「北海道の誇り」「コンビニ顧客満足度5年連続1位」セイコーマートがあの日握ってくれた塩むすび
2020年度のJCSI (Japanese Customer Satisfaction Index:日本版顧客満足度指数)が9月16日に発表された。スーパー、ホテル、銀行など9業種のうち、コンビニ部門ではセイコーマートが5年連続1位を獲得した。この調査は、顧客満足度を数値化・見える化した、日本最大級の顧客満足度調査だ。これまで10回の調査のうち、9回、1位を獲得している。
セイコーマートは、北海道内に1,132店舗、関東に93店舗、グループ店舗数は合計1,225店、売上高は約2,000億円。北海道内は175市町村に店舗展開しており、人口カバー率は、4町村を除き、実に99.8%に達している。
セイコーマートは、北海道内のコンビニ店舗数ではダントツ1位だ。
絶滅危惧種指定のニホンウナギ、即座にさんまの蒲焼に切り替え
セイコーマートのエピソードで最初に知ったのは、2013年に絶滅危惧種に指定されたニホンウナギの販売をすぐにやめて、さんまの蒲焼重に切り替えたことだ。
筆者は、今や希少となっているうなぎは、コンビニ・スーパーの全国チェーンで大量販売するのではなく、うなぎ専門店でのみ販売し、大切に食べるのがいいと考えている。うなぎ専門店の中には、うなぎに敬意を表し、かきいれ時である土用の丑の日に休業し、うなぎの供養をしている店もあるくらいだ。
ニホンウナギが絶滅危惧種に指定されてから7年、2020年になっても今だにコンビニ・スーパーでは、夏になると「うなぎ」のチラシやのぼりを出して精力的に売り出しているが、セイコーマートの対応は本当に早かったと驚嘆する。
あの日の忘れられない塩むすび
その次に知ったのが、2018年9月に発生した北海道地震で、カツ丼にする予定だったご飯を、よりたくさんの人にゆきわたるよう、急遽、塩むすびに切り替えたエピソードだ。
このエピソードをSNSに投稿したら、なんと、このおむすびを実際に買って食べた方がいらっしゃった。筆者のSNSを見て、初めて、カツ丼になる予定だったご飯だと知ったそうだ。その方の言葉を、ご本人に了解を得た上で、2018年当時、セイコーマートが販売していた塩むすびの写真とともにご紹介したい。
ニホンウナギの絶滅危惧種指定は、関係者の間ではある程度予想できていただろうが、震災は突如訪れるものだ。そのような時、セイコーマートは臨機応変で柔軟な対応をとった。その姿勢が評価され、人間味あふれる対応が共感を生んだ。被災して食べ物に困っている人にとって、塩むすびは、心と体に染み入る味だったことだろう。
人、店、規格外・・・もったいないを活かす姿勢
セイコーマートは、様々なものを活かす取り組みをしている。2020年9月16日から18日まで開催された第31回 廃棄物資源循環学会研究発表会では、セイコーマートを経営する株式会社セコマの丸谷智保(まるたに・ともやす)代表取締役会長が、「北海道の地域循環経済の魅力を語る」と題し、セコマの取り組みについて発表した。その中から一部をご紹介したい。
1)小売店が閉店してしまった紋別市での開店
北海道紋別市では、住民900人が愛用していた小売店が閉まってしまい、セイコーマートに出店依頼があり、なんと、ここの店を住民がお金を出し合い、購入して提供してくれたという。
丸谷会長によれば、人件費と光熱費を抑えるため、紋別市と話し合い、朝6時30分から21時までの、1日14.5時間営業に決めたそうだ。
2017年8月1日の開店の様子は、北海道新聞が動画でアップしている。
地域からの要請に応えて出店した事例は、紋別市だけでなく、小清水町、滝川市東滝川、池田町、初山別(しょさんべつ)村、苫小牧(とまこまい)市苫東(とまとう)地区、札幌市などにもあるとのこと。
2)規格外農産物の活用
セコマは、北海道内に6農場、茨城県に1農場、合計7農場(120ヘクタール)を保有している。年間約8,500トンの農産物を使ううちの4分の1を自社で栽培・生産しており、その過程で、どうしても発生してしまう規格外の農産物を活用している。
同じような事例が、少し形のいびつなかぼちゃです。これは、規格外ではじかれてしまうものなので、かぼちゃのプリンにしたんです。これも搾汁して、プリンにしたり、かぼちゃのモンブランやシュークリームにしたりしています。われわれにとって、意外な経済効果がありました。
出典:2020年9月、廃棄物資源循環学会研究発表会の丸谷会長の発表
製品化する前の100の原材料を、90%の歩留まりにするのか、95の歩留まりにするのか。これによって、食品ロスというのは削減されます。
皆さまご承知のとおり、食品ロスの多くは製造過程で出てきます。製造過程の食品ロスをいかに削減するかが非常に大事です。
