話です。
ここで、ツイッターのシステム上の仕様として以下の点が問題になってきます。
- ツイッターでは、各ツイートのIPアドレスはログされない。IPアドレスがログされるのはログイン(サインイン)の時のみである。
- 多重ログインが許可される。
- 1度ログインすると、しばらくログイン状態を維持することができる。
- ツイートをする人間のユーザー以外にも、外部アプリがユーザーの許可の元にログインし、ツイートを読み書きすることがある。
問題ツイートを行ったIPを直接的に特定することはできないので、同じユーザーのログイン時のIPのログから問題ツイートが行われたIPを推定し、そのIPに相当するユーザーの個人情報をプロバイダーに開示請求するという流れになります。
対象のツイッター・ユーザーがほぼ1つのプロバイダー(たとえば、特定の携帯電話事業者)からツイッターを使用している場合には、問題となったツイートの直前のログインのIPアドレスに該当するユーザーの個人情報の開示が命じられることが判例上ほぼ確定しています。この場合、ログインを行ったのと同じユーザーが問題ツイートをしたのであるというのは合理的な推定でしょう。
しかし、この訴訟では、NTTドコモとTOKAIコミュニケーションズというプロバイダーが被告となったのですが、ツイッターから提供されたログでは、Amazon AWSやさくらインターネットのサーバーからのログインが混在しており、問題ツイートの直前のログインがAWSやさくらからのものであったことから、被告プロバイダーから当該問題ツイートが行われたとは限らないという理由で、著作権侵害については判断が示されることなく、発信者情報開示請求が棄却されました。
このユーザーは、外出中はNTTドコモのスマホから、家ではTOKAIコミュニケーションズのネットサービスからツイートを書き込んでおり、Amazon AWSやさくらインターネットのサーバーからのログインは外部アプリによるものというのが、技術常識を踏まえた合理的推定と思いますし、原告も当然それを主張しているのですが、裁判所は証拠がないとして一蹴しています。
プライバシーや表現の自由等の問題を考えると、発信者情報開示には一定のハードルの高さが必要と思いますが、ハードルの上げ方がちょっと違うのでは、ハードルを上げるならむしろ著作権侵害の判定の方ではないかと個人的には思ってしまいました。
ところで、こういう判決が確定してしまうと、ツイッターの外部アプリを多用するなどして(あたかも戦闘機のフレア弾のように)どのプロバイダーからツイートしたかわからなくするという裏ワザが使われるようになるのではと一瞬心配したのですが、そもそも発信者情報開示を気にするようなユーザーは国外VPN等、他の匿名化手法を使うでしょうから、これはあまり気にしてもしょうがないのかなと思いました。