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韓国に「圧勝した」ことは伝えても日本に「大敗した」ことは黙殺! 労働新聞が伝えたアジア大会

辺真一ジャーナリスト・コリア・レポート編集長
北朝鮮はアジア大会の女子サッカーの決勝進出を写真入りで伝える(労働新聞から)

 先月23日から熱戦が繰り広げられていた杭州アジア大会が10月8日に閉幕した。

 「新型コロナウイルス」の流入を警戒し、北朝鮮当局が3年にわたって国境を封鎖したため東京五輪にも参加できず、対外活動の自粛を強いられていた北朝鮮スポーツ界も今大会には陸上、サッカー、バスケットボール、バレーボル、水泳、柔道、レスリング、射撃、体操、卓球、アーチェリー、重量挙げ、ボクシングなど16競技に185人の選手を送り込んでいた。

 結果は金11、銀18、銅10個で総合順位は10位だった。

 順位は前回(2018年のジャカルタ大会)と変わらなかったが、金メダルの数は前回よりも1個少なかった。それでも銀は前回よりも6個多く、銅を含めた全体のメダル数は前回(37個)よりも2個増えていた。

 アジア45カ国(及び地域)から1万人以上が出場する国際大会では銀も銅もそれなりに価値があるが、北朝鮮はどういう訳か金メダル以外には関心を示さない。スポーツでは「金メダル第一主義」が北朝鮮なのである。

 そのことは金正恩(キム・ジョンウン)総書記が2015年3月に開催された日本の国体にあたる全国体育人大会に宛てた「スポーツ大国建設に向けた綱領指針」の中に示されている。「指針」には以下のようなことが盛り込まれている。

 「走るならば、世界の先頭で走り、勝っても痛快に勝たなければならない。100回倒れても100回立ち上がって、最後まで戦って勝利するのが『白頭の革命精神』を具現したチュチェ朝鮮のスポーツ精神である」

 「祖国の名誉を掛け戦い、勝ち取った一つ一つの金メダルは勝利の信心を与えてくれる千金よりも貴重な財富である」

 「体育人は金メダルで祖国を守り、共和国国旗を世界で最も高くはためかせる党の頼もしい体育戦士、偉大な金正恩時代の体育英雄にならなければならない」

(参考資料:北朝鮮選手は「スポーツ強国建設」前哨戦の「戦士」「突撃隊」! ラフプレーの原因は「体育綱領」にあり!)

 今大会の北朝鮮選手らの活躍については一般国民が目に触れる「労働新聞」では主に3面に国営通信「朝鮮中央通信」から配信された記事が掲載されていた。

 開幕から3日後の9月28日に女子射撃(10mランニングターゲット)団体が今大会金メダル第1号を、また女子体操もこの日個人種目(跳馬と段違い平行棒)で金メダルを2個獲得したことを29日付に伝えたのを皮切りに「労働新聞」は金メダルを獲得すれば、その都度伝えていたが、銀と銅の場合は単独の記事扱いとはなっておらず、金メダル関連記事の最後に付け加えられていた。また、金メダルの獲得のみ「栄誉の」という枕詞が付いていた。

 例えば、女子射撃で金メダルを獲得した時は「栄誉の第1位を勝ち取る成果を手にした」と報じ、また女子重量挙げの選手が金メダルを得た時は「優勝の栄誉」を手にしたと報じていた。

 興味深いのは決勝で勝った場合は対戦相手の国を明記するが、負けて銀メダルに終わった場合は、対戦相手の国については一切触れていないことだ。

 例えば、女子レスリングフリースタイル62kgでムン・ヒョンギョン選手が日本の尾崎野乃香選手に逆転勝利し、金メダルを手にした時は「労働新聞」は10月7日付3面に「我が国のムン・ヒョンギョン選手が女子フリーレスリングで優勝」の見出しを掲げていたが、記事をよく読むと「日本選手に勝って1位となった」と報じていた。

 女子のレスリングではフリースタイル50kg決勝と57kg決勝で、また男子でもフリースタイル57kg決勝で北朝鮮は日本と対戦し、いずれも敗れているが、「労働新聞」には対戦相手の国は明記されないまま「銀メダルを手にした」となっていた。

 もう一つ興味深いのはどの競技も予選を含め決勝までは一切報じていないのに女子サッカーだけは準々決勝、準決勝と2度にわたって報じていたことだ。

 女子サッカーが韓国との準々決勝で勝利した9月30日は北朝鮮は女子重量挙げで金メダルを2個獲得していたが、翌10月1日付の「労働新聞」には女子重量挙げの金メダル関連記事とは別途に「我が国の女子サッカーチームが準決勝に進出」との見出しの下、北朝鮮が韓国を相手に4対1で勝ったことが単独記事として載っていた。

 北朝鮮が韓国という国名を使わず「傀儡(かいらい)」という言葉を用いたことで日本でもこの南北対決は話題となったが、「労働新聞」の記事には「試合は我がチームが傀儡チームに4対1という圧倒的な点数差で勝利を収めた」と書かれてあった。「圧倒的」という言葉は現在、南北の指導者が「(敵から)挑発があった場合、圧倒的な力でやっつける」と相手に向かって頻繁に発している慣用語である。

 また、女子サッカーがウズベキスタンとの準決勝に勝った際も10月4日付に「我が国の女子チームが決勝競技に進出」との見出しを載せ、ウズベキスタンを相手に前半戦9分、18分、前半アディショナルタイム2分に計3点、後半も46分、50分、63分、83分、アディシナルタイム1分と計5点を取り、「8対0で圧勝した」と報じていた。

 ところが、決勝で日本に敗れたことについては全く触れられてなかった。女子レスリングフリースタイル62kgで北朝鮮の選手が「日本選手に勝って1位となった」と報じた10月7日付の3面の記事の最後で「一方、女子サッカーの試合で我が国のチームは2位となった」と金メダルを取れなかったことをさりげなく伝えただけだった。

 日本との決勝戦は国民の期待に反し、1対4の大敗に終わったが、まさか「圧倒的な点数差で負けた」とは書けないであろう。これが北朝鮮の実情である。

(参考資料:日本に敗れた北朝鮮の男女サッカー監督は好対照! 女子監督は日本をリスペクト)

(参考資料:北朝鮮男子サッカーへの「処罰」は? 過去は2年間の出場資格停止から平壌開催権の剥奪まで)

ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て1982年朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動。98年ラジオ「アジアニュース」キャスター。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(最新著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「韓国経済ハンドブック」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など著書25冊

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