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特急「かいじ」が8時42分新宿着 JR東の3月ダイヤ改正で便利になる都心へのアクセス

小林拓矢フリーライター
「かいじ」に使用されるE353系(筆者撮影)

 山梨県人の悲願といっても過言ではない、JR東日本のダイヤ改正が来年3月12日に行われる。これにより、特急の午前9時前の新宿着がようやく実現するのだ。

 各地から主要都市に向かう特急列車は、便利にできている。新幹線はいうまでもなく、在来線特急でも地方から東京や大阪、福岡、札幌などの大都市に9時前につく列車は、多く運行されている。東京圏は新幹線がメインであり、盛岡・新潟・金沢・姫路からは9時に東京にいるようにすることは可能となっている(姫路は9時ジャスト東京着と、ギリギリではある)。在来線でも、いわきを出発し上野に9時までに着くことは可能だ。

 大阪も東京・博多・金沢から、朝9時までにつくことは可能になっている。

 しかしそれよりもはるかに近い甲府から、新宿に朝9時までに特急でつくことはできないようになっている。平日だと9時04分に新宿につく「かいじ2号」は、7時12分に竜王を出発し、7時18分に甲府を出る。それより早く都心に行くには、5時台~6時台前半の普通列車を使用するしかない。

8時42分新宿着の実現

 3月のダイヤ改正で、「かいじ2号」は竜王6時58分・甲府7時03分に発車し、新宿には8時42分に着くことになった。ほかのところから都心に朝9時までには着くのに、なぜ甲府ではそれは難しいの? というのは筆者も含めた山梨県人の多くが考えていたことだった。そのため山梨県の人は、東京で午前中に何かある際に前泊を必要とするか、もしくは早朝の普通列車で出かけるしかなかった。高速バスもあるものの、都心に入る手前で渋滞することが多い。

 そんな中で、定時性に優れた鉄道が9時前に新宿に着くというのは、画期的なことである。

 なぜ、新宿に8時台に着くことができるようになったのか。

 3月ダイヤ改正では、これまで朝のもっとも利用者の多い時間帯に中央快速線では30本走っていた列車を、29本に減らす。そこが空いたがゆえに、ここに特急を入れることができたのだ。

 甲府から新宿まで1時間39分と、ほかの特急に比べて時間はかかっている。また、八王子を8時03分に発車、新宿着8時42分と、この区間で39分を必要とする。

 山梨県人の多くの人と中央線について話をする際に、八王子、もしくは立川から新宿の間が高速化できればという話になる。ご承知のようにこの区間は平日でも列車の本数が多い。そこでゆったりとした走りになる。

 そんな区間だと、朝の時間帯に遠方からの特急を入れることはできない。しかしこの改正で、それが可能になったのだ。

 他にも、首都圏では同様のケースがある。

変わる朝時間帯の特急利用(JR東日本プレスリリースより)
変わる朝時間帯の特急利用(JR東日本プレスリリースより)

「成田エクスプレス」「さざなみ」の朝が便利に

「成田エクスプレス」は都心から成田空港へのアクセス特急として知られるものの、時間帯によっては千葉や四街道・佐倉・成田に停車し、都心とこれらの地域を行き来する列車としても利用されている。

 朝時間帯の「成田エクスプレス2号」は、現在は成田空港発7時43分・東京着9時03分だったものが、成田空港発7時37分・東京着8時52分となり、所要時間は5分短縮される。なお、ここで2つの列車に分かれ、大船には9時42分、新宿には9時18分に到着する。近年、「成田エクスプレス」は時間帯によっては通勤などの利用も目立ち、その利用が便利になるように新しいダイヤができた。

 やはり、背景は朝通勤時の最多本数時間帯の本数減である。総武快速線は19本から18本に削減する。

 また、朝の時間帯の「さざなみ」も便利になっている。平日の朝時間帯「さざなみ」は3本、君津~東京間で運行されている。東京着は6時57分・8時46分・9時13分。遅い時間帯の9時13分東京着の運行を取りやめて、新たに木更津7時03分発・東京8時10分着の列車を運行する。これまでの9時13分着の列車は利用状況が悪いので運転を取りやめるという。

 これも、都心部の本数減によりできたことである。「さざなみ」は蘇我までは内房線、そこから京葉線に入り東京駅へと向かう。京葉線は最多本数時間帯に15本運行していたものが、13本に減少することになった。

「JR東日本は厳しい」と一般には言われるものの……

 これらの列車が設定される背景となったのは、コロナ禍以降の朝通勤時間帯の利用者減少や、JR東日本が通勤時間帯の列車の需要をもうもとには戻らないと考えていることがある。普通列車の利用者が減ったのなら、ほかのところを便利にしよう、言いかえるとほかのところで稼ごうという考えがよく見える。

中央快速線のE233系(筆者撮影)
中央快速線のE233系(筆者撮影)

 もっとも、筆者は山梨県出身なので、今回の「かいじ2号」の新宿8時台着を好意的に見ている。東京圏の人から見ると普通列車の本数減でJR東日本は厳しいとなるのだが、そのすき間で遠方からのアクセスが便利になり、東京からもっと離れた地域でも都心にもっと早く着けることを考えるとつらいものがあったため、おどろきを感じさせるのだ。

 たとえば、大都市でしか行われない資格試験や、各種入学試験にその日に出かけても問題はないとなると、利便性は感じられるだろう。都心での午前中の会議なども簡単に出席できる。「なぜ朝来られないの?」ということを聞かれなくて済むのだ。

 そのほかにも、高崎5時52分発・上野7時37分着の「スワローあかぎ4号」の設定や、大崎駅での新宿発着特急「湘南」の停車という、利便性の向上がこの春の改正では行われる。

 来春のダイヤ改正では本数減ばかりが強調して報じられるものの、こうした一面もあることも、多くの人には知っていただきたい。

フリーライター

1979年山梨県甲府市生まれ。早稲田大学教育学部社会科社会科学専修卒。鉄道関連では「東洋経済オンライン」「マイナビニュース」などに執筆。単著に『関東の私鉄沿線格差』(KAWADE夢新書)、『JR中央本線 知らなかった凄い話』(KAWADE夢文庫)、『早大を出た僕が入った3つの企業は、すべてブラックでした』(講談社)。共著に『関西の鉄道 関東の鉄道 勝ちはどっち?』(新田浩之氏との共著、KAWADE夢文庫)、首都圏鉄道路線研究会『沿線格差』『駅格差』(SB新書)など。鉄道以外では時事社会メディア関連を執筆。ニュース時事能力検定1級。

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