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菅総理Goto2.7兆円も大事ですが、ふたり親困窮世帯へも緊急給付金を【結婚してたら子育て罰?】

末冨芳日本大学教授・こども家庭庁こども家庭審議会部会委員
キッズドアによる調査より(理事長・渡辺由美子さんのnoteより許可を得て転載)

1.Goto2.7兆円も大事だが、子どもの命や未来のための2100億円も大切では?

―ひとり親困窮世帯約33万、ふたり親困窮世帯約140万世帯がほんとうに危ない!

  子どもの貧困問題について、7年以上取り組んできた研究者として、1月からの通常国会で、ぜひ実現してほしいのが、ひとり親だけでなく、ふたり親困窮世帯も対象とした緊急給付金です。

 法案は立憲民主、共産、国民民主、社民の4によって1月22日に衆議院に法案提出されました。

 もっとも重要なポイントは以下の3点です。

―児童扶養手当を受給するひとり親世帯と、住民税非課税相当のふたり人親世帯が対象

―第1子5万円、第2子以降は1人あたり追加で3万円を

―3月までに2回支給

 対象は約160万世帯、財源の約2100億円が見込まれ、野党案では、予備費からの財源充当が想定されています。

※「野党、低所得の子育て世帯に給付金支給法案を提出」(産経新聞・2021年1月22日)

 進学や進級シーズンをひかえているのに、とくに低所得世帯ではひとり親・ふたり親に関わらず、子どもが満足に食事を食べられなかったり、進学をやめたり、学校の授業料も苦しく中退をしなければならなくなってしまうような悲しい状況が、残念ながら起きてしまっています。

 この記事のタイトル画像に使用したのは、困窮子育て世帯への支援を行ってこられたNPO法人キッズドア理事長・渡辺由美子さん「コロナで困窮する子どもたちを救おう!」という記事に掲載された図です。

食料も買えない、電気・ガス・水道代が払えない、学校関係の引き落としができない。

 キッズドアの支援につながっている世帯の約3~4割が、大変な状況にあることが把握できます。

 親も怠けているわけではなく、コロナで収入が減ったり、多子世帯であったり、病気や障害があるために満足に働くこともできない状況もあります。

 ひとり親・ふたり親にかかわらず、日々の食事にも事欠き、「お金がない」「死にたい」「助けて」という悲痛な困窮子育て世帯の状況がデータとともに示されています。

 ふたり親家庭への臨時給付金とともに、子ども・若者への抜本的な政府支援策の拡充の必要性が分かる説得力ある記事になっています。

 平成30年度国民生活基礎調査の子育て世帯数と相対的貧困率から算定すると、ひとり親困窮世帯約33万、ふたり親困窮世帯約140万世帯、約170万の困窮子育て世帯が日本に存在することが分かっています。

 1世帯の平均子ども数は約1.71人、つまりこれらの世帯に所属する子どもたちは、約290万人いると推定されます。

 300万人弱の子どもたちが、食や学びのリスクにさらされているのです。

 すでに生活保護などの支援につながっている世帯を除いて、野党法案として提出されたように困窮子育て世帯・約160万世帯に給付金を支給することが、いますぐに必要です

 Gotoキャンペーン予算総額の2.7兆円の1/10未満の金額であり、旅行や外食に行くような余裕がない世帯こそ、優先的に政府予算が支給されるべきではないでしょうか?

2.ふたり親だからといって緊急給付金が受けられない理由は何なのか?

―結婚してたら子育て罰?

 コロナ禍の前から、日本の子どもの貧困対策では、ふたり親困窮世帯が政策から排除されていることが課題として指摘され続けていました。

 私自身も2020年9月28日の内閣府子供の貧困対策に関する有識者会議に、意見書を提出し、子ども(高校生以下)のいる住民税非課税世帯への臨時給付金支給(ひとり親・ふたり親関わらず)を訴えています。

内閣府・子供の貧困に関する有識者会議・2020年9月28日・筆者提出資料
内閣府・子供の貧困に関する有識者会議・2020年9月28日・筆者提出資料

 なぜふたり親だからという理由で困窮世帯が支援を受けられないのでしょうか?

 そこに合理的理由はありません。

子育て罰、と呼ばれる、そもそも子育て世代に厳しいこの国の所得再分配政策です。

結婚している、それだけの理由でふたり親困窮世帯が支援から締め出されている、残念な日本の現状があります。

 おそらく財源がかかる、という理由で財務省が予算化を認めないなどの理由があるのかもしれません。

 しかし、食事も食べられない、安心して学ぶことができない困窮世帯の子どもたちに税金を使わず、旅行・外食のGotoに優先的に財源を投入する政策は、富める者から貧しき者への所得再分配を主要な機能とする政府財政の役割として正しいのでしょうか?

3.保護者の婚姻形態や所得にかかわらず、子どもはこの国の未来そのものです!

―与野党をあげて、支援をお願いします!

 繰り返しますが、子どもの貧困対策において今国会の焦点は、ふたり親困窮世帯の緊急給付金の実現です。

 もちろんこれまで緊急給付金が支給されてきたひとり親困窮世帯だって、コロナ禍の中でほんとうに厳しい状況です。

 ひとり親かふたり親かで、貧困状態にある子どもたちを差別している場合ではないのです!

 これまで政策から排除されてきた、ふたり親困窮世帯への支援を実現することは、この政権が子育て支援に本気であることが国民に伝わる大事な政策になるはずです。

 野党法案として提出されていますが、これまでの子どもの貧困対策がそうであったように、与野党の超党派で実現されることを期待します。

 子どもはこの国の未来そのものです!

 保護者の婚姻形態や所得にかかわらず、すべての子ども・若者・子育て世帯に必要な支援が届くよう、与野党を問わず国会議員のみなさまのご尽力を期待いたします!

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※筆者の内閣府・子供の貧困対策に関する有識者会議での提言についてはこちらの記事にもまとめました。

いま子どもの貧困対策に必要なこと・1】コロナ禍であろうがなかろうが子育て世代への所得再分配が最優先

いま子どもの貧困対策に必要なこと・2】少人数学級は厳しい状況の子どもたちの多い学校から!

いま子どもの貧困対策に必要なこと・3】安倍政権の一斉休校が子どもに与えた影響を調査し、説明責任を!

日本大学教授・こども家庭庁こども家庭審議会部会委員

末冨 芳(すえとみ かおり)、専門は教育行政学、教育財政学。子どもの貧困対策は「すべての子ども・若者のウェルビーイング(幸せ)」がゴール、という理論的立場のもと、2014年より内閣府・子どもの貧困対策に有識者として参画。教育費問題を研究。家計教育費負担に依存しつづけ成熟期を通り過ぎた日本の教育政策を、格差・貧困の改善という視点から分析し共に改善するというアクティビスト型の研究活動も展開。多様な教育機会や教育のイノベーション、学校内居場所カフェも研究対象とする。主著に『教育費の政治経済学』(勁草書房)、『子どもの貧困対策と教育支援』(明石書店,編著)など。

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