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飲食店の経営理念構築事例「コロナ前に作った経営理念に違和感はないか?」

三ツ井創太郎飲食店コンサルティング(株)スリーウェルマネジメント代表
(筆者作成)

飲食店コンサルティング会社スリーウェルマネジメント代表コンサルタントの三ツ井創太郎です。

「これからの時代の飲食店経営は何が重要なのか」

こうしたテーマで講演をすると、経営者の方から「これからはどんな業態が流行りますか?」「有効な集客戦略は何ですか?」といった【やり方】についての質問を頂く事が多いのですが、私はまず【やり方】よりも、 【あり方】を見直す事が重要だと思っています。

この【あり方】の重要性を改めて痛感した事例をご紹介しましょう。

なお、今回の内容はYouTubeチャンネルでも解説していますので、よろしければ下記よりご覧ください。

(筆者作成)

繁華街で和食業態を5店舗経営されているA社長からのご相談内容は

「繁華街の和食業態を焼肉業態に変えていきたい」

というご相談でした。

「すぐにでも内装工事をして、既存の和食店を1店舗、焼肉店として早急にリニューアルをしたい」「ファサードはどんな感じが良いか?」「メニューは?」「仕入れ先は?」「オープニング販促は?」「いつくらいにオープンできそうか?」など、様々なご質問をされるA社長でしたが、私はまず、A社長の会社についてヒアリングすることから始めました。

A社長の会社は経営理念や経営計画書等もしっかりと作られておりました。そして、毎年全店舗をお休みにして社員の表彰式を行うなど、組織マネジメントにも非常に精力的に取り組んでおられました。経営理念を拝見させて頂くと、そこには次のように記してありました。

【A社の経営理念】「和食の力で地域に笑顔を創造する」

【A社の経営ビジョン】5年後までに和食店を20店舗出店する

既存店が全て和食店という事で、当然ながら「和食店の展開」を前提とした経営理念、経営ビジョンが掲げられていました。今回その1店舗を急遽焼肉店にリニューアルされるという事です。

ただ、経営理念や経営ビジョンは今までのまま良いのでしょうか?さらに、焼肉店の開業について既存のスタッフにもまだ伝えていないという事でした。

そこで私はA社長に提案をさせて頂きました。

「A社長、業態リニューアルも大切ですが、まずは経営理念、経営ビジョンの見直しをしませんか?そして今回焼肉店を開業する目的を新たな理念・ビジョンと共にスタッフに説明する場を設けましょう。

業態変更のコンサルティングを依頼しようと思っていたのに、私から経営理念、経営ビジョンの見直しを提案されて、A社長は少し驚いた様子でした。

外食産業は10年~11年周期で不景気を繰り返しています。調子が良い時は追い風にのってスイスイと進んでいけるのですが、コロナ借入金の返済や、景気低迷等の強烈な向かい風が発生すると、事業はあっと言う間に危機にさらされてしまいます。私はこれを船で海をわたる「航海」に例えて説明をさせて頂きました。

【理念経営を航海に例えた図】

(筆者作成)
(筆者作成)

コロナ禍や景気低迷期のような厳しい大波が押し寄せる状況においても、経営者は自社の存在意義(経営理念)や、将来に向けてどのような目標で事業活動をしていくのか(経営ビジョン)といった「あり方」をスタッフに伝えていかなければなりません。

経営を「航海」に例えると、経営者は船長であり、船長は羅針盤(経営理念)を頼りに、船員(スタッフ)と共に目的地(経営ビジョン)に向かって大海原を航海(経営)していく事が大切です。

経営者は常に自分自身で進むべき方向を意思決定していかなければならず、どんなに強い経営者でも“大波”の時の意思決定には不安や恐怖、迷いがつきまといます。そんな時にこそ、自分の感情だけに意思決定を左右されない、またその感情を自ら冷静に検証する(軸がブレている事を認識する)ための羅針盤(経営理念)が重要なのです。

