首都圏で激化する私鉄各社の「住民争奪戦」 攻める京王、西武は何をすべきか?
ことし3月、京王電鉄は「京王あそびの森 HUGHUG」という子ども向け施設を多摩動物公園駅近くにオープンした。全天候型の屋内施設で、子どもが身体を動かして遊ぶのに適した施設だ。
なぜ京王はこのような施設をつくったのか。子育て世代に向けて、沿線価値をアピールするためである。
京王グループは最近、さまざまな生活関連事業に力を入れている。一般的に鉄道会社の関連事業だと考えられているバスやホテルだけではなく、林間学校用施設、保育所、葬祭場など、人生のライフシーンに合わせた生活関連施設を次々とつくっている。
「選ばれる沿線」。従来は東急電鉄がこの言葉を使っていたが、最近ではさまざまな私鉄各社がこの言葉を使うようになっていった。
競い合う「沿線文化」
鉄道路線があり、そこで住宅開発を行い、生活関連産業を花開かせるというのは、もともと阪急電鉄で小林一三がつくり上げたモデルであり、関東ではその礎を東急の五島慶太が築いた。いまでは私鉄各社とも、このモデルに力をそそいでいる。
とくに最近では、沿線文化の豊かさをつくるという点においては、京王は東急に負けないレベルになってきた。各種生活関連施設の充実だけではなく、「トリエ京王調布」などの商業施設の充実も注目すべきところだ。また、本業の鉄道についても、座席指定制列車の「京王ライナー」を走らせるなど、新しい取り組みを行っている。
「沿線文化」の充実に力を入れている東急は、商業開発だけではなくさまざまな取り組みを行っている。その東急に対抗できる路線となるべく、京王は攻めの姿勢で事業に取り組んでいる。
本業でポジションを示す小田急
一方で小田急電鉄は、複々線化工事の完成により、朝時間帯の本数増加や、速達化をなしとげた。これにより、路線自体の利便性が高まり、他の路線から住民を獲得できる大きな要素となった。人気の高いロマンスカーに新車GSEを導入したことにより、注目度も高く、箱根観光の起爆剤へとなりうる。
小田急は本業での成果をあげることにより、「選ばれる沿線」としての価値を高めている。
京王の場合は、現在進行中の笹塚~仙川間の連続立体交差事業に時間がかかり、そのために朝ラッシュ時のダイヤ改善が難しいという問題がある。この事業が完成すると朝ラッシュ時のダイヤが改善するものの、時間はかかる。
もっとも、小田急も複々線化に何十年と時間をかけていたため、ようやくこの成果を沿線住民に示せるということになった。本業の改善により「選ばれる沿線」となるのは、難しいのだ。
だいぶ先の話になるが、笹塚~仙川間の連続立体交差事業の完成によるダイヤ改善が行われた時、本業での力を見せることができる。その際に、関連事業で蓄えた沿線価値の向上を発揮できるかが焦点となる。
西武鉄道はどうすべきか
東京の西北部から埼玉県にかけて路線網を充実させている西武鉄道。ホテルやバスだけではなく、レジャー施設等の関連事業が充実していることが西武ホールディングスの強みである。とくに遊園地や、埼玉西武ライオンズなどがあることで、他の路線に比べてもさまざまな楽しみ方を提供できている。リゾート施設やスポーツ施設にも力を入れ、西武線沿線に暮らすと人生をエンジョイできそうなイメージがある。しかも霊園まであり、亡くなったあとでも安心である。
もちろん、本業でも東京メトロへの乗り入れや、特急レッドアローの運行など、充実度を高める要素が多い。
そんな西武に何が欠けているか。日常生活のための商業施設が不足しているのである。
例えばスーパーマーケット。他の私鉄の関連事業にあるスーパーが西武ホールディングスにはない。もちろん、創業者・堤康次郎から堤義明・堤清二に事業が相続される中で、西武グループとセゾングループに分かれ、別々に発展していったという事情はある。そしてセゾングループは解体した。スーパーの西友はウォルマートに買われた。一方で西武ホールディングス関連のクレジットカードは、セゾンカードが発行している。
ウォルマートには最近、西友を売却するという話が出ている。さまざまな買収先が取りざたされる中で、西武ホールディングスも買収に名乗りを上げてもいい。沿線価値向上のため、スーパーを持つことは大切だからだ。また、セゾンカードとも協力し、西友も含めた西武沿線生活での利便性の高いクレジットカードを発行してもらうことも必要だ。もちろんPASMO一体型とする。
西友では割引率の高いウォルマートカード・セゾンがよく使われており、これと同等の割引率のカードとすべきであろう。
各社沿線価値を向上させようと力を入れる中で、西武鉄道や西武ホールディングスの動きは注目されている。
「選ばれる沿線」をめざす競争が、私鉄各社の価値を高め、沿線住民の生活の質を向上させる。