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【いま子どもの貧困対策に必要なこと・1】コロナ禍であろうがなかろうが子育て世代への所得再分配が最優先

末冨芳日本大学教授・こども家庭庁こども家庭審議会部会委員
(写真:アフロ)

 9月28日に、内閣府子供の貧困対策に関する有識者会議が招集されました。

いま子どもの貧困対策に必要なことは何か、筆者が内閣府有識者会議に提出した意見書の概要を紹介します。

 【いま子どもの貧困対策に必要なこと】第1弾として、コロナ禍であろうがなかろうが子育て世代への生命を支えるための、所得再分配の改善が最優先であることを、この記事で発信していきます。

 コロナ禍の中で、子どもたちや若者世代の生活の厳しさが増し、衣食住などのベーシックニーズや生命を守ることすら難しくなっている子どもたちも多くなっていることが懸念されます。

 コロナ禍による経済活動停滞の中で、政府による子どもの貧困対策を拡充していくことは、これまでになく重要かつ緊急の課題となっています。

 

 内閣府の子供の貧困対策は、教育の支援、生活の支援、保護者の就労の支援、経済的支援の主に4つの柱から成っています。

 私自身はコロナ禍の前から、子どもの貧困の抜本的改善のためには、児童手当・児童扶養手当の抜本拡充しかないと主張してきました。

 この意見書にもあげたデータの示すように、日本は子育て世帯への所得再分配が失敗していることが明らかです。

 

 子どもの貧困問題の根本的改善のためには、児童手当・児童扶養手当等で若年世代の衣食住を支えられる=生きていけるための現金給付を拡充することが必要な状況なのです。

 以下、関連する意見書の内容を紹介していきます。

1.生活の支援・経済的支援・子ども若者の生命安全の確保政策について

(1)児童手当・児童扶養手当の低所得世帯への増額・所得制限緩和

 低所得子育て世帯に対する児童手当・児童扶養手当の増額が必要であり、政府としてのお取組みをお願い申し上げます。

 子ども食堂や子ども宅食は、親子の社会的孤立を防ぐために重要な政策ではあるものの、アクセス層は限られており対処療法に過ぎません。

 子どもの貧困問題の抜本的改善のためには、低所得子育て世帯への所得再分配のみが、有効な政策手段です。

 新型コロナウイルス感染症流行の前から、わが国では、子育て世帯(子供がある全世帯)の16.9%に「食料が買えない経験」があり、ひとり親世帯では34.9%といっそう高くなる厳しい状況が存在しました(「子供の貧困対策に関する大綱」令和元年閣議決定)。

 

 この状況が子育て世代に著しく厳しいわが国の所得再分配という構造的課題に起因することは、「第12回・子供の貧困対策に関する有識者会議」(令和元年5月13日)においても提出資料においてデータとともに指摘をしたところです(末冨2019,pp.5,6より転載)。

 ライフライン(電気・ガス・水道代)すら支払えない子育て世帯はコロナ禍前から存在し、今もこの日本に存在するのです。

 

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子どもの貧困問題の根本的な改善のためには、子育て世代への所得再分配を改善することがもっとも重要な政策であり、児童手当・児童扶養手当の低所得世帯への増額や所得制限の緩和が具体的な政策手段となります。

児童手当の3歳以上の第1・2子の支給額を一律1万5000円に改善、中学生への支給額も同様にする、児童扶養手当の全額支給、一部支給ともに所得制限を緩和し、子どものいつ低所得世帯により手厚い現金給付とするなどの制度改善が急務です。

(2)保護者への就労支援とともに、ひとり親や住民税非課税世帯への現金給付を

 日本の子育て世帯を取り巻く生活の厳しさは、コロナ禍下で拡大しています。

すでに政府として、「特別定額給付金」(住民基本台帳に登録される住民・1人10万円)、「令和2年度子育て世帯への臨時特別給付金」(子ども一人あたり1万円)、「ひとり親世帯臨時特別給付金」(1世帯5万円、第2子以降1人3万円)が支給されており、とりわけ低所得子育て世帯の生命と生活を支える上で、効果がありました。