そしてもう一つ忘れてはいけない重要なことは、

「羅針盤が無い」「目的地が分からない」船にはスタッフも乗りたがらない

という事です。

最近当社には「長引いたコロナ禍で会社の方針が明確に打ち出せなくなった事で長年働いてきたスタッフが退職してしまった」というご相談が数多く寄せられるようになりました。大荒れの中での航海、船長も不安だと思いますが、不安そうな船長を見ている船員はもっと不安になるのも無理はありません。

コロナ禍や景気低迷という「大荒れの時代の航海」だからこそ、こうした羅針盤と目的地=経営理念、経営ビジョンをはっきりと示す事が重要なのです。大荒れの海で羅針盤もなく航海をしたら、すぐに強風に煽られて船は転覆してしまうでしょう。そして、大荒れの時代は10年~11年毎に必ず訪れるのです。

(写真:photoAC)
(写真:photoAC)

A社長にこのお話をさせて頂くと納得して頂き、経営理念とビジョンを見直す事にしました。そして、新しくなった経営理念とビジョンをスタッフに向けて発表するミーティングを行いました。なぜ今まで和食店を展開していた自社が焼肉店にチャレンジするのか?といった出店目的等について丁寧にスタッフに話をすると、一人の料理長からこんな発言がありました。

「社長!その焼肉業態のオープン、私にやらせてもらえませんか!」

A社長としては、和食の料理人に焼肉店を担当させる事は本人達が嫌がると思い、新たに焼肉店経験者の料理長を採用するつもりでいましたが、既存の料理長が立候補してくれたのです。このスタッフは社歴も長く、他のスタッフからの信頼もあったので、ミーティングの場は一気に「焼肉新業態応援モード」になりました。とはいえ、焼肉と和食では必要な調理技術が異なります。そこでこの料理長には、A社長の知り合いの焼肉店で1カ月間の研修を受けてもらいました。

料理長が研修から戻ると、早速私とA社長、料理長を交えて業態開発のミーティングをスタートしました。異業種といえども、長年の経験から焼肉店の調理技術をしっかりとマスターしてきた料理長。長年培ってきた和食の技術と今回の研修で学んだ焼肉店の技術を融合させたメニューを盛り込んでいきました。

その後、A社長からは

「三ツ井さんの言う通り、スタッフに新たな理念やビジョン、焼肉店をやる目的をしっかりと話をしておいて良かったです。一番懸念していた料理長も決まりましたし!」

と大変喜んで頂きました。

おそらく、以前の経営理念やビジョンのまま焼肉店をオープンさせていたら、会社の中に大きな「違和感」を残していたと思います。この「違和感」はスタッフのモチベーション等にも悪影響を与えます。

皆様の会社でも、お店の未来に向けて新たな戦略を進める際には、ぜひ既存の経営理念やビジョン等との整合性も考えてみて下さい。

最後までお読み頂きありがとうございました。

(筆者作成)

<筆者プロフィール>

飲食店コンサルティング会社スリーウェルマネジメント

代表取締役 三ツ井創太郎

https://www.threewell.co/business

飲食店コンサルティング(株)スリーウェルマネジメント代表

㈳日本フードビジネス経営協会代表理事。飲食企業で店長、SV、事業統括の経験を経た後、2011年に東証一部上場のコンサル会社である(株)船井総合研究所に入社。飲食コンサルティング部門のリーダーとして数多くの飲食店支援を行う。2016年飲食店特化のコンサルティング会社(株)スリーウェルマネジメントを設立。「飲食店オーナー様に徹底的に親身なサポートを!」を理念に、個人店から大手チェーンまで日本全国の飲食店へ支援を行う傍ら、テレビのコメンテーターや行政、金融機関と一体となった飲食店支援も行う。著書「V字回復を実現する! あたらしい飲食店経営35の繁盛法則 」はアマゾンの外食本ランキングで1位を獲得。

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