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低速目標の傾向と分析:ウクライナ迎撃戦闘2023年5月~2024年4月

JSF軍事/生き物ライター
ウクライナ空軍司令部より2024年3月22日の撃墜戦果

「ウクライナ迎撃戦闘2023年5月~2024年4月の一年間の傾向と分析」の補足記事

 上記記事が高速目標(弾道ミサイル、転用ミサイル)の傾向と分析のみに絞ってたので、当記事では補足として低速目標(巡航ミサイル、自爆ドローン)の2023年5月~2024年4月の一年間のデータを記載。出典:ウクライナ空軍司令部

 低速目標については一年間を通して迎撃率80~90%の付近の高い数字で安定しており、ウクライナ軍の防空能力の弱体化は見られません。迎撃ミサイルの枯渇など致命的な破綻は起きていないと分析できます。

ロシア軍の亜音速巡航ミサイルの推移 

  • 2023年05月:145発(133撃墜、92%)
  • 2023年06月:163発(144撃墜、88%)
  • 2023年07月:92発(78撃墜、85%)
  • 2023年08月:114発(90撃墜、79%)
  • 2023年09月:90発(78撃墜、87%)
  • 2023年10月:5発(4撃墜、80%) ※Kh-101発射停止、備蓄期間
  • 2023年11月:4発(4撃墜、100%) ※Kh-101発射停止、備蓄期間
  • 2023年12月:109発(101撃墜、93%)
  • 2024年01月:124発(102撃墜、82%)
  • 2024年02月:46発(39撃墜、85%)
  • 2024年03月:116発(95撃墜、82%)
  • 2024年04月:71発(55撃墜、77%)

※飛来総数1079発(923撃墜、86%)

※Kh-101/555、カリブル、イスカンデルK、Kh-69を集計。Kh-59、Kh-31P、Kh-35は除外。

 巡航ミサイル(亜音速型)は月平均だと約90発の飛来です。使用数と生産数はそのままイコールではないものの、ロシアの巡航ミサイル生産能力の推定の材料となるでしょう。

 2022年秋からイラン製の長距離プログラム飛行型自爆無人機「シャヘド136」「シャヘド131」を購入して使いだしたのは、明らかに巡航ミサイルの補助用であり、ロシア軍の巡航ミサイルの在庫は余裕が無く、生産能力も十分ではないことを示唆しています。この傾向は2023年から2024年の現在も続いています。

ロシア軍のシャヘド136自爆無人機の推移

  • 2023年05月:399発(362撃墜、91%)
  • 2023年06月:199発(166撃墜、83%)
  • 2023年07月:238発(201撃墜、84%)
  • 2023年08月:162発(145撃墜、90%)
  • 2023年09月:503発(396撃墜、79%) 
  • 2023年10月:285発(229撃墜、80%)
  • 2023年11月:380発(303撃墜、80%)
  • 2023年12月:598発(490撃墜、82%)
  • 2024年01月:334発(271撃墜、81%)
  • 2024年02月:361発(276撃墜、76%)
  • 2024年03月:596発(511撃墜、86%) 
  • 2024年04月:287発(258撃墜、90%)

※飛来総数4342発(3608撃墜、83%)

※一部の報告が撃墜数のみで飛来数が書かれていない場合があり、これは暫定的に飛来数を撃墜数と同数とした。この結果、実際の飛来数よりやや少なくなり、撃墜率が実態よりも若干上がっている点に注意。

 シャヘド136自爆無人機は月平均だと約362発の飛来です。イランからの輸入品ですが、2024年3月にライセンス生産によるロシア国内生産工場が稼働開始しており(記事)、今後は供給体制が変わって来るので飛来数の傾向も変わってくるかもしれません。

 シャヘド136自爆無人機の巡航速度は200~300km/hで、巡航ミサイル(亜音速型)は800~900km/hなので、低速目標とはいえ速度差は3倍以上あります。普通に考えれば迎撃難易度は巡航ミサイルの方が上ですが、実際の迎撃戦闘での撃墜率ではやや下の数字です。これはおそらくですが、破壊力の高い大きな弾頭を持つ巡航ミサイルは重要目標に対して優先的に投入されているので、重点的に守られた防空網を突破しなければならず、数字の差に現れているのだと思われます。

弾頭重量を2倍に増大する改修

 巡航ミサイルと自爆ドローンともに弾頭重量を増やした改良型が確認されており、弾頭重量が初期型と比べて約2倍に増えています。引き換えとして搭載燃料が減らされて射程が短くなっています。

 Kh-101巡航ミサイルは従来と同じ弾頭を2つ搭載した改良型が確認されており、新たな弾頭を開発生産する時間と手間を惜しんだ簡易な威力強化型です。シャヘド136自爆無人機は大型弾頭が新たに用意されて、速力の遅さによる貫通力不足を解決するために弾頭正面を成形炸薬としています。

軍事/生き物ライター

弾道ミサイル防衛、極超音速兵器、無人兵器(ドローン)、ロシア-ウクライナ戦争など、ニュースによく出る最新の軍事的なテーマに付いて兵器を中心に解説を行っています。

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