 しかしながら、一斉休校とその長期化もあり、総務省『労働力調査』では2020年1月~6月の間に就業者人口が17万人減少し、とくに男女とも非正規労働者の転職・離職確率が高く、低所得世帯ほど所得が減少した世帯の比率が高いことが把握されております(三菱UFJリサーチ&コンサルティング2020,p.2)。

 有効求人倍率も低下傾向にあり、感染症収束と景気回復の見通しが未だ確かなものとはならない中で、子ども・若者の生命を守るための第一条件である衣食住のベーシックニーズを支えるためにも、児童手当・児童扶養手当の低所得世帯への増額や所得制限拡充以外にも、とくに厳しい世帯への支援の拡充が必要です。

 この際、保護者への就労支援を拡充するとともに、とりわけ貧困率が高いひとり親世帯等への臨時特別給付金の再給付などの現金給付策が重要です。

 新型コロナウイルスの感染が収束せず、経済活動停滞し続ける中で、継続的な現金給付崎は、子どもや家族の生命を守るうえで欠かすことができない支援です。

(2)a.ひとり親世帯臨時特別給付金の継続支給

 経済活動停滞の影響がとくに大きい低所得ひとり親世帯に対しては継続して臨時特別給付金の支給を行っていくことが必要です。例えば、児童扶養手当受給者へは、11月支給時にも上乗せ支給をしていく必要があります。

(2)b子ども(高校生以下)のいる住民税非課税世帯への臨時給付金支給

 

 高校生以下の子どものいる住民税非課税世帯(ひとり親世帯以外、家計急変で住民税非課税レベルになった世帯を含む)に対しても、衣食住のベーシックニーズを下支えするために、臨時給付金を支給することも必要とされます。

(3)高校生世代への経済的支援の拡充

児童手当の年限延長・高校生等奨学給付金の所得制限拡充等

 児童手当は15歳までの年齢制限があり、高校生世代への経済的支援は児童扶養手当に限定されてしまいます。

 

 しかしながら、キッズドア(2020,p.13)では高校生世帯の2/3が減収もしくは減収見込みと回答しており、保護者の減収だけでなく長期化した休校による生活費の増加など、高校生世代の生活もまた厳しい状況になっています。

 このままの状況が継続すれば、経済的理由による高校中退者や進学断念層が増加するなど、希望する進路をあきらめてしまう若者の増加が懸念され、わが国の人的資本育成にとってもマイナスの影響を与える可能性が高い状況です。

 児童扶養手当と同様に、児童手当の18歳までの年限延長や、高校修学支援制度のうち、低所得世帯を対象とした高校生等奨学給付金の所得制限の拡充等により、義務教育の後も安心して若者が安定した生活を維持し、学び続けられる支援が急がれます。

 とくに高校生等奨学給付金は、現行の住民税非課税所得基準から、私立高校授業料無償化の旧制度下での倍率支給と同様に目安年収590万円までの段階的支給を実施することが重要です。

※見出し番号は記事配信のため一部変更しています。

※内閣府提出時より一部誤字脱字を修正し、記事用に追加の説明を付け加えています。

引用文献

●キッズドア,2020,『高校生の保護者対象:新型コロナウイルス の影響による生活状況アンケート』

●末冨芳,2019,内閣府子供の貧困対策に関する有識者会議・提出資料(2019年5月13日)

日本大学教授・こども家庭庁こども家庭審議会部会委員

末冨 芳(すえとみ かおり)、専門は教育行政学、教育財政学。子どもの貧困対策は「すべての子ども・若者のウェルビーイング(幸せ)」がゴール、という理論的立場のもと、2014年より内閣府・子どもの貧困対策に有識者として参画。教育費問題を研究。家計教育費負担に依存しつづけ成熟期を通り過ぎた日本の教育政策を、格差・貧困の改善という視点から分析し共に改善するというアクティビスト型の研究活動も展開。多様な教育機会や教育のイノベーション、学校内居場所カフェも研究対象とする。主著に『教育費の政治経済学』(勁草書房)、『子どもの貧困対策と教育支援』(明石書店,編著)など。

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