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阪神淡路大震災から28年 食品業界は食品ロス削減のために非常時のルール緩和を

井出留美食品ロス問題ジャーナリスト・博士(栄養学)
1995年1月18日、阪神淡路大震災を報じるフィリピンインクワイアー(筆者撮影)

1995年1月17日5時46分に発生した阪神淡路大震災。あれから28年が経つ。当時、筆者は青年海外協力隊としてフィリピンに赴任していた。フィリピンのメディアも、日本で起きた大震災を大きく報道した(1)。

非常時は食品業界3分の1ルールの「販売期限」を撤廃できないか

あれから今に至るまで、自然災害が何度も発生してきた。そのたびに、食品業界に存在する商慣習(ルール)に縛られ、貴重な食品が無駄になってしまうのをもどかしく感じている。

たとえば2018年の西日本豪雨では、道路が寸断され、コンビニに向かうトラックが道を進むことができず、販売期限の直前に到着したことがあった(2)。

西日本豪雨によりトラックが進めず、販売期限ギリギリに到着し、廃棄される食品(コンビニオーナー提供)
西日本豪雨によりトラックが進めず、販売期限ギリギリに到着し、廃棄される食品(コンビニオーナー提供)

食品業界では、賞味期限や消費期限ギリギリまで売ることはしない。その手前、おおむね期限全体の3分の1の期間を差し引いたところに設定される「販売期限」で商品棚から撤去される。いわゆる業界の「3分の1ルール」だ。おにぎりや弁当、サンドイッチなどの場合は、消費期限が切れる1時間前から3時間前。加工食品の場合は、賞味期限6ヶ月のものなら賞味期限があと2ヶ月(3分の1)残っている状態で、賞味期限12ヶ月なら賞味期限が残り4ヶ月(3分の1)残っている状態で、商品棚から撤去され、処分される。

食品業界の3分の1ルール(業界の情報を基にYahoo!JAPAN制作)
食品業界の3分の1ルール(業界の情報を基にYahoo!JAPAN制作)

西日本豪雨の被災地にあるコンビニオーナーに取材した際、「食べ物に困っている人に配ってあげたかった」と話していた。こんな時こそ、「3分の1ルール」に縛られず、期限ギリギリまで販売し、残ったものは必要な方へ届けることはできないだろうか。

臨機応変に柔軟に対応したセイコーマート

一方で、臨機応変で柔軟な対応が功を奏したことがあった。北海道を基盤に経営するセイコーマートだ。2018年の北海道地震では、カツ丼にする予定だったご飯を塩むすびにし、被災者に配布した。停電になったので、車のバッテリーにつないで営業した。「誰のために」商売しているのかがよく伝わってくる姿勢だった。実際、筆者の知人が、この塩むすびを受け取って、写真を撮っていた。北海道旅行中、地震に遭遇したそうで、今でも印象深く覚えているとのこと(3)。

セイコーマートが被災者に提供した塩むすび(被災者提供)
セイコーマートが被災者に提供した塩むすび(被災者提供)

気候変動の影響で、毎年のように自然災害が発生している。ここ1、2年で見ても「100年に一度」「1000年に一度」レベルの自然災害が発生しており、2021年8月の世界気象機関の発表によれば、過去50年間で、このような自然災害は5倍に増えている。その経済損失は3兆6,400億ドル(約400兆円)にも及ぶ。

そうであれば、「必ず起きる」前提で、いざという時には、業界の商慣習である「3分の1ルール」の販売期限を杓子定規に守るのではなく、柔軟に、臨機応変に対応することが必要ではないだろうか。

阪神淡路大震災
阪神淡路大震災写真:ロイター/アフロ

消費者としてできる「ローリングストック法」

われわれ消費者として、このような自然災害に備える方法は「ローリングストック法」だ(4)。2011年3月11日に発生した東日本大震災以降、注目を浴びてきた。日頃からよく使う食品庫などに常温保存できるものを備蓄しておき、日常的に使っては、使った分だけを買い足していくという方法だ。

お薦めできる食材としては、レトルトカレーやパスタソース、パックご飯、缶詰、乾麺、真空パックの切り餅などが挙げられる。忙しい日の昼食や夕食、雨や雪が降って買い物に行けない時、これら備蓄食品を使って食事を作る。使ったら、使った分だけを、次の買い物で買い足していく。これなら、賞味期限を随時チェックできるし、知らずに切れてしまって無駄にすることがない。備蓄量としては、家族全員が1人につき7日間食べられるぐらいの量があると安心だ。

パン・アキモトのパンの缶詰、最近は5年保存も誕生した(提供・パン・アキモト)
パン・アキモトのパンの缶詰、最近は5年保存も誕生した(提供・パン・アキモト)

ペットボトルのミネラルウォーターはすぐ捨てないで

ペットボトルに表示されている賞味期限は、実際には「おいしさのめやす」ではない。この日付までは、ここに表示されている容量がちゃんと入っていますよという意味だ。ペットボトルの容器を介して水が蒸発するため、長期間保管していたペットボトル入りのミネラルウォーターは、表示量を下回る時が来る。そうなると、計量法に抵触し、販売できなくなるためだ。ただし、販売できなくなるだけで、確認して飲めれば飲用可能だ(5)。

ペットボトルのミネラルウォーターの備蓄を啓発するサントリーのPOP(筆者撮影)
ペットボトルのミネラルウォーターの備蓄を啓発するサントリーのPOP(筆者撮影)

自然災害は、起きてほしくない。だが、起きる前提で、非常時に備え、命の糧となる水と食料を無駄にしないために、知っておかなければならないことがある。ぜひ家族や友人、同僚にも伝えてほしい。

阪神淡路大震災で亡くなった方のご冥福をお祈り申し上げます。

参考資料

1)阪神淡路大震災の当日、フィリピンで人々はどう行動したか(井出留美、Yahoo!ニュース個人、2018/1/17)

2)「廃棄1時間前に入ってきたパン、ほとんど捨てた」食料が運ばれても西日本豪雨被災地のコンビニが嘆く理由(井出留美、Yahoo!ニュース個人、2018/7/18)

3)「北海道の誇り」「コンビニ顧客満足度5年連続1位」セイコーマートがあの日握ってくれた塩むすび(井出留美、Yahoo!ニュース個人、2020/10/9)

4)災害時に心強い食料品の備え「ローリングストック法」って?(パナソニック、2020/3/10)

5)賞味期限切れ備蓄はすぐ捨てないで!内閣官房はじめ20府省庁が賞味期限切れ含めた災害用備蓄食品の寄付(井出留美、Yahoo!ニュース個人、2021/7/10)

食品ロス問題ジャーナリスト・博士(栄養学)

奈良女子大学食物学科卒、博士(栄養学/女子栄養大学大学院)、修士(農学/東京大学大学院農学生命科学研究科)。ライオン、青年海外協力隊を経て日本ケロッグ広報室長等歴任。3.11食料支援で廃棄に衝撃を受け、誕生日を冠した(株)office3.11設立。食品ロス削減推進法成立に協力した。著書に『食料危機』『あるものでまかなう生活』『賞味期限のウソ』『捨てないパン屋の挑戦』他。食品ロスを全国的に注目させたとして食生活ジャーナリスト大賞食文化部門/Yahoo!ニュース個人オーサーアワード2018/食品ロス削減推進大賞消費者庁長官賞受賞。https://iderumi.theletter.jp/about

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