最初にお話ししたように、いろんな施策があると思っています。契約農家と契約しまして、市場から取る野菜の量は1割に抑えたい。なぜかというと、新鮮なものをおいしく1次加工できるからです。食品の場合、加工度が低いほうがいい商品になるものです。残念なことに、原材料の価格変動の影響度が高いです。たとえばレタスにしても、100円のレタスが300円、急に上がっちゃうということは多々あるわけで、いかに安定した価格で原料を手に入れるかというのは非常に重要なことです。
私どもでやっているのは、流通過程で生じるロス、いわゆる捨てられるようなものを、自分たちで使う。規格外の、このように曲がったきゅうり、これは総菜やサラダにしたら使えます。漬物工場に持っていって漬物にしたりしておりまして、ほぼ捨てることがない使い方をしています。
サンドイッチを作るときに出てくる食パンの耳はラスクにしたり、いろんな形で、できるだけ食品ロスが出ないような形に、原材料の歩留まりを上げる努力をしています。
出典:丸谷会長の発表
3)季節変動のある閑散期の雇用
丸谷会長によれば、この搾汁作業は、季節変動のある雇用を、通年雇用にできる効果もあったという。アイスクリームの製造事業は、夏にピークがあり、秋には閉まってしまう。昨今、臨時で人を雇用するやり方は難しくなっていたが、搾汁作業は、秋にできた果物を収穫し、秋から冬にかけて搾汁作業が発生するので、一年通しての雇用が可能となった。
北海道大学らと連携し、プラチナ触媒を使っての食品ロス削減
2020年9月29日、セコマグループは、北海道大学、北海道科学技術総合振興センター、北海道立総合研究機構とともに、食品ロスを削減するコンソーシアムを設立したと発表した。野菜や果物の鮮度を保ち、食品ロスを減らすのが目的である。
2013年、北海道大学触媒科学研究所の福岡淳教授が、シリカ担持(たんじ)プラチナ触媒を開発し、2020年現在も改良を続けている。このプラチナ触媒が、野菜や果物から発生するエチレンを除去し、鮮度を保って腐敗を防ぐ。
2018年4月には、北海道大学と株式会社セコマが「地域創生連携協定」を結び、野菜保管倉庫でのプラチナ触媒の効果を確認した。
2019年6月から12月には、野菜保管倉庫で実証実験をし、小松菜・きゅうり・キャベツ・大根・ピーマンなど、倉庫で長期保管した野菜の傷みが抑えられ、平均5%程度、歩留まりが向上した。
このエチレン抑制による野菜・果物の鮮度保持と食品ロス削減については、米国の企業も開発し、商品化している。また、日本でも、関西紙工株式会社が販売している鮮度保持袋「愛菜果(あいさいか)」は、エチレンガスを吸着・透過させる物質を加工しており、家庭で使うことができる。筆者も普段から野菜保存袋を使っている。
以上、セイコーマートの塩むすびのエピソードと、もったいないを活かす取り組みの一部を紹介してきた。
昨今、気候変動の影響があり、自然災害が毎年のように多発している。そんなとき、食品業界のルールである「欠品禁止(小売がメーカーに取引停止を課す)」「3分の1ルール(納品期限や販売期限で返品・廃棄)」などに杓子定規にとらわれていては、ただでさえ食品が不足する事態に、せっかく食べられるものを廃棄して無駄にしてしまうことになってしまう。セイコーマートの、災害時の臨機応変で柔軟な対応を見習いたい。
本日2020年10月9日に発売する筆者の新著『あるものでまかなう生活』(日本経済新聞出版)でセイコーマートの取り組みを紹介したところ、出版元の日本経済新聞出版が独自に書店POPを作ってくれた。そこには「人間味あふれるコンビニチェーン セイコーマートが紹介されています!」と書いてあった。
企業は人から成り立っている。北海道在住の知人は「セイコーマートは北海道の誇り」と話していた。セイコーマートが多くの人から好かれ、顧客満足度調査で、これまで10回中9回も1位を獲得してきたのは、「人間味あふれる」ところが一番のポイントではないだろうか。
謝辞
2020年9月18日、廃棄物資源循環学会研究発表会での丸谷会長の発表内容を記事として紹介することを快諾してくださった、株式会社セコマの広報部と、丸谷智保代表取締役会長に深く感謝申し上げます。
参考情報
2020年9月16日発表 2020年度JCSI(日本版顧客満足度指数))第1回調査結果発表 オーケー スーパーマーケット業種で 10 年連続1位 公益財団法人日本生産性本部 サービス産業生産性協議会
2020年度 JCSI(日本版顧客満足度指数)第1回調査結果 ~オーケー 10年連続1位~ 日本生産性本部
鮮度保持技術の活用による歩留まり向上を目指す フードロス削減コンソーシアムを設立 ~食品の廃棄ロス削減によって SDGs に貢献~(2020年9月29日、北海道大学、セコマほか)
セイコーマート赤尾昭彦会長が語る「さんまの蒲焼重」に込めたセコマの商品政策スピリット(リアルエコノミー、2014年7月28日)
セコマの「神対応」、教訓あったからこそ 社長が語った(朝日新聞、2018年10月5日付、有料会員限定記事)